【挑戦者たち】ドローンハンティングは甘かった

2018/4/28
4月1日の配信で多くの反響を呼んだ、新時代の起業リアリティショー「メイクマネー 起業家グランプリ2018」。賞金1000万円をかけた戦いを終えた挑戦者たちのインタビューをお届けします。
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東大を辞める覚悟で
「職を辞してフルコミットします」
1人目の挑戦者、鯉渕幸生は自身のプレゼンをこう締めくくった。
彼が考案したのは「ドローンハンティング」。
サーモグラフィカメラとAIを搭載したドローンが超音波で害獣を捕獲し、ジビエとして流通させるアイデアだ。
専用ドローンの開発には、世界最大手のドローンメーカーDJIの協力も取りつけた。
害獣被害に悩む地方を救い、食料自給率にも革命を起こそうと、鯉渕は意気込む。
ドローン×AI×害獣駆除
──「ドローンハンティング」を考案したきっかけは。
日本国内の害獣による農作物の直接被害額は、年間1000億円に上ります。
特に地方では猟師の高齢化が深刻ですし、害獣被害があるからと農業を諦める人も少なくない。
そして、私は生物学者です。イノシシやシカが害獣として忌避されて、無駄に殺されていることが苦痛でした。
この2つの課題を解決したかったんです。
鯉渕幸生(こいぶち・ゆきお)。東京大学大学院新領域創成科学研究科・准教授(生物学者)
──それをドローンで解決しようというのが今っぽいですよね。
私は、2012年頃からドローンを使っています。大学の研究に必要で、高高度からの広域写真の撮影に使用してきました。
しかし、我々はまだドローンの技術を十分に生かしきれていません。写真や動画の撮影にとどまらず、もっと大きな可能性があります。
私のアイデアは甘かった
──害獣駆除は、ドローンの新しい使い方ですね。
NewsPicksで募集記事を見つけた時点で、アイデアの完成度は50%程度でしたから、大急ぎでビジネスプランに仕立てました。
しかし、私のアイデアは甘かったと言わざるを得ないですね。
──プレゼンと質疑の計10分間。審査員の反応は悪くなかったと思いますよ?
いえ、そういうことじゃないんです。
私は今回のアイデアを起業家としてではなく、学者として考案しました。だから、根元にあるのは「地方を救いたい」「アップデートしたい」という思いです。
極端に言えば、社会の課題が解決されるなら、自分のアイデアをマネされてもいいと思えてしまうんですよ。
これでは、ビジネスの世界では勝てない。
1000万円を獲得した角村嘉信(左)に次ぐ評価を得た、鯉渕と中石真一路(右)。
──今回ともに戦ったライバルの中で、印象に残っている人はいますか。
やはり、優勝した「エンコードリング」の角村さんでしょうね。彼の優勝には納得です。
角村さんは、現時点で誰にもマネできない、オンリーワンのプロダクトを作ってきた。
私のプランの根底にある甘さは、彼に気付かされました。ともに戦った人間として、彼のことを尊敬していますよ。
人生100年以上時代
──ところで、ずっと気になっていたんですが、もう東大辞めちゃったんですか?
まだ在籍しています笑。
1000万円を獲得できていたら、辞めても良かったのですが、獲得できませんでしたから。
「ドローンハンティング」のメドをもう少しつけるために、基礎的な研究を積み重ねています。
私はこれからの時代、人間は100年以上は生きるだろうと考えています。
となると、人生をかけて1つのことに取り組むには、あまりにも長すぎる。だからこそ、定期的なキャリアチェンジをしていくべきだと考えています。
大学卒業後もアカデミックな世界に身を置き続けてきた私にとって、「ドローンハンティング」での起業が次のキャリアになればいいと思います。
米国でのトライ・アンド・エラー
──番組出演後、「ドローンハンティング」の進捗はいかがですか。
准教授としての職務をこなしながら、時間を作ってドローンの研究を続けています。
今月も米国のメリーランド州で実験してきたところです。
──どんな実験を?
相変わらず、シカをドローンで追いかけていますが、これがなかなか難しい。
臆病なシカに、ドローンで近づこうとすると簡単に逃げてしまう。そのため、ドローンから発する超音波がどれだけ有効なのか、まだわかりにくいんです。
またすぐに米国に渡ってトライするつもりです。
スピード&スケール
──「ドローンハンティング」のプランに変更は?
当初は、IoT罠の販売、地方自治体や森林組合からの害獣駆除の請負とジビエの販売、ドローンAIのソフトウェア販売と段階を踏んで、徐々にビジネスの規模を大きくしていく構想でした。
これでは遅い。必要資金を1000万円から見直して、マネタイズまでのスピードとスケールを同時に追求していきます。
──「時間がかかる」という指摘は、堀江さんからもありましたね。
例えば、iPhoneが世界中の人に受け容れられたのって、アップルが一気呵成に攻めたからですよね。