【鈴木大輔】リーダーの要諦。「信頼は尊敬から生まれる」

2018/5/25
各サッカークラブの監督を見ていると、チームマネジメント法にすごく特徴が出るなと感じます。特にスペインでは、一人一人がしっかりとスタイルを持っています。
監督のマネジメントの仕方に正解はなく、試合に勝ち続けていればチームの雰囲気は良くなりますし、選手から文句も出ません。
それでもシーズンは長いので、結果がついてこない時期は必ず来ます。
また、試合には限られた人数しか出場できないので、すべての選手が満足している状態を保つことは不可能だと思います。
しかし、チームがうまくいっていない時に選手からあまり不満が出ず、練習のモチベーションや雰囲気を保つことができている監督もいました。自分は今まですべての監督から「サッカーチームにおけるリーダーシップ」を学んできた中で、選手が信頼してついてくる監督には2つのタイプがいるなと感じました。
先に結論から言うと、1つ目のタイプは「選手の扱いがうまい監督」で、2つ目が「選手を納得させるサッカー観、戦術論を持っている監督」です。
ベテランをモチベーターに
選手の扱いがうまい監督として、ナノ・リバスがいました。
自分がヒムナスティック・デ・タラゴナに入団した時、コーチをしていたのがナノです。その後いったんチームを去りましたが、次のシーズンに監督として戻ってきました。
ナノは選手のモチベーションや団結力を非常に大切にする監督でした。彼はシーズンの途中から指揮を執ると、まずチームで経験豊かなベテラン選手たちに仕事を与えました。
「自分の監督としてのキャリアはまだ浅く、間違えることは絶対ある。疑いがあるのなら指摘してほしい」
「君の経験を若い選手に伝えてほしい」
以上のように、ミーティングでも経験のある選手たちに積極的に発言を求めていました。
また練習や試合前などに、モチベーターとしての役割をベテラン選手に求めていました。
経験豊かなベテランが試合に出ていない不満を表すことによって、若手選手が感化されチームのモチベーションが低下することが多々あります。彼らに役割を与え、さらに助けを求めることによって、チームにまとまりを出すというやり方は「うまいな」と思いました。
「チームの決まりごと」60項目
ナノは試合のメンバーから外す選手と密に対話することを恐れませんでした。
そして久しぶりに試合に起用した選手には、チームミーティングの時に名指しして、「チームにとってすごくいいニュースだ。数カ月もメンバーから外れていたのに、モチベーションを切らすことなくプロフェッショナルに戦ってくれた。本当にありがとう」と褒めたたえていました。
これは、試合に勝った・負けたに関係なく言っていました。そしてその後、より多くチャンスを与えていました。試合に出ていない選手のモチベーションを保つためのコミュニケーションにもたけていたと思います。
試合に向けては、チームとしての決まりごとを守備面、攻撃面、メンタル面ではっきりさせ、書き出していました。
例えば守備面なら「プレーを終わらせる(カウンターを受けないように相手の陣地ではファウルで止める)」「相手の走るコースに体を入れて止める」、攻撃面では「サイドのスペースを有効に使う」、メンタル面では「何が起きても結束する」などです。
こういった項目が全部で60ほどあり、試合前にチーム全員で確認していました。
また、キックオフ前にはよくこう言っていました。
「勝つことや負けることを考えてもしょうがない。みんな勝ちたいに決まっている。審判のジャッジや不運もあるだろう。これらはコントロールできない。でも、俺らが持っているこの項目は、一人一人がコントロールできる。これは絶対に出そうと努力しよう。この項目がすべて試合に出たら、必ず勝ちに近づく」
そんなナノを選手たちは人間として尊敬し、あまり不満は出なかったように思います。彼からは「モチベーターとしてのリーダーシップ」を学びました。
「サッカーを知っている」監督
次に、選手を納得させるサッカー観、戦術論を持っている監督についてです。アントニオ・ロドリゲス(以下ロドリ)という監督がいました。
ロドリはとにかく、サッカーで起こる現象を言語化するのにたけているなと感じました。
攻撃時、どこにボールがあって、どこのスペースが空いているのか。練習の激しい流れの中でも一瞬で察知し、指摘できました。守備時の細かいポジショニングのズレもすぐに指摘し、なぜうまく相手にプレッシャーがかからないのかをいつも説明できました。
サッカーで起こる現象を誰よりも察知するのが早く、言語化できる監督でした。
ロドリは「プライベートの時間も常にサッカーのことを考えているし、ずっとサッカーを見ている」というほどサッカーが好きで、ミーティングでもチャンピオンズリーグの試合を使って守備戦術を細かく説明したり、前日に行われたスペイン1部リーグの試合で起こったことを説明したりしていました。
それだけサッカーを追求しているため、練習で選手に対して叱咤することが多く、練習時間も長くなります。映像を使ったミーティングも非常に多く、嫌がる選手も多くいました。
しかし、どの選手も「ロドリはサッカーを知っている」と口をそろえて、その点だけは認めていました。ロドリは結果が出ていない時でも「何ができて、何ができなかったのか」をはっきり説明し、説得力がありました。何よりサッカーに対する情熱が誰よりあったので、チームはまとまっていました。
ロドリからは、「誰より情熱をもって仕事している姿勢が、仲間を引きつける」ということを学びました。
「この監督についていこう」
ヒムナスティックでは監督交代のたびに、解任された監督がロッカールームで別れのあいさつを行うのですが、ナノとロドリの時には選手たちはすごく責任を感じていましたし、最後は選手たちから本当に盛大な拍手が起こりました。
2人の要素を両方とも持っている監督が、サッカーチームでのリーダーシップにおいてはより完璧なのだと思いますが、共通して言えるのは、選手を尊敬させる部分を持っているということです。
選手は監督の尊敬する部分に信頼を寄せ、「この監督についていこう」と判断すると思うのです。
たとえ戦術的に優れていなくても、選手の扱い方がうまければ信頼を得られる。
たとえ選手の扱い方がうまくなくても、サッカーに対する情熱が強く、強いサッカー観を持っていれば信頼される。
この2人の異なるリーダーシップの取り方は、「信頼は尊敬から生まれるものだ」ということを教えてくれました。
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)