【酒井宏樹】不安に潰されず、受け流すための3ステップ

2018/5/27
サッカー日本代表としてのプレッシャーはすごく感じます。
国を背負っているわけですから、日本代表はやはり特別な場所です。
理想は、プレッシャーに打ち勝つだけの強靭なメンタルを身につけ、どんなに重圧がかかっても押しつぶされずに自分の力を発揮することでしょう。
でも、正直に言えば、僕には極度のプレッシャーに耐え続けられる度量があるとは思えません。強靭なメンタルを身につけるために、プレッシャーを正面から受け止めて実際に強くなれる人はそうすればいいと思いますが、強くなるどころか、その行為がかえってストレスになり、プレッシャーに押しつぶされパフォーマンスが低下してしまう僕のような人にはかえって逆効果です。
そこで僕が心掛けているのは、プレッシャーを「受け止める」のではなく「受け流す」ことです。
酒井宏樹(さかい・ひろき)
1990年長野県生まれ。2010年に柏レイソルでJリーグデビュー。 2011年にはチームのJ1優勝とともに、 ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月に初のA代表選出。2012年にドイツのハノーファー96へ完全移籍し、 2016年6月にフランスのオリンピック・マルセイユに加入。ツイッターアカウント:@hi04ro30ki
そのためには、あえて自分を過小評価してもいいとさえ思っています。「自分みたいな選手が国を背負っているなんておこがましい」「勘違いするな! 自分はそんなすごい選手じゃないぞ」と自らに言い聞かせています。
すごい選手ではないからミスもするし、失敗するのは当然。「自分はもともとその程度のレベルの選手だ」と、客観的に自分を下げて捉えてみる。
そうやって自分に課すハードルを引き下げていくことで気持ちがかなりラクになり、少しずつプレッシャーから解放されていきました。
自分を過小評価し、周到に準備
サッカーの世界では、一発勝負のカップ戦で下部のカテゴリーのチームがトップリーグのチームに勝つ番狂わせが時々起こります。
その要因のひとつに、下部のチームが「失敗しても失うものはない」とプレッシャーから解放された状態でチーム一丸となり試合に臨めることが挙げられます。
メンタルの強くない僕が無理やりプレッシャーに強くなろうとして、プレッシャーをまともに受け止めてしまうと、結果的にミスを恐れてプレーが萎縮したり、最悪の場合はパニックになって何もできなくなることだってあり得ます。
ならば、僕は自分へのハードルを引き下げてプレッシャーから解放されることで、プレーの質が向上するほうを選択し、少しでもチームの勝利に貢献したいと考えます。
とはいえ、本当にミスを連発していいわけではないし、試合には勝たなくてはいけない。そこでも「自分はすごくない選手」と過小評価をするからこそ、試合前の準備段階から周到になれる強みがあります。
試合前にはしっかり対戦相手のビデオを見て、マッチアップする選手を研究し、プレーの特徴はもちろん、相手がどういうプレーを嫌がるかまで徹底的に分析して試合に臨むようにしています。
プレッシャーに打ち勝つ強靭なメンタルを身につけるには、その人の生まれ持った性格や才能が大きく影響し、かつストレス耐性も必要になります。ですが、プレッシャーを受け流す技術は、誰もが後天的に身につけられると思っています。
自分自身を過小評価するというのは、ネガティブに聞こえるかもしれませんが、捉え方によってはプレッシャーを受け流す手段を引き出すことができる武器になるのです。
気持ちの余裕で成功のスパイラル
マルセイユに来てから自分でも驚くほどプレーの安定感が増したと感じています。
その理由を自分なりに分析した結果、難しい状況でも冷静さを保てるようになったことが大きな要因のひとつとして挙げられます。
さらに、安定感が増したことで気持ちに余裕が生まれ、それによって戦況を把握し、最善のプレーを選択できるという成功のスパイラルにどんどん入っていったような感覚もあります。
以前の僕は気持ちに余裕がないことも多かったため、試合の流れが悪くなるとついイライラしてしまい、突発的にレフェリーや相手選手にその感情をぶつけてしまうことがありました。
とはいえ、レフェリーに対し暴言を吐いたり、相手選手に悪質なファウルをするわけではなかったので、正直に言えば当時の僕はそんなに気に留めていなかったように思います。
しかし、2012年の柏レイソルでのシーズン序盤戦、不満げな表情をした僕が両腕を広げて相手選手やレフェリーにアピールする、その姿が良くないとキタジさん(北嶋秀朗選手)から注意を受けたのです。
無意識にやっていたことなので、キタジさんに注意してもらえなければ気づくことはなかったと思います。間違いをきちんと正してくれる先輩がいて、本当に恵まれていました。
僕は「わかりました。気をつけます」と素直にその態度を改めようと思いましたし、自分にも強く言い聞かせました。
でもすぐに改善できたわけではありません。ハノーファー移籍後も気をつけていたつもりが、試合がうまく進まずにイライラが募ると、つい相手選手やレフェリーに対して不満を漏らすことはあったと思います。
あるとき僕は、自分を客観的な視点で見たときに「はたして僕は対戦相手やレフェリーを尊重していただろうか?」という疑問を持ちました。
そこで第三者の目線で感情的になっている自分を想像してみたところ、相手に食ってかかる行為が見苦しいとさえ感じました。
慌てず、冷静に、リラックス
サッカーでは球際の激しいプレーは不可欠です。
でもイライラが募り、感情的になってしまえば、我を忘れて相手にケガをさせてしまうかもしれない。相手がケガをしなかったとしても、僕が最初にファウルをしたり、不満をぶつけることで、今度はそれに反応した相手が報復行為をしてくる可能性だってあります。
対戦相手といっても同じサッカー選手同士。そういう意味では彼らは仲間でもあるわけです。サッカーをやっている以上、ケガは避けられませんが、悪質なプレーによるケガの確率はできるだけ減らさなければいけません。
そうした心境の変化を経て、いかなる状況においても、まずは「慌てない」こと、次に「冷静」でいること、そして究極は常に「リラックス」した状態でいること、この3ステップを意識するようになっていったのです。
すると不思議と気持ち的に余裕が生まれ、戦況を的確に読めるようになっていきました。
目に見えて大きな変化が現れたのは、自分自身苦手にしていたアウェーの試合でした。
昔から僕は、対戦相手の観客やスタジアムの雰囲気にのまれてしまい、自分のパフォーマンスが発揮できないことが多々あったのです。特に海外へ初挑戦したドイツのブンデスリーガでは日本とのスケールの違いに圧倒されたのを覚えています。
アウェー戦で大切なのは、相手を勢いに乗らせないことです。
そのためには、観客の盛り上がるポイントで相手チームのチャンスをいかに食い止めるかが重要になってきます。たとえば、味方がボールを奪われてカウンターを受けたとき、僕があらかじめそのカウンターを予測して相手の攻撃の芽をつぶせば、チャンスをあっさりフイにした対戦相手のサポーターの歓声は、瞬時にため息へと変わります。
結果的に、「嫌だな......」と思っていたアウェー戦は、いまでは「こう戦えば勝てるだろうな」という前向きな考え方に変わっています。
たとえ自分が苦手とする状況と対峙しても、「慌てない」→「冷静さを保つ」→「リラックス状態へ」の3ステップを意識すれば、自らの能力を発揮して活躍する場面をつくることさえできるのです。
不安やプレッシャーに押しつぶされそうなときがあったら、ぜひ試してみてください。
(写真:千葉格)