【ビジネスに効く】今から始める健康革命、5つのポイント

2018/6/22
残業時間削減や生産性の向上を目指し、「働き方改革」に取り組む企業が増えている。そこに大きく関わってくるのが、ビジネスパーソン個々のコンディショニングだ。仕事の効率アップを狙うには、自身の健康状態に意識をフォーカスする必要がある。

2016年にDeNAで健康経営の推進を目的にCHO(Chief Health Officer:最高健康責任者)室を立ち上げ、健康への意識改革に日々取り組む平井孝幸氏に、多忙な中で自らもサステイナブルなビジネスコンディショニングを実践する重要性を聞いた。

どう発信すれば、行動変容を起こせるか?

平井氏が室長代理を務めるCHO室では、食事、運動、睡眠、メンタルという4つの柱を軸に、社員の健康と生産性の向上のため、さまざまな取り組みを行っている。
たとえば「マインドフルネス・イーティング」に関するセミナーを開催したり、食後の眠気やだるさの一因ではないかと議論されている血糖値スパイク(血糖値の急上昇・急降下)が起きにくいといわれる食べ方を伝えるほか、社員のリテラシーを高めるためのポスターも作成している。
その際に苦心しているのは、一人ひとりの健康意識の差。約半数は自然と健康に意識が向くというが、そうではない約半数に向けてどう情報を届けるかというアプローチには、知恵を絞っている。
そこで大切にしているのは、興味を持ってもらうための切り口だ。
「たとえば『脳』のことになると、みんな興味を持ってくれるんですよね。以前、神経科学の研究者に『ウォーキングが脳の活性化にもたらす影響』について話してもらう社内セミナーを行いました。
京都に『哲学の道』があるように、『歩くとアイデアが湧きやすくなる』というのは昔からよく言われていることです。このように潜在的に知っている情報を、改めてアカデミックに、医学的に話してもらうと、みんな『なるほどな』と腑に落ちる。
社員にどう発信すれば行動変容を起こせるかを意識して、一個一個の取り組みを企画しています」
去年からは新たに、新入社員に向けての健康研修も始めた。
「20代~30代の人は『健康なのが当たり前』だという意識なので、たとえば『腸内環境を調整することは大事なんだよ』と言っても興味を持たない。
教えるというより、いかに『楽しくてためになる情報』として発信するかを大事にしています。
先日も、発酵食品について情報発信をしました。『試してみるか』と思ってもらえるよう、エンタメ要素を盛り込んで。腸内環境への影響について研究が進められている発酵食品のひとつ、醤油麹(しょうゆこうじ)や甘酒の作り方に関して発信したところ、実際に自宅で作り始めてみたという社員も出てきました」
平井氏が企画し、社内に貼られたポスター。楽しく健康に意識を向けさせる取り組みだ(提供:DeNA)

健康のための手間をかけないのがポリシー

CHO室の活動に説得力があるのは、平井氏自身がスリムな体形を維持しているから。
「ひとつのポリシーとして『健康のための手間をかけない』というのがあるので、私はジムに行ったりということは一切しません。
健康を目的とした行動はせず、いかに日常動作のクオリティを上げ、サステイナブルな取り組みをやっていけるかを意識しています。
健康的な行動を実践していない不健康な人には行動変容を促せないと思うので、まずは自分自身が日常生活の中で無理なくできることを続けています」
見た目の若々しさはもちろんビジネスシーンでも好印象
そう話す平井氏は「いかにしなやかな身体(からだ)をつくるか」をテーマに、体幹トレーニングやピラティス、自宅周辺のウォーキングなどを、日常生活の中に組み込んでいる。
日常での一つひとつの動作を、どうすれば自分のコンディショニングに役立つのかと突き詰め、編み出していった日常生活の“健康リスト”は、100ほどにものぼるという。
「今朝も子どもと一緒に歩いてきたのですが、朝は身体を整えるのが目的なので、10~15分ぐらい歩けば私自身の健康維持においては十分であると実感しています。
ほかにも、朝起きて身体が目覚めるまでの間に、ちょっとした体幹トレーニングをやったり、コツを少し押さえれば、わざわざ手間をかけなくてもコンディション維持は可能なんですよ」

