【酒井宏樹】個性派と好連携を築く「伝え方の技術」

2018/5/28
僕は同じサイドで組むアタッカーには、自分本位なぐらい要求してきてほしいと思っています。
そうすれば「じゃあ僕はこう動きます」と、その人の動きに合わせて動き方が決まるからです。
だから、(本田)圭佑くんとはすごくやりやすかったです。柏レイソル時代にコンビを組んでいたレアンドロ・ドミンゲスは自分本位すぎましたけどね(笑)。
そんなレアンドロに比べればマルセイユのチームメートであるフランス代表のフロリアン・トヴァンは、もう少し僕の意見に聞く耳を持ってくれています。
酒井宏樹(さかい・ひろき)
1990年長野県生まれ。2010年に柏レイソルでJリーグデビュー。 2011年にはチームのJ1優勝とともに、 ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月に初のA代表選出。2012年にドイツのハノーファー96へ完全移籍し、 2016年6月にフランスのオリンピック・マルセイユに加入。ツイッターアカウント:@hi04ro30ki
僕は自分を抑えることがストレスにはなりません。
根本的に自分に自信がなく、もともと「僕の要求がどれくらい伝わるだろうか......」という不安な気持ちがあるため、相手が自分の要求に100%は応えてくれなくても、自分の要求が30%でも40%でも伝われば、「相手に伝わった」「歩み寄れた」という達成感があります。
初めは30%や40%しか伝わっていなくても、それだけ伝わっていれば、あとは自分のアプローチの仕方を工夫して、その数字を引き上げていけばいいだけという考え方をしています。
気弱でも自分の意思を伝達
「強い人間に生まれ変わるために、多少強引にでも自分の要求をガンガン押し通せるようになろう」という話も聞きますが、気弱に見られる僕は、自分を抑えて相手の要求を聞いたうえで自分の要求をする方法で、ドイツとフランスでは自分の意思を伝えてうまくいっています。
その経験を通してわかったのは「無理に自分を変える必要はない」ということ。気持ちが弱いのであれば、その性格に応じた方法はいくらでもあります。
マルセイユでは、ディフェンス陣から「『もっと守備をしろ』とフロリアンにちゃんと伝えろ」と言われます。
だけど僕は彼が彼なりに頑張って守っているのがわかっているため、それ以上強く要求すると、今度は彼のストレスになってしまうと思い、「最低限これだけはやってほしい」と伝えたうえで、「でも最低限のことをやらないと、もっと苦しくなってよけいに守備に戻らなければいけないよ。そうなると、もっと体力を使うことになるよ」と言うようにしています。
するとフロリアンは「そうなるのは嫌だから、ヒロキに言われたことは絶対にやるよ」と約束してくれます。これが本当の信頼関係ではないでしょうか。
他には、守備で5つやってほしいことがあったら、そのうち絶対にやってほしい3つを試合前に話して、残りの2つは試合状況によって、うまくいかなかった状況が出たときに、「いま、うまくいかなかったでしょ。だったら、こういうプレーをしてくれたら、もっと良くなるんじゃないか」と言えば、ちゃんと伝わります。
うまくいくのであれば3つのままでいいし、必要以上に相手に情報を詰め込みたくはないので様子を見ながら、言うべき状況がきたら伝えようと考えています。
自分に自信がなくても、伝え方次第で相手に自分の意思は伝えることができます。
「自分が言われる立場だったらどう言われたいか」
「できるだけ相手がポジティブに受け止められるように伝える」
これらを常に心掛けています。
自然と信頼が構築される伝え方
ヨーロッパに来て、もっとも難しいと感じたのがコミュニケーションです。外国人とのコミュニケーションは、国の文化そのものが違うので考えていることを言葉にしてすり合わせていかなくてはいけません。
なかには感情をあらわにして強い口調で言ってやっと伝わる選手もいますが、僕は感情を前面に出すタイプではないから、何か伝えたいことがあるときは、まず相手のシチュエーションを褒めることを意識しています。
そのうえで「たまにはこういうことをやってくれたら僕はうれしい」と自分の意見を伝えています。
相手を否定することから入るのではなく、その人の意見をとにかく尊重する。それは、信頼関係の土壌を耕す行為と言えます。
これを積み重ねていくと、自分が普段からきちんとした練習態度をとっているだけで、何かあったときに相手も聞く耳を持ってくれるようになります。つまり、自然とお互いの信頼関係が構築されていくのです。
大切なのは、日々の自分の振る舞いがブレていないか、そして波がないか。ちゃんとした態度で練習をしていれば、その姿はみんなが見てくれています。
プラスアルファとして、自分の言葉にどれだけの説得力があるかが問われてきます。逆にそれさえあれば、むしろペラペラと必要以上のことをしゃべる必要もありません。
「お互いの成功のために」
これはサッカーに限らず、様々な世界にも当てはまるのではないでしょうか。
たとえば、会社で普段から仕事をサボり気味の人は、周囲からの信頼も得られていないと思います。そんな人から一方的に物事を頼まれたら、受けた側は「自分はサボっているのに、なんで私に頼むんですか」と反論したくなるのは当然だと思います。なぜなら、そこに説得力はありませんから。
一方で、いつも一生懸命に仕事をしている人から意見を述べられたり、頼まれごとをされたらどう感じますか?
その人の意見を聞こう、その人の期待に応えてあげようと考えるのが人間の本質だと思います。
信頼関係さえ築けていれば、アドレナリン全開の試合中に、多少強い口調で伝えても仲間は絶対に聞いてくれます。しかも、仲間であればそれを僕が怒っているとは認識せず、お互いの成功のために本音でぶつかっていると感じてくれるため、相手もちゃんと理解してくれるのです。
そこでは「お互いがパニックにならないように、いま修正しておこう」と発言するときもあれば、問題が発生する前にあらかじめ「いまのうちに修正すれば絶対にうまくいくから、チャレンジしてみないか?」と伝えるときもあります。
普段から最低限やることをやって、信頼関係をつくり、それでお互いに歩み寄る。これが僕が実践している伝え方の技術です。
(写真:望月仁/アフロ)