異なる分野の書籍に学ぶ

より優れたイノベーターになりたいなら、そのテーマについて書かれた本は何百冊、もしかしたら何千冊もあるだろう。
しかし、専門的な意見はイノベーションの妨げになることがある。あるテーマについて知れば知るほど、そのことについて人と違った考え方をすることは難しくなる。そんなときは、専門外の業界や分野に目を向ければよい。
イノベーションについても同じだ。より優れたイノベーターになりたいなら、ビジネスやイノベーションとまったく関係ない本を読んでみよう。
私は以前から、ビジネス書以外のたくさんの本を楽しんできた。そしてそれらの本がイノベーションについての、そして人生についての私の見解を形づくってきた。
世界を違った形で見ようとしているすべての人に、5冊の本をご紹介しよう。
1.『ご冗談でしょう、ファインマンさん:ノーベル賞物理学者の自伝』(リチャード・P・ファインマン著、邦訳:岩波書店)
ノーベル賞を受賞した物理学者リチャード・ファインマンの自伝であり、私がずっと前から大好きな1冊だ。ファインマンは、われわれの時代におけるもっとも複雑な問題を解き明かした才能ある人物だ。
ありがたいことにこの本は、世界中のシェルドン・クーパー(米テレビドラマ『ビッグバン・セオリー』に登場する物理オタクで、リチャード・ファインマンの大ファン)に向けて書かれたものではない。つまり、誰もが楽しめる内容なのだ。
金庫破りをしたり、アリの行動パターンを研究したり、ブラジルで音楽にのめりこんだりと、ほかにはない面白い冒険談が綴られている。章ごとに違う話になっており、それぞれのストーリーの中に、イノベーターにおおいに役立つ教訓がある。声を出して笑ってしまうことは間違いない。
2.『意味による癒し : ロゴセラピー入門』(V・E・フランクル著、邦訳:春秋社)
サイモン・シネック(『WHYから始めよ!──インスパイア型リーダーはここが違う』〔邦訳:日本経済新聞出版社〕の著者が「WHY」の大切さについて書くずっと前に、フランクルは「意味の力」について書いていた。
前半では第二次世界大戦中、フランクルが強制収容所に入れられていたときの経験が書かれている。フランクルは、人生に意味を持っている人は生き残る可能性が高いことに気づいた。何の目的もない人は、諦めて弱っていった。
同じ原理は、ビジネスとイノベーションに当てはまる。あなたの仕事の背景には、どんな意味があるだろうか。私にとって、本書は人生を変えるほどの本だった。
3.『アインシュタインの夢』(アラン・ライトマン著、邦訳:早川書房)
特許庁で働いていた頃のアルベルト・アインシュタインを主人公にしたフィクションであり、非常に巧みにつくられた作品だ。
アインシュタインは夜眠りにつくと、毎晩異なるレンズを通して違う世界を夢に見る。
もし世界が円環であり、ぐるりと回って同じことを何度も繰り返していたら、どうだろう。もし世界が、ガラスドームに閉じ込められた小鳥のようなものだったら、世界はどのように見えるだろう。もし世界に時間がなく、イメージだけだったら──。
こうしたレンズの概念は、すべてのイノベーターにとって大きな力となり、問題を新鮮な目で見させてくれる。
4.『脳はすすんでだまされたがる マジックが解き明かす錯覚の不思議』(スティーヴン・L. マクニック、スサナ・マルティネス=コンデ、サンドラ・ブレイクスリー著、邦訳:角川書店)
私はマジックが大好きだ。イノベーターは、マジシャンから学ぶことが実にたくさんある。だが、本書の著者たちはマジシャンではなく神経科学者だ。本書は、手品がどのように脳を騙すのかに焦点を当てている。
簡単に言えば、目で見るものは信じられない。イノベーターにとっても同じことが言える。実験を行っているときに、脳がわれわれを騙すかもしれない。新しいアイデアを練っているときに盲点があって、本当に画期的なソリューションが見えなくなっているかもしれない。
このようなメカニズムを理解することによって、イノベーターとして陥ってしまう罠を避けることができる。さあ、あなたのイノベーションに少しマジックを加えよう!
5.『シャーロック・ホームズ全集』(アーサー・コナン・ドイル著、邦訳:新潮社ほか)
子どものころに初めて好きになった本は、ドナルド=ソボルの『少年探偵ブラウン』(邦訳:偕成社)だった。近所で起きる不可解な事件を解決する少年探偵の話だ。少し成長したあとは、シャーロック・ホームズにはまった。ある意味、私のイノベーション好きは、シャーロック・ホームズから来ていると思う。
ホームズはすべての憶測に疑問を持つことにより、難事件を解決する。わたしが気に入っているホームズのセリフがある。
「データがないのに理論を立てるのは、致命的な過ちだ。事実に合うように理論を立てる代わりに、知らず知らず理論に合うように事実を捻じ曲げてしまうからだ」
これは、イノベーターによくある間違いを表している。
われわれはしばしば、自分のアイデアに固執するあまり、自分の考えに反する証拠を無視することがある。それが、これほどたくさんのイノベーションが失敗する理由だ。この名探偵から学ぶことは非常に多い。
ビジネス書以外で、イノベーションに役立つあなたの愛読書は何だろうか。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Stephen Shapiro/Innovation consultant and speaker、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:RomoloTavani/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.