将来の人類の宇宙探求にとって、大きな意味をもつ火星。探査機「インサイト(InSight)」の打ち上げにより、NASAは初めて火星の地殻やマントル、核を調査することになる。

火星を形成する「材料」は何か

アメリカは42年前、地球の隣りにある「赤い惑星」である火星に初の探査機を着陸させた。「バイキング1号」が1976年に火星に降り立って以来、NASAは火星の地形や大気を調査するためにローバー(探査車)とオービター(周回探査機)を、次第に性能を上げるかたちで次々と送りこんできた。
しかし、いずれの調査も地表のみで、地中深くまで入り込んだ探査機はなかった。
NASAは5月5日、もっと基礎的なレベルで火星を調査するよう設計された探査機を打ち上げた。火星の地質構造や組成、地震活動において、科学者たちが理解していない多くのことを知る手助けとなるものだ。
2018年11月26日に火星に着陸する予定の探査機「インサイト(InSight)」は火星の内部──あるいはNASAジェット推進研究所(JPL)の表現を借りれば「火星のバイタルサイン」を調査するというNASA初のミッションを負っている
なお「InSight」とは「Interior Exploration using Seismic Investigations, Geodesy and Heat Transport(地震探査、測地測量、熱伝達による内部探査)」の略称だ。
インサイトは5月5日朝、カリフォルニア中部にあるヴァンデンバーグ空軍基地で「アトラスV」ロケットに搭載されて打ち上げられた。NASAの深宇宙ミッションとしては、初めて西海岸から送り出されたものだ。
6カ月間の宇宙飛行のあと、重さ約360キロのロッキード・マーティン社製「ランダー(着陸船)」が11月26日、この旅の行程で最も危険な6分間の再突入と降下を経て着陸する計画だ。
インサイトが遂行する任務には、科学者たちが抱くある重要な疑問が大きく関わっている。それは「地球と火星は45億年ほど前に、それぞれ同じ銀河系間の『材料』から形成されたにもかかわらず、なぜこれほど極端に違ってしまったのだろうか」という疑問だ。

火星の大地が揺れる「地震」も

火星は岩の多い惑星の構成を調査するうえで、興味深い地質学的標本だ。理由は、大きさが「手ごろ」であるからだ。
火星はその形成の間に、地球や金星と同様の初期プロセスを経験するほど十分な大きさがあり、しかも地球や金星ほど大きくはないので、内部の深いところにこうしたプロセスの記録をずっと残している(地球では火星と異なり、プレートが動き、核の熱を表層に向かって運ぶ対流が起こり、マントル層を熱が移動している)。
インサイトには火星表層部を5メートル掘り、内部からの熱を計測する器具が備えられている。JPLに所属するインサイトの調査主任ブルース・バナートは5月3日の記者会見で「まさに初期の太陽系を理解し、惑星がどのように形成されたかを知る科学だ」と述べた。
火星にはプレートがないのに、火星の大地はときおり揺れる。インサイトの調査担当者たちが調査したいと考えている地質学的現象である「火星の地震」だ。
1976年夏に火星に着陸したバイキング1号と2号それぞれのランダーには、火星の地震を検知する地震計がついていた。しかしJPLによると、地震計はランダーの上部に設置されていたため、そのデータは「ノイズが多かった」という。
インサイトの地震計は地面に設置されるので、火星の地震に関してずっと多くの洞察を与えてくれることが期待されている。
火星は地球のようなプレート構造を持っていないため、地震の大きさはマグニチュード6.0より小さいと考えられている。火星の内部エネルギーは地球のものより弱く、火星の地震活動は地殻にできる亀裂が原因だと考えられている。
アトラスVには、2機の小型人工衛星も搭載された。インサイトの後を追って火星まで行き、深宇宙通信技術をテストするのだ。これほど小さな、ブリーフケースほどのサイズの人工衛星が深宇宙に打ち上げられたのは初めてだ。
「初めて」尽くしの華々しい今回のミッションだが、火星ミッションの成功率はわずか40%ほどであることは心に留めておくべきだ。遠く離れた火星で、再突入、降下、着陸に関わる多くの危険が待っているのだから。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Justin Bachman記者、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:Vac1/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.