【浅野拓磨】日本とドイツでは「対峙する相手の迫力」が違う

2018/5/11
ドイツに渡って以来、浅野拓磨は「“海外”のサッカーと日本のサッカーの違い」を痛感している。
2つ年上の宇佐美貴史(デュッセルドルフ/ドイツ2部)を例に挙げて、浅野はこう説明する。
「こちらのサッカーと日本のサッカーはまったくの別モノ。だから、一度慣れてしまうと、どちらに適応するのも難しい。宇佐美くんは一度ドイツでプレーして、結果的にはうまくいかなくて日本に戻ったけれど、僕に言わせれば、戻ってすぐJリーグであれだけの結果を残すなんて異常です。めちゃくちゃすごい」
それから、こう続けた。
「たとえばJリーグで試合に出ていない選手でも、海外に行けば試合に出られるというケースもたくさんあると思います。どっちがいいとか悪いとか、レベルが高いとか低いとかの問題じゃない。サッカーそのものの性質が違うから、“合う人は合う”と思っていて、もしかしたら、今後はそういうケースも増えてくるかもしれません」
「きっと、日本か、海外かという話ではないのかもしれませんね。『挑戦』という見方をする必要もないのかもしれない。自分に合うサッカーがどこにあるのか。それさえ見極めることができれば、活躍できる可能性がある場所は世界中にたくさんあるということだと思います」
日本のサッカーと海外のそれは、まったくの別モノ。
浅野だけでなく、海外でのプレー経験を持つ多くの選手がそう口にするが、具体的には何がどう違うのか。アタッカーの観点から、浅野はこの2年間で感じた“違和感”について話を進めた。
浅野拓磨(あさの・たくま)
 1994年三重県生まれ。四日市中央工業高校2年時に高校選手権で得点王に。卒業後、サンフレッチェ広島に入団。2015年日本代表に初選出。2016年アーセナルに移籍したが、労働ビザの取得が難しくシュトゥットガルトにレンタル移籍(撮影:Itaru Chiba)

一対一の守備のやり方の違い

「ブンデスリーガのレベル」については、いろいろな人からよく聞かれます。ただ、Jリーグとはサッカーそのものの性質が違いすぎると感じていて、比べようがありません。
「日本と世界」という意味でその違いを比較するなら、日本代表の一員としてブラジル代表やベルギー代表など世界トップレベルの国と対戦すると、やはり、選手個々のレベルの違いを痛感します。
その点は、世界からトップレベルの選手が集まるブンデスリーガでも同じ。同じドイツ国内でも、ブンデスリーガ1部と2部のあいだにも「個のレベル」における差は感じています。
例えば、一対一の局面。ブンデスリーガと日本では、守備のやり方に大きな違いがあります。
Jリーグでプレーしていたころは、ボールを持っている自分のタイミングやペース、リズムでプレーすることができました。でも、こちらでは同じ感覚でプレーすることができません。ボールを持っているときだけじゃなく、オフ・ザ・ボールの動きも同様です。
Jリーグでプレーしていたころの自分が、対峙する相手に対して“自分の間合い”で仕掛けられた理由は、まず、僕の武器がスピードであることを相手の選手が理解していたことにある気がします。ボールを持って前を向き、一対一の状況になったとき、相手は僕のスピードを警戒して、積極的にボールを奪いに来ません。それが構えた雰囲気でわかってしまうから、自分の間合いで勝負できる。
一方、ドイツでは、僕の武器がスピードであることを相手がわかっていたとしても、それに合わせて構えるプレーを選択しません。一対一の状況になったら、迷わずボールを奪いに来る。
こちらの守備はよく「一発でかわされる」と言われますが、そのぶん、一発でボールを奪うチャレンジをしてきます。だから、向き合った相手の足がどれだけ遅くても、一発のタックルやボディコンタクトで奪われてしまうことがある。日本のようにスピードを警戒して下がりながらサイドに追い込み、タイミングを見計らって身体を入れてくるという“数段構え”の守備を、ブンデスリーガの選手たちはほとんどしません。
そうした守備の特徴は、ブンデスリーガだけではなく、ヨーロッパのリーグ全体に共通していると思います。Jリーグと見比べてみるとわかるかもしれませんが、そういう守備が定着しているから、個人の局面ではワンプレーで攻守が入れ替わりやすい。相手がチャレンジしてくるからこそ、相手をかわせることもあれば、奪われることもある。とにかく、対峙する相手の迫力が違う。
一対一の守備に対する方法論の違いは、日本人の攻撃的な選手なら最初に感じる違和感で、その違いは決して小さくありません。
(構成:細江克弥、写真:アフロ)