乳酸菌の効用~「カラダカルピス」を飲んでみて

CHO室の最初の目的は自社の健康経営や従業員の健康だったが、現在はそれをビジネス周辺領域にも広げていくことを模索している。そんな平井氏がいま注目するのは、腸内環境、乳酸菌、ビフィズス菌というキーワードだ。
“実践”と“現場ベース”を信条とする平井氏は、昨年6月に金沢、富山と足を延ばし、発酵食品のひとつであるフグの卵巣、日本酒から作る伝統的な酢、種麹などの、老舗の生産者を訪ねている。
(写真:ma-no/iStock)
「江戸時代から代々、発酵食品を食べている人たちなら、腸内環境もいいだろうと思って聞いてみたところ、女性も便秘はしないと言うし、当然、肥満の人も少ない。
高齢でも元気な人ばかりで肌もきれいだし、腸内環境ってすごく人間の健康を左右するんだなと実感しました。そこからですね、ハマったのは」
以来、街で「乳酸菌」という文字の付いた製品を見かけると、ひと通り試しているという平井氏。乳酸菌で体脂肪を減らす「カラダカルピス」でまず興味を引かれたのは、男性をターゲットにしているという点だ。
「これまで腸内環境系の製品は女性をターゲットに作られたものが多い印象でしたが、体脂肪を減らすというアプローチは見たことがありませんでした。
おいしく飲みながら体脂肪を減らしていけるなら一石二鳥ですね」
もうひとつ興味を引かれたのは、その開発背景。「カラダカルピス」の特徴は、乳酸菌(CP1563)を粉砕し、体内に吸収しやすくしていること。機能性表示食品として販売されているが、その効果は脂肪を燃焼させやすくする点。
「機能性表示食品として販売に至る過程には、膨大な研究の積み重ねはもちろん、管轄省庁とのやりとりがあったと思い、すごく魅力を感じました。
その開発秘話や体脂肪が減っていく検証の様子を発信すれば、商品への興味を引くだけでなく、健康への意識付けや、食生活への意識の高まりにつながると思うんです。
ちなみに私自身、食品や飲料のパッケージにある面白い成分やメッセージを発見したらまず検索します。こういう製品が健康知識を深めるきっかけになることもあります。
社会全体、特に食事や睡眠など健康をおろそかにしてしまう傾向がある男性のヘルスリテラシーを上げて、健康的な生活に導いていく可能性のある製品だと思います」

