【募集再開】求む、ストライプ石川の「右腕」候補

2018/5/28
ファッション業界の変革者として知られるストライプインターナショナルの石川康晴社長。自分たちで服を作り、世界に展開していくSPAのビジネスモデルも推進しながら、「デジタル」と「多角化」をキーに事業にテコ入れを行っている。
ストライプインターナショナルを「1兆円企業にしたい」と語る石川社長に、その構想を聞いた。(全4回連載)
※所属やポジションは掲載当時のものです
2年で黒字、3年で100店舗。最速成長ブランドの仕掛人

ECに置き去りにされたF2層を取り込みたい

「五島列島に住む人のポケットに都心の百貨店を入れよう」。それが2018年2月に立ち上げた「STRIPE DEPARTMENT」のスローガンです。
「STRIPE DEPARTMENT」は、百貨店品質の品ぞろえでF2層をターゲットにした、ECとしては特異な存在。
STRIPE DEPARTMENTは今年2月にオープン。初年度取扱高は16億円、3年後には100億円を目指す
ZOZOTOWNを筆頭に、MAGASEEK、SHOPLISTと、ファッションのプラットフォームはすでに存在しますが、それらの多くは若者向けで、廉価であることも売りにしています。
そんな偏りがあるのは、ファッション系のスタートアップに「F2層の人々はテクノロジー音痴だ」という決めつけがあるからではないでしょうか。
たしかにそういう面もありますが、スマホの普及率が上昇し、スマホで物を買う人の比率も増えた今、少なくとも世間のイメージ以上にはF2層もECを利用している。今こそ潮目だと、勝負に出ました。
ファッションECという事業自体は目新しいものではありませんが、AIが顧客の質問に答えるチャットボットだけでなく、パーソナルスタイリストがコーディネートを提案する「Personal Styling」など、このタイミングだからこそできることもあります。
6000〜7000人もの販売員を抱え、10年選手の優秀な人材もたくさんいるのが僕たちの強み。テクノロジーのプラットフォームでは、その強みを最大限に発揮できるのです。

「STRIPE DEPARTMENT」は百貨店と共存・共栄していく

僕たちがすべての百貨店を潰す「黒船」のように映るかもしれません。ですが、実際には既存の百貨店と一緒にできること、やりたいことがたくさんあります。
現在、日本には260の百貨店がありますが、年に3〜4店舗が閉鎖し続けていて、百貨店にアクセスできない人は増えている。
同時に、百貨店に出店していたメーカーも退店が相次ぎ、倒産の危機にある。百貨店自体のプライベートブランドも、販路が減少している。僕たちは彼らのチャネルとしても機能できるはずです。
今後やりたいのは、移動サーカスのように全国をまわり、百貨店の催事場に「STRIPE DEPARTMENT」のポップアップストアを出店すること。
地方には婦人服が数十ブランドしか入っていない百貨店もたくさんあります。そこに僕たちが、魅力的なブランドを携えて「STRIPE DEPARTMENT」を持っていく。それだけでも、とても喜んでいただけるはずです。
そして、僕たちが持っているデータの開示を進めたい。どんな業界でも、自分たちで集めたデータは自分たちだけで使うのが一般的ですが、その結果、せっかくのデータを活用しきれなければ、業界全体で凋落(ちょうらく)を招くことになります。
僕たちは、「売れなかったものはPOSデータに上がらない」という百貨店アパレルの欠点をカバーして、ものづくりマーケティングのカンフル剤になりたいのです。
たとえば、Aというブランドのカットソーに、Bというブランドのスカートを合わせたお客様がいたとする。Aブランドは従来であれば、「カットソーが売れた」という情報しか手に入れられなかった。
そこに僕たちがプラットフォームとして得たデータを提供すれば、「あなたが作った商品と抱き合わせで買われた商品は、これらの群ですよ」と、他社ブランドとのデータともミックスして考えることができます。
データ開示の流れは、ここから10年くらいの間でグッと進むはずで、僕たちはそれを先頭に立って進めたい。
僕たちはリテール側の要素をとても大事にしています。リテールの膨大なデータに触れながら、ここまでデジタルの取り組みを強化している企業は、ストライプインターナショナルの他にはないでしょうね。

