なぜオンライン英会話は続かないのか。三日坊主のメカニズム

2018/5/21
英会話スクールに入会しても、数回通っただけで続かなくなってしまう。英語に限らず、ダイエット、禁煙、資格の勉強……一念発起してはじめたのに、三日坊主に終わってしまった経験はないだろうか。
どうやら、人はものごとを継続しにくいようにできているらしい。行動経済学者の友野典男氏と、継続率97.8%の英語学習コンサルティングサービス「PROGRIT(プログリット)※旧TOKKUN ENGLISH」の岡田祥吾氏に、三日坊主のメカニズムと対処法を聞いた。
「三日坊主」は、人間の本能だった?
── 人はなぜ三日坊主になってしまうのでしょうか。
友野:それが、人間の本性だからでしょう。
人間は理性的な生き物だと思われていますが、その意思決定は理性よりも感情に左右されています。感情が大きくて力強い「象」だとすれば、理性はその上に乗った、小さくひ弱な「象使い」のようなもの。そのふたつが影響し合って、人の行動を決定しているのです。
社会心理学者のジョナサン・ハイトが提示した意思決定のメタファー。新しい脳がつかさどる理性や論理を「象使い」に、原始的な脳がつかさどる、制御できない感情や欲求を「象」に、外的な環境条件を「道」にたとえ、人間の意思決定を説明した。
我々の感情は、目の前の快を求めて不快を避けます。目の前の楽しいことや、おいしいものに飛びつき、嫌なことからは逃げるようにできているんです。
進化の歴史のなかでは、こういった感情の働きは非常に重要でした。今でも蛇が怖い人はたくさんいて、蛇のようなものを見るだけでパッと逃げる。
これは、蛇にかまれたら死んでしまうような時代であれば、合理的な行動です。「これは本当に蛇か?」「毒を持っているだろうか?」なんて考えていたら、かまれて手遅れになるからです。無意識のうちに、素早い判断をするのが、感情の特徴です。
── 我々が感じる快や不快は、進化の過程で生き残るために身につけたものなんですね。
そうです。だから、理性よりも行動に与える影響がずっと大きいのです。ただし、その快や不快が今の環境に合っているかというと、必ずしもそうではありません。環境の変化が速過ぎて進化のスピードが追いつかず、感情のまま行動することがマイナスになるケースも増えています。
我々の祖先は、何十万年もの間、同じ環境のなかで生活していました。今のように食料が豊富にある時代は、人類の歴史のなかではほんの一瞬に過ぎません。
塩辛いものや甘いもの、脂肪分。そういったものをおいしいと感じるのは、かつては生き残るために重要な好みでした。目の前においしそうなものがあったら、飛びつく。食べられるときに食べ、あとには持ち越さない。
そういう性質がない人は、より短命に終わり、子孫を残せなかったのです。
人間の本性として、目先の快を重視して、長期的な先のことは考えにくい。というよりも、将来的に手に入るものは、やたらとその価値を割り引いて、小さく見積もってしまうのです。この性質が、三日坊主につながっています。
象の欲求を、ゴールに向ける
── ただ、三日坊主にならない意志の強い人もいます。目的のために物事を継続できる人は、何が違うのでしょうか。
基本的に、人間の意志は弱い。象使い(理性)が英語力を身につけよう、ダイエットしようと計画しても、象(感情)の欲求には太刀打ちできません。その特性を知ったうえで、道(環境)を整え、感情の行き先をコントロールできるのが三日坊主で終わらない人です。
象をコントロールする決め手のようなものは、おそらくありません。象には先の目標が見えませんから、我々が何に快・不快を感じるのかを考慮したうえで、感情に訴えかけるテクニックをいくつも組み合わせる必要があります。
