「ビズリーチ」サービスのCMによって、「ビズリーチは人材会社」というイメージを持った方がいるのではないだろうか。

だがビズリーチは、創業から9年で多くのプロダクトを生み続けているテックカンパニーである。なかでも、同社の強みである高い技術力が際立つのが求人検索エンジン「スタンバイ」と、戦略人事クラウド「HRMOS採用管理」だ。事業立ち上げ時の想いを技術が、どのように支えているのか。スタンバイ事業部エンジニア西山氏と、デザイナー戸谷氏、そして代表の南氏に聞いた。(全2回)
「スタンバイ」を支える技術の力
西山:数ある事業の中で、スタンバイは全雇用形態を対象として、求人情報を可視化しています。より多くの求職者と企業が出会える「日本一の交差点」となるべく、多様な技術を用いて「求人検索エンジン」を開発しています。
これまでは、ハローワークや各求人媒体、企業のホームページなどに求人情報が散らばっており、仕事を探しづらいという状況がありました。
そこで、「日本語の自然言語解析」と「クローリング」のコア技術を用い、 スタンバイをつくる求人情報を一括検索できるようにしました。インターネット上の膨大な情報の中から求人に関連するものだけを抽出して、検索結果として表示しており、現在検索可能な求人件数は800万件を超えます。
検索機能の基本構造はGoogleと同じですが、サービスとしての強みは「求人情報に特化していること」と、「検索エンジンを自社開発している」こと。検索エンジンをほぼ内製で自社開発している企業は少ないと思います。
株式会社ビズリーチ スタンバイ事業部  エンジニア 西山創
SIerでGUIアプリケーション、Webアプリケーション開発からアーキテクトやDBAを経験。Seasar上でのOSS活動中にビズリーチを知り2011年に入社。ビズリーチ事業を経てスタンバイの立ち上げから開発に参加。現在はスタンバイAD開発チームとSREチームのマネージャーを兼務。
自社開発しているからこそ、開発が好きなエンジニアが集まってきている。例えば昨年秋、クローリングにかかわる社員が『クローリングハック あらゆるWebサイトをクロールするための実践テクニック』(翔泳社)を執筆しました。
社内で実際に使っているクローラーを支える技術や応用テクニック、クローリング先ページのJavaScriptの動作や対処法などをまとめています。これも、技術の価値を認めていただいたおかげだと感じています。
また、スタンバイでは、日々データを整理し「正規化」することも行っています。ユーザーが入力したさまざまなキーワードに対して正確な情報を返すために、入力された単語や文章を解析しています。たとえば、「パン屋」と「ベーカリー」、「美容部員」と「ビューティアドバイザー」は、同じ仕事を表すキーワードです。
このように入力する単語が異なっていても、ユーザーの意図に沿った結果が表示されるように単語や文章を機械学習を用いて解析し、検索精度を上げています。
加えて、ユーザーがどの単語をどのような頻度で使うのか、検索結果が10件表示されたらどの求人情報をクリックするのか、なども機械学習させています。
日本語の自然言語解析技術に関していえば、「スタンバイ」で掲載していた約276万件の求人情報(のべ約10億単語)から獲得した、「単語ベクトル」と呼ばれる言語研究用のデータセットを今年3月に公開しました。これは、私たちが行っていた言語解析技術による数値化(ベクトル化)の現段階における成果と言えます。
276万件の求人情報を基にしたHR領域の「単語ベクトル」を公開。単語の特徴が数値化されることで自然言語処理の精度が向上し、さまざまな目的に利用できるようになります。(画像リンクあり)
「スタンバイ」をつくるデザインの力
株式会社ビズリーチ スタンバイ事業部 デザイナー 戸谷慧
2014年4月、デザイナーとして新卒入社。スタンバイの立ち上げからデザイン全般を担当。アプリのUI/UXデザイン改善を経て、現在は検索品質向上など検索エンジンとしてのUX改善に尽力。また、自社デザイナーの取り組みを発信する、デザイナーブランディングチームを兼務。
戸谷:西山が言うように、「スタンバイ」のWebページやアプリでは、検索精度を日々向上させています。技術と重なる部分はありますが、UIも特にこだわっているのがスマートフォンアプリの「地図検索」機能です。
キーワードを入力し、リストから求人を選ぶ、あるいは地図から選ぶ。ユーザーが最適な仕事をいち早く見つけられるUI/UXをどのようにデザインしていくかをいつも考えています。
アルバイトやパートのお仕事を探されている方は、地元や最寄り駅など「場所」をキーワードに検索することが多い。その点に注目して、地図検索機能を作り、より使い勝手の良いアプリを目指しました。リリース後の今でも、ユーザーの行動をデザインに反映するために、ユーザーインタビューを行っています。
たとえば、子育て中の女性が仕事を検索できる時間は、手が空いた数分しかないという話を聞きました。そのため、ストレスのない速度で検索結果を表示できるのはもちろんのこと、検索せずとも求人情報に触れられるように、機械学習を活用した求人のおすすめ機能の精度を磨き続けています。