忙しいビジネスパーソンでもできる5つの行動

忙しいビジネスパーソンにとって、ビジネスコンディショニングの実践は、時にハードルが高いのが現状だろう。そこで平井氏に、実践している中からいくつか紹介していただいた。
まずいちばん簡単なのは、呼吸を意識すること。
「私は、普段から腹式呼吸や鼻呼吸を取り入れるなど、呼吸を意識しています。特に一日の始まりである朝は、呼吸を整える時間を作り、心を落ち着かせてから朝食を食べ始めるようにしています」
2つめは、水を飲むこと。
「私は、普段から飲み物は糖分の含まれないものを選択するようにしています。特に水にこだわりがあり、各地の水を取り寄せて味の違いを楽しむことが趣味になっているくらいです。
健康を気づかう人たちは、朝起きたら一番に水を飲んだりしますが、朝起きてすぐは口内に雑菌がたまっているので、お勧めしません。
歯を磨いたり、デンタルフロスもして、口の中を清潔にしてから飲むと、口の中だけでなく気分もスッキリしますよ」
3つめは、ウォーキング。とくに痩せたい人に勧めているのは早歩きだ。
「大事なのは、質を整えた上で量を増やそうとすること。ただ単に早歩きをしたり歩数ばかり追求すると、膝や足首を痛めたりして本末転倒です。
私は、歩き方を大事にしています。元気がない時はかかとから着地させるようにして腰を乗せた歩き方をし、堂々とした姿勢を意識します。また、集中したい時は足の裏に体重が乗る感じを意識するだけで、呼吸が整いやすくなるように感じます。
私自身、その感覚に集中するだけでも、マインドフルな状態になりますね」
4つめは、習慣的に利き手とは逆の手を使うこと。
「普段は利き手ばかり使いがちですが、右手は左脳、左手は右脳を刺激するといいますし、逆の手も使えば脳もバランス良く刺激できる。
たとえば歯は利き手で磨く人が多いと思いますが、左を磨くときは右手で、右を磨くときは左手で磨いてみるというのは、手軽で毎日できますし、万人にお勧めしたいですね。慣れるまではストレスフルだと思いますが(笑)」
5つめは、身体にいいといわれるものを自分の身体で実践してみること。
「発酵食品や筋膜リリースに関する製品など、医師や専門家に紹介してもらったものは、一度はライフスタイルに取り入れ、自分の身体の変化の有無をみています。
こうすることで自分の身体に合うもの合わないものがわかりますし、ヘルスリテラシーを高めていくことができます。
まずは1回試してみるのがいいと思います。『カラダカルピス』もそうですが、機能性表示食品を積極的に取るのもいいのではないでしょうか」

健康経営を日本企業の文化にしたい

さて、ビジネスパーソンは、自身のコンディショニングのために何を心掛けるべきか尋ねると、「自分の身体の声をしっかり聴くこと」という答えが返ってきた。
「ここ数年、マインドフルネスが支持されていますが、呼吸を中心に自分の身体の感覚を観察することが大事だと思っています。それを行うことで、それまでは忙しくてスルーしていた身体の不調にも、早めに対応ができます。
こうしたことを言うと極端なヤツだと思われるかもしれませんが、私は風邪をひくときのタイミングなどを時系列でExcelに落とし込んでいます。
皆さんも、のどに違和感を感じるなど風邪の初期症状を感じることがあると思います。
そのタイミングでショウガなど風邪予防に効く食品を食べたり、のどを酷使しないようにしたり、睡眠時間を普段より増やしたりすると、重症になるのを防げることもあり、生産性を落とさなくてすみますよね」
平井氏が注目しているのは血糖値。指先から血液を採取せずに常時血糖値を測定できる血糖値測定を実践中だ。そこで得た知見をもとに、日々、実践ベースのアドバイスを行っている
プレゼンティーイズム(何らかの健康問題によって業務効率が落ちている状況)対策の必要性を鑑みてCHO室を立ち上げた平井氏は、ビジネス上では個人だけでなく企業としての取り組みも重視する。
「軽度の健康リスクによる経済損失の点から考えると、例えば二日酔い、花粉症、風邪、腰痛、睡眠に関する悩みなどにより、会社に来ていても生産性が下がっている人はたくさんいますし、健康経営はすべての会社がやるべきだと思っています。
健康経営は人のライフスタイルまでも変えるので、私は働き方改革よりもはるかに大事だと思います。会社が従業員の健康やパフォーマンスアップをサポートすれば、それは絶対に会社に戻ってくるものなので、最も有効な投資手段だと思うんですよね。
しかも、よほど強制しない限りはポジティブな方向に働く。
従業員の生き方が健康的になるだけでなく、ゆくゆくは日本の医療費削減にもつながっていくという、本当にオールハッピーな取り組みではないでしょうか」
しかしながら実践する企業がまだ少ない現状を、平井氏は憂慮する。
「おこがましいですが、まずは私が模範例をつくり、これをやれば社員だけでなく結果として企業にもプラスになるということを、きちんと数値化して社会に発信していくことは、すごく大事だと思っています。
健康経営を日本企業の文化にしたいというのが、今の私のミッションですね」
(執筆:明知真理子 構成:クエストルーム 編集:奈良岡崇子 撮影:大畑陽子 イラスト:前田はんきち デザイン:九喜洋介)