「今頑張れば英語が話せるようになる」「今食べるのを我慢すれば、ダイエットに成功する」といっても、象は動きません。感情を喚起するためには、具体的なイメージをつくったほうがいい。
英語が話せるようになれば仕事がうまくいってまわりから褒められる。スタイルがよくなれば水着を着てみんなにちやほやされる。こういったことは、感情的にも快を感じるので、イメージトレーニングは理屈に合っています。
また、人間は損失回避性が強く、得ることよりも失うことを大きく見積もる傾向があります。快に近づこうとするよりも不快を避ける欲求のほうが大きいんです。こうした特性を踏まえれば、次のようなテクニックが考えられます。
── 三日坊主で終わらない人は、こういったテクニックを使えているんですか。
そうです。理性が導き出したゴールに向けて、感情が自ら歩きだせるように道を整えているのだと思います。大事なのは、感情を動かすための環境を整えること。それなしに象使いを鍛えようとしても失敗します。
何度やっても三日坊主で終わってしまう人は、間違った道を何度も歩こうとしているのではないでしょうか。前に失敗したことから学んでいないし、やり方を知らない。だから、上で話したような理性と感情についての知識が必要なんです。
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三日坊主はセッティングで決まる
── 英語学習の場合、途中で挫折してしまう人とやり遂げられる人にはどんな違いがありますか。
岡田:英語に限らず、何か大変なことを成し遂げようとするときに挫折するかしないかという意味では、次の3つしかないと考えています。
この3つがすべてイエスであれば、絶対にやり遂げられます。どれかひとつでもノーなら、まず続かない。もっとも重要なのがひとつめの「優先順位」で、英語学習の場合はここで引っかかる方が多いですね。
── 英語が人生に必要ないということですか。
なんとなく「英語ができるといいな」と思っているくらいのレベルだと、結局は目の前の仕事をしたり、飲み会に行ったりすることを優先してしまいます。
多くの人は、重要度と緊急度をひとくくりにしています。今日しなくてはいけない仕事、今日しかない飲み会。それらは明日に持ち越せないという意味で緊急度が高いかもしれませんが、優先するほど重要かといえば、そうでない場合が多いでしょう。
そういったことを整理してから取り組んだほうが、何事も継続しやすいと思います。
たとえば甲子園を目指す高校球児は、ずっとテレビで見てきた球場に立ち、歓声のなかでプレーしたいと強く望み、2年後にそうなる姿をクリアに思い描いています。だから、練習が厳しくても、少しくらい理不尽なことがあっても頑張れるんです。
PROGRIT(プログリット)のコンサルタントは、「外資系企業に入ったから英語を使えるようになりたい」とおっしゃるお客様に対して、「なぜ英語が必要なんですか?」「英語を使えるとどうなるんですか?」と問いかけ、今の課題や目指す姿を具体的にします。
「まわりの英語力が高く、毎週英語で行われる会議に自分だけついていけない」
「私の英語力で表現できるか不安になり、言いたいことがあっても発言しにくい」
「何度も質問を繰り返さないといけないので、いつも恥ずかしい思いをしている」
このお客様の場合、言葉の壁によってビジネスの能力を発揮できず、自己肯定感が下がっています。英語を身につけることで、毎日の仕事で引け目を感じることもなくなり、本来のコミュニケーションを取り戻せるのです。
このように、その人の心が動くレベルまで課題や目的を深掘りすると、英語の優先順位が実は高かったことに気づくことも多いのです。
モチベーションはなぜ下がるのか
── 2つめの「方法に納得する」とは?