通いやすい場所を地図から探したいというニーズなど、求職者の方々の声を一つひとつ丁寧に整理していくと子育てや学業などの理由でそれぞれに制約があり、検索に「時間をかけられない」という声にたどり着きました。
そのため、そういった条件に合った求人が見つかるだけでなく、「仕事を探す」というそもそもの体験においても、UIとエンジニアリングの両面から「ユーザーが使える時間」に配慮したUXデザインを心がけています。
求人検索エンジン「スタンバイ」 地図検索画面
私たちのデザインチームは、表面的な見た目やグラフィックのカッコよさに加え、「デザインで課題を解決する」ことを大切にしています。課題を解決する方法をUIに落とし込む。
UXデザインやサービスデザインと言われることも増えましたが、私たちも以前からUXを向上させるデザイン思考を実践していました。エンジニアがそばにいてすぐに話し合える環境も良く、強いサービスを生み出す原動力になっていると思います。
スタンバイ事業を成長させる想い
西山:今後もスタンバイ事業は、進化を続けていきます。技術面、デザイン面から考察したとき、今後の課題は、当初と変わらず「ユーザーの利便性向上、検索精度向上」が最優先事項です。機械学習にも終わりはありません。
現状の機能もユーザーの反応を見ながら進化させ、新しいものと入れ替えたり、追加したり、進化させ続けようと思っています。
時代をつくっていけるサービスであるためには、最新技術の蓄積、そしてその技術をプロダクト開発にいかすスピード感が必要です。
そのためには一人ひとりが、日々新しい技術に触れることが大切です。ビズリーチでは、社内セミナーやイベントなどで個々人のノウハウや知見を共有する機会が多く、エンジニアとして成長しやすい環境があると感じています。
また、日々の開発業務のなかでも社内の様々なチームと連携できることが強みです。クローリング精度を上げることも、社内で対応していますし、機械学習の精度を向上させたいときは、前述の「単語ベクトル」研究を公開したAI室と連携して改善します。
UI/UXの向上は、すぐにデザイナーと相談する。同じ事業部内に、デザイナーもエンジニアもいる、内製だからこそできるスピード感ですね。
この体制は、技術面の強化はもちろん、事業に重要な「なぜやるか、何を作るか」という意識統一にも貢献していると思います。社内で「スタート地点の共有」がしっかりできている。そのスタンスに惹かれて入った仲間も多くいます。
これは、自社の技術・開発力の根幹かもしれません。だからこそスタンバイで、より多くの求職者と企業が出会える「日本一の交差点」を実現するために、選択肢と可能性を広げる、より良いプロダクトを提供し続けたい。それが、私たちが描く未来です。
ビズリーチが目指す、技術が変える未来
株式会社ビズリーチ 代表取締役社長 南 壮一郎
1999年、米・タフツ大学を卒業後、モルガン・スタンレー証券の投資銀行部でM&Aアドバイザリー業務に従事。2004年、楽天イーグルスの創業メンバーとなる。その後、株式会社ビズリーチを創業し、2009年4月、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」を開設。戦略人事クラウド「HRMOS(ハーモス)」、求人検索エンジン「スタンバイ」、事業承継M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」など様々なサービスを展開し、インターネットの力で社会課題の解決に取り組む。
:私たちのミッションは、「インターネットの力で、世の中の選択肢と可能性を広げていく」こと。技術を活用して、社会の課題を解決していきたいという想いが強くあります。
世の中には、ひと言では語れないほどさまざまな課題がありますが、その中でもまずは「未来の働き方」を自分たちのサービスで体現していきたいと考えています。ありがたいことに、日本初のダイレクト・リクルーティングサービスである「ビズリーチ」が少しずつ認知いただけるようになった今、どうしても人材会社と思われてしまうことが少なくありません。
ですが、実は創業間もない時期から、ビズリーチ以外にも多くのオンライン・サービスを展開しています。現在も、エンジニアやデザイナーなど、プロダクトづくりを担当している社員は全体の約3割を占めています。また、他企業でCTOを務めていた者やオープンソースのコミッター、技術書の著者などが多く在籍しています。
昨年、事業承継 M&Aプラットフォーム「ビズリーチ・サクシード」を立ち上げ、国が課題として掲げる事業継承問題に取り組み始めましたし、今年もHR領域以外の新規事業を次々とローンチする予定です。
今後も、スタンバイのような、私たちが生きる時代を代表するようなサービスをさまざまな領域で展開し、社会の課題を解決していきたいと考えています。
(インタビュー・文:松田政紀[アート・サプライ]、写真:小島マサヒロ)