[ロンドン 15日 ロイター] - 米国の財政が大幅に悪化する見通しとなったことで、米国債の世界的な安全資産としての地位が揺らいでいる。このため成長が堅調で市場が比較的安定しているユーロ圏の国債が、米国債に代わる資金の逃避先として台頭しそうだ。

米国はトランプ政権が打ち出した1兆5000億ドル規模の減税や3000億ドルの歳出上限引き上げで財政収支が悪化する見込みで、2017年に6650億ドルだった財政赤字は、19年には8000億ドルに膨らむ恐れがある。

国際通貨基金(IMF)は先月、米国の財政赤字の対国内総生産(GDP)比が今年末の108%から2023年末には117%に上昇し、かねてより債務負担の重い国として知られるイタリアを上回るとの予測を示した。

しかも米国債は米連邦準備理事会(FRB)のバランスシート縮小や新規国債発行の増加、金利上昇リスクの高まりで、市場のボラティリティが大きくなっている。

これに対してユーロ圏はじりじりと債務比率が低下し、国債発行も減少しており、スペインやポルトガルなどかつて債務危機に見舞われた国も格付けが引き上げられている。

ユーロ圏は存立の危機が薄れて安定的な成長を保っており、借り入れコストも低い状態が続いていることから、外国人投資家によるユーロ圏国債への投資は増えている。

EPFRグローバルのデータによると、外国からユーロ圏国債への資金流入は年初来で約150億ドルに達した。前年同期は約40億ドルの流出だった。日本の投資家からスペイン国債への3月の資金流入は過去最高の25億7000万ドルに達した。

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)のクレジットストラテジスト、バーナビー・マーチン氏は「資金の逃避先が必要なのは変わらない。しかし安全資産としての米国債の看板に偽りが生じれば、世界中の投資家が米国債に代わる投資先を探すようになり、その場合はユーロ圏国債の安全資産として地位が高まるだろう」と指摘。「厚みと流動性の面で米国債に太刀打ちできないが、米国債は安全資産として地位が以前と同じではない」と説明した。

米国債は市場規模が21兆ドルと世界で最も大きく、流動性も一番高い。ユーロ圏で最も国債の市場規模が大きいドイツ、フランス、イタリアを合わせても、発行済み国債の市場規模は8兆ドルにすぎない。

しかしドイツ、フランス、イタリアの3カ国は借り入れが縮小しているのに対して、米国の負債の対GDP比は上昇が見込まれており、S&Pグローバルは既に米政府が財政問題への対応を取らなければ米国債の格下げもあり得ると警告している。

ハイダー・キャピタル・マネジメントのセッド・ハイダー最高経営責任者は「米債務は今後数年間で危険な水準に向かう」とみている。

一方、イタリアの債務の対GDP比は足元の130%程度から2023年には117%弱に低下する見通し。財政政策の緩みも米国ほどではなく、何よりもユーロ圏全体は昨年第4・四半期の経常収支が対GDP比で平均1%の黒字となった。

ユーロ圏債務は為替ヘッジを織り込んでも魅力がある上、格付けの引き上げが予想され、経済成長も力強さを増している。

さらにBAMLによると、米国債は株式リターンとの負の相関性が2008年の世界金融危機時と比べて薄れているが、ユーロ圏国債は安全資産としての機能を維持しているという。

(Dhara Ranasinghe記者)