「アドリテール」というアパレルの新しい戦い方

年に4回しか服を買わない大多数のお客様に、どうやって5回、6回と買っていただくか。それはやはり、ブランドがプロデュースするものや、サービスに触れ続けてもらうことが一番です。
「STRIPE DEPARTMENT」立ち上げと同時期、渋谷に「hotel koe tokyo」をオープンさせました。
「hotel koe tokyo」は、ライフスタイルブランド「koe」のブランドコンセプトである「new basic for new culture」を体現する場としてデザインされた。詳細は画像をタップ。(撮影:長谷川健太)
30代、40代のクリエイティブな人が集まる奥渋谷の立地に、上にはホテル、下にはトラフィックが多いカフェを設け、もちろん僕たちの服も売っています。
しかし、それぞれのテナントで、いかに利益を上げるかだけを考えているわけではありません。店舗を単に販売の場所として捉えるのではなく、エクスペリエンスの場所にしたい。
koeがプロデュースする週末のクラブイベント、koeが提供する食事、koeが提供する服、koeが提供するステイなど、接触回数を増やして、お客様とのエンゲージメントを上げようとしています。
「hotel koe tokyo」内にあるベーカリーレストランは、代官山で人気のフレンチレストラン「Ata」を手がける掛川哲司シェフのプロデュース。「今の東京のリアル(=ニューベーシック)な食」を体験できる。(撮影:川上友)
さらに「hotel koe tokyo」で試しているのが「アドリテール」。これは「アドテック」になぞらえた造語で、ヤフーのランディングページに広告が出る「テクノロジー媒体の上に広告」という考え方を、「リテール媒体の上に広告」とスライドさせる試みです。
僕たちのコンテンツに反応してくれている、クリエイティビティの高いユーザーに「広告物」をぶつけたいクライアントが必ずいる。
その予想は的中しました。第1弾として、GODIVAとのコラボを実施しましたが、6月にはモエ・エ・シャンドンとのコラボレーションイベントの予定もあり、スケジュールはどんどん埋まりつつあります。
6月には、TOWA TEIをはじめとした、豪華DJ陣計4人によるパフォーマンスをモエ・エ・シャンドンのシャンパンと共に楽しめるイベント「THE NIGHT」がhotel koe tokyoで開催される。詳細は画像をタップ。
リテールには、これまで「売って儲ける」以外のビジネスモデルがありませんでした。でも僕は、店舗を商品を売る(だけの)場所ではなく、商品を宣伝する場所に変えていきたい。
フィッティングルームもそうです。多くの人が自撮りする場所に、化粧品メーカーが広告を出したくなるにはどうすればいいか。そんなことを考えています。
リテールがアドでも稼げるようになれば、収益性は相当改善されるでしょう。そして、実際に服を購入してもらうのは、店舗でもECでも構わないわけです。

ゆりかごから墓場までのライフスタイルデータを持ちたい

店舗を持たないことが強みと言われていたAmazonがリテールを買収し、アリババも百貨店やスーパーを買いはじめたのは、リアルな「場」の重要性を認識したからです。
リテールの側から彼らを見ていて、僕は売り場を奪われるという危機感を持っていますが、焦っている人はほとんどいないようです。そのことにも危機感を覚えます。
プラットフォームを持つ、ユーザーとの接点を増やすなどの様々な取り組みは、「ほかの企業に先んじて、ゆりかごから墓場までのライフスタイルデータを持ちたい」という意思の表れでもあります。
僕たちはもともとティーンズとF1層の膨大なデータを持っていました。しかし、子ども服のデータがないので、子ども服・ベビー服のECであるsmarbyを買収した。そして、F2層のデータを集めるために「STRIPE DEPARTMENT」を立ち上げた。
これで年代横断的なデータを得られる素地ができました。
「smarby」では、子ども服・ベビー服の人気ブランドアイテムがお得に買える。詳細は画像をタップ
しかし、これだけでは「新品」のデータに限られます。今後はユーズド市場の、子ども、若者、大人のデータを集めていきたいし、これからシェアリングも伸びていくので、そちらでも全年代のデータを集めたい。
UberやAirbnbはかなり社会に根づいてきましたが、ファッションのシェアリングはほとんど手付かずで、プレーヤーのほとんどがベンチャーです。そこに年間1億ピース、売り上げ1000億円の物流やサプライチェーンの仕組みを持っている僕たちが入っていけば、きっと面白いことになるはず。
親が2歳児に中古の子ども服を買い、ジュニアの新品を買い、成長した子どもが自分で買い物をするようになって、ティーンズの新品をECで買い、大学生になるとレンタルに切り替わり、結婚してからはF2向けのブランドをショップで買う……。
ワンプロダクト、ワンサービスだけでは動向が追いきれませんが、新品、中古、レンタルの3つのサービスと、子ども、若者、大人の3つの年代を合わせた9つのマトリックスをすべてカバーすることで、データが途切れることはほとんどなくなります。
子どもと大人の中古・レンタルのデータが十分に集まれば、全世代のアパレルをストライプがカバーできるようになる
SPAである僕たちがユーズド市場や、「MECHAKARI」でシェアリングに打って出ることは、短期的に見れば自分の首を絞めるように映るかもしれません。しかし、ファッションに関するあらゆるデータを収集することは、それ以上の意味があるのです。
ストライプインターナショナルは上場を見据えていますが、構想を実現させるには、上場で調達できる以上に資金が必要になりますし、サービスや商品を展開していくうえで、人材もまだまだ足りない。
社長として判断しなければいけないところ以外はどんどん人に任せるのが僕の主義です。「0から1」にする段階は、大きなリスクを伴うので、僕と一緒にやってもらう。でも、事業が離陸したあと、「1から100」にするのは、チームで意思決定して進めてもらう。
リスクの9割は経営者である僕になすりつけて(笑)、自分も会社も成長させたい人がストライプインターナショナルに集まってくるのが理想です。
そうすれば、ZARAがAmazonをやっているような、GAPがZOZOTOWNをやっているような、まだ見たことのないファッション企業として、売り上げ1兆円を達成することができるでしょう。
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:片桐圭 デザイン:九喜洋介)