【最終回・浅野拓磨】内田篤人からのLINEメッセージ

2018/5/13
浅野拓磨の日本代表歴は、わずか2年ほどの短い期間にしてその内容は濃い。
7人兄妹を育て上げた両親から受け継いだ「超ポジティブ」な性格の持ち主だが、アスリートとしてはめずらしいほどの「緊張しい」で、チームの一員としてピッチに立てば独善的なエゴイズムのかけらもない。
ただ、小さいころからなぜか揺るぎない自信だけはある。18歳でプロの世界に飛び込み、ほとんどピッチに立てない日々が続いた数年間も、なぜか「絶対にできる」という自信だけは失うことがなかった。
そんな浅野のメンタリティが、一度だけボロボロに打ち砕かれたことがある。
ただし、その経験がなければ、その後の彼の成長はない。どん底に落ちた浅野を救ったのは、一通のLINEメッセージだった。
浅野拓磨(あさの・たくま)
 1994年三重県生まれ。四日市中央工業高校2年時に高校選手権で得点王に。卒業後、サンフレッチェ広島に入団。2015年日本代表に初選出。2016年アーセナルに移籍したが、労働ビザの取得が難しくシュトゥットガルトにレンタル移籍(撮影:Itaru Chiba)

一生忘れられない試合

2016年5月。
翌6月のキリンカップに向けた事前合宿。僕にとってそれは、前年の東アジアカップに続く、2度目の日本代表でした。
当たり前だけど、ものすごく緊張していました。合宿には本田圭佑さんや香川真司さん、長友佑都さんたちバリバリの海外組がいて、そんなところに、同じウェアを着た自分がいるのが不思議で仕方なかった。
ああいうとき、本当は自らコミュニケーションを取りに行ったほうがいいんだと思います。でも自分はそういうタイプじゃないし、とにかくみんなのオーラがすごくて、なかなかそうはできなかった。
もちろん、気軽に話しかけてくれた先輩もいました。内田篤人さんです。
「後で俺の部屋に来いよ」
「今から風呂行くけど?」
やっぱりカッコいい。思わずそう感じましたが、エピソードは、それだけじゃありません。
合宿を経て、迎えた6月のキリンカップ。
初戦のブルガリア戦は途中出場でした。後半14分から途中出場し、自分でもらったPKを決めて代表での初得点を記録することができました。
続くボスニア・ヘルツェゴビナ戦はスタメン出場。あの試合については、もしかしたら覚えている人もいるかもしれません。僕にとっては、おそらく一生忘れられない試合です。
試合終了間際。スコアは1−2。清武(弘嗣)さんからのパスでフリーになった僕は、GKと一対一の場面でパスを選択しました。そのパスが相手にカットされて、同点にする絶好のチャンスを逃してしまった。
もちろん、シュートを外してしまうことを恐れてパスを選択したわけではありません。僕は僕なりに、パスを出したほうがゴールの可能性が高いと判断して、シュートを打たなかった。
ヴァヒド・ハリルホジッチ監督(当時)には、とにかく「裏を狙え」と言われていました。だからその一つ前のプレーでも相手の裏をとって、コースは限定されていたけれど、少し強引にシュートを狙った。
そのときの僕は、なか(ゴール前)の状況が見えていなかったんです。ボールが来たら絶対にシュートを打とうと考えていたから、ほとんど迷うことなくシュートを選択した。でも、そのシュートは相手の足に当たってゴールラインを割った。なかを確認すると青いユニフォームの選手が2人いました。
その瞬間、「パスを出していたら入っていたかもしれない」という思いが頭をよぎりました。そうしたプレーがあった後に、あの決定機を迎えたんです。

試合後に感じた「後悔」

ピッチの中央から僕がいた右サイドに斜めのスルーパスが出て、最終ラインの背後を狙った自分の足元にボールが転がる。ゴールを見ながらトラップして、シュートまで持っていけると思いました。
ただ、その前のプレーとは違ってなかを見ようとする意識があったから、はっきりゴール前の状況を確認することもできた。誰かはわからないけど、パスを受けようとする選手が2人、走っていました。
「より確実なプレーを」という思いで、僕はパスを選択しました。だけど、そのパスは通らなかった。
ゴールにつながらなかった責任の重さを痛感して、試合終了直後に僕は泣いてしまいました。心の整理がつかなかったから、できることならメディアの取材を受けるミックスゾーンを通りたくなかった。
でも、それを避けることはできません。当然のようにメディアのみなさんから、あのシーンについてコメントを求められるなかで、こう話しました。
「パスを選択したことを後悔している。シュートを打てばよかった」
何度も、何度も呼び止められました。だから、何度も同じ話をしました。
ようやくミックスゾーンを通り抜けてバスに乗ると、いくつかのLINEメッセージが届いていることに気づきました。そのうちのひとつが、内田さんからでした。
「みんなよくあるミス。シュート打てば良かったなんて言うなよ。横に(パスを)出したほうがゴールの確率が高いと思ったから出した。後悔はしていないくらい強気でいけ。噓でもいいから。初ゴール初スタメンおめ」(原文一部ママ)
そのメッセージを見て、ジワッときてしまった。
ほんの数分前、僕はメディアに向かって「後悔している」と言ったばかりでした。もちろん内田さんは、僕がそう話したことを知りません。
「後悔している」と言ったことを、僕はすぐに後悔しました。

大きな意味のある「後悔」

ゴールに結びつかなかったという“結果”だけを考えれば、正直、「シュートを打ったほうがよかった」という思いがなかったわけじゃありません。
でも、それはあくまでも結果論。実は、あのときの自分の判断が間違っていたとは思いません。
そこで僕が反省し、修正しなければならないのは、自分の判断に対するプレーの精度を上げること。つまり、もっといいタイミングで、もっとうまくパスを出すことができれば、必ずゴールにつながっていた。今でもそう信じています。
だからこそ、メディアに対してその瞬間の感情だけで「後悔している」と話してしまったことを、今でも後悔しています。自分のなかで可能性が高いと思えるプレーを選択したのだから、自信を持ってそう答えるべきだった。内田さんの言うとおり、あのときの僕は「後悔している」なんて言うべきじゃなかった。
あの一つのプレーの結果によって、僕のメンタルはどん底にまで落ちました。
でも、あのプレーに対する内田さんからのメッセージには、僕自身が成長するためのヒントが詰まっていました。
あのとき内田さんがくれた言葉がなければ、たぶん今の僕はいません。「後悔しています」と言ってしまったことに対して、僕はたぶん、これから先もずっと後悔しつづけるでしょう。
でも、自分にとってあれほど大きな意味をもつ後悔は、他にはありません。
(構成:細江克弥、写真:YUTAKA/アフロスポーツ)