何かを成し遂げるには、相応の努力を伴います。その努力の方向性に学習者自身が100%納得している必要があります。
インフルエンザにかかったら迷わずタミフルを飲むように、世の中にひとつしか方法がなければ、ほかにもっといい方法があるかもしれないと悩むことはありません。
ただ、残念ながら英語にはさまざまな学習法があり、「本当にこのやり方でよいのか」という迷いが挫折につながっています。
方法が正しいと納得するためには、権威のある人や尊敬している人が良いというものを信じることがひとつ。もうひとつは、科学的、論理的になぜその方法が適切なのかを理解すること。PROGRIT(プログリット)では、後者を採用しています。
我々は、科学的かつ論理的に説明できる学習方法しか使いません。論理的に正しい方法を選び、納得するにはある程度の手間がかかりますが、そのプロセスがなければ、心のどこかで「もっといい方法があるのでは?」と別の解を求めてしまうからです。
もうひとつ、PROGRIT(プログリット)が大事にしているのが、ソリューションベースではなく、イシューから方法を考えること。効果的な勉強法があるからそれをやるのではなく、何がお客様の課題なのかを分析し、理想としているスピーキングやリスニングに届いていない理由をクリアにしていく。
そうやって課題を明確にしたうえで、まず2カ月間の学習プランをつくり、それをブレークダウンして毎日の勉強内容を決めていきます。
最初に長期計画を立てることはビジネスの世界では常識ですが、なぜか多くの英語スクールでは、今のレベルに合わせて学習をスタートします。課題をクリアして、レベルアップしたら次へ行く。
こういった積み上げ式のやり方では、しばらく続けても想像したほど英語力が上がりません。それに、いつまでに何を実現するというゴールが明確で、そこへ近づいている実感がなければ、決して楽ではない勉強を続けることは困難です。
── 3つめが「成長実感」ですね。ただ、語学などは一朝一夕に結果が表れるものではない気もします。
自分が成長していることを感じるためには、成果を定量化し、見える化することが大切です。
たとえば、1分間に何ワード読めるかを測るWPM(Word Per Minute)という指標や、1分間にいくつの文章を話せるかを測るSPM(Sentence Per Minute)という指標、話しかけられてからのレスポンスの早さ。
このような数値を使えば、少しずつでも向上していることが感じられますし、伸びていない場合も原因を分析して改善する手がかりになります。
ほかにも、PROGRIT(プログリット)では週に1度の面談で日々の学習を振り返り、本質的な課題を深掘りしています。
たとえば、早起きして勉強するはずだったお客様が、2日連続で起きられなかった。なぜかと聞くと、「前の夜に飲みに行って寝るのが遅くなってしまったから」。
そこで考えるのをやめてしまってはだめで、「これまで頑張れていたのに、なぜ2日続けて飲みに行ってしまったのか」を探るべきなんです。
そのお客様の場合は、掘り下げていくと「成長している感覚が持てないから、憂さを晴らしたかった」という原因にたどり着きました。
だとすれば、コンサルタントが「頑張って起きましょう」と励ましたり、怒ったりしてもモチベーションが下がるだけ。「どうすればこの人は成長実感を持てるのか」を考えたほうがいい。
ここまでわかれば、成長度合いがわかるようにもっと細かく数値化したり、違う方法で成長を感じられる策を講じたりといった、本質的な解決ができます。
── なるほど。それがPROGRIT(プログリット)のコンサルティングなんですね。
コンサルタントは英語学習におけるプロフェッショナルでもありますが、最初にお話しした3つの条件がすべてイエスになる状態を担保することも大きな仕事です。
極端な話、これらがすべてイエスになっているときには、コンサルタントは何もしなくていい。放っておいても、自分で勉強しますから。
ただ、いろいろな人を見てきた経験から、ほとんどの人は一人で継続することが苦手なのだと感じています。私もその一人ですから、気持ちはよくわかります。
調子のいいときには3つの条件が整っている人でも、ときには本当に英語を学習する意味があるのかと迷ったり、この方法で良いのかと不安になったりします。頑張った分だけ力が身についているのかも、なかなか確信が持てません。
そうなったときに、不安や迷いの原因を探り、本当の課題を発見して解決の方法を考える。それが、英語コンサルティングだと考えています。
(取材・文:宇野浩志 編集:大高志帆 撮影:後藤渉 デザイン:星野美緒)