ファンを組織する「コミュニティビジネス」時代の到来

2018/5/21
企業も個人も続々と参入
企業、プロダクト、作品、そして個人に至るまで、提供する価値を支持する「ファン」の存在は欠かせない。いま、そうしたファンを組織し、持続的な収益につなげる「コミュニティビジネス」が活況を迎えている。
「コミュニティ」の定義は論者によってまちまちだが、マーケティングの世界では「共通の関心やアイデンティティを持つ人々が、継続的に体験を共有し合う集まり」(出典:CMX)が有力とされる。
もともと高級車のオーナー向けイベントや、メーカーや小売店の「アンバサダー制度」(ユーザー自身が商品の魅力を伝道する仕組み)、そして会員制飲食店など、コミュニティをビジネスにつなげる動きは各業種で見られた。
しかし最近では、漫画や小説作品のファンコミュニティや、著名人が立ち上げるオンラインサロンなど、企業ではなく個人が中心となってコミュニティを形成しつつある。
(写真:野村高文)
Facebookも2017年から、自社のミッションを「コミュニティ支援」に変更。「グループ機能」をはじめとする新機能を続々リリースし、多くのオンラインコミュニティがFacebook上で活動している。
情報過多と孤独を感じる現代人
なぜいま、コミュニティがビジネス面で注目されているのか。コミュニティマネージャーの世界的なサミット「CMX」創設者のデヴィッド・スピンクス氏は、以下の3点を指摘する。
Facebookのミッションが「コミュニティ支援」に変わった理由
1つ目は、情報過多とマス広告の終焉だ。
世界に流通する情報量は爆発的に増加し、不特定多数に打たれた一方的な広告は、単なる「ノイズ」と見なされるようになった。総務省のデータによれば、2002年に対して、2020年は約6000倍の情報量が流通しているという。
その中で、マス広告に限界を感じる企業が、自社製品のファン集団に、ピンポイントで情報を発信したいと考えるようになっているのだ。
2つ目は、会員制ビジネスに対する消費者の変化だ。
情報爆発の裏返しとして、スピンクス氏は「消費者は、自分が共感できる企業やサービスと、より深いつながりを築きたいと思っている」と指摘する。
メディアの世界でも、オープンにPVを稼ごうとする新聞や雑誌メディアが苦境に陥り、一方で「De Correspondent」のような会員制メディアが収益を伸ばしている。
5月に新著『WE ARE LONELY, BUT NOT ALONE. ~現代の孤独と持続可能な経済圏としてのコミュニティ~』を刊行したコルク代表の佐渡島庸平氏も、人々が「情報を選ぶこと」に疲れていると指摘し、「価値観の合うコミュニティの口コミを信頼することで、安心してその情報を選ぶことができる」と述べる。
3つ目は、孤立する人々の増加だ。
(Photo by iStock/FangXiaNuo)
アメリカ心理学会(American Psychological Association)は2017年の年次総会で、「孤独感は肥満よりも社会に対して深刻な脅威である可能性がある」と指摘した。
日本でも、家族を持たない人々が増加し、地域や職場コミュニティもかつてに比べれば希薄化していることは言うまでもない。
その中で、共通の関心やアイデンティティを持つ集団を「居場所」としたいニーズが、人々の間で広まっているのだ。
実践者の事例をレポート
そのような背景を踏まえながら、本特集では活況を迎えるコミュニティビジネスの意味を、企業や個人の実践例を取り上げながら考えていく。
第1回には前出の佐渡島庸平氏が登場。『宇宙兄弟』の小山宙哉氏を皮切りに、数々のクリエーターのファンコミュニティを立ち上げてきた経験から、企業がコミュニティ運営を行う際の要点を明かす。
【佐渡島庸平】一から伝授。ファンコミュニティの作り方・育て方
第2回、第3回では、佐渡島氏と予防医学研究者の石川善樹氏の対談を実施。社会で蔓延する「孤独感」について考察を深めていく。
後半からは1000人規模のオンラインサロンを運営する幻冬舎の箕輪厚介氏も合流し、実践者の立場から「孤独とコミュニティ」を語る。
佐渡島庸平氏、石川善樹氏、箕輪厚介氏(写真:是枝右恭)
第4回は楽天でコミュニティ施策を実践するキーマンが登場。実は楽天は、インターネット黎明期の2000年から、出店者が集まって知見を共有する「楽天大学」というコミュニティを運営している。
その立ち上げ人である仲山進也氏に、一連の歴史を紐解いてもらう。
仲山進也氏(写真:鈴木大喜)
ソーシャルゲームの世界でも、コミュニティ施策は大きな意味を持つ。
DeNAが運営する「逆転オセロニア」は、運営者が1年間、全国を回りながら地道にイベント開催を行い、ファンコミュニティができたところでマス広告を投下、ダウンロード数を爆発的に伸ばした経緯がある。
第5回ではその立役者であるプロデューサーの香城卓(けいじぇい)氏が、同作のマーケティング戦略を語る。
第6回では、コミュニティビジネスの関係者にとって必読書と言われる『ファンベース』の著者、佐藤尚之氏が登場。現代のマーケターにファン施策が欠かせない理由と、その具体的方法について聞く。
佐藤尚之氏(写真:鈴木大喜)
第7回はコラムとして、独身研究家の荒川和久氏が、急増する独身男性、いわゆる「ソロ男」が感じる孤独と、コミュニティの可能性について分析する。
コミュニティは社会のいたるところに見られる半面、それをビジネスに落とし込む際の体系的な情報源は少ない。本特集ではさまざま事例から、コミュニティビジネスの実像に迫っていく。
(デザイン:星野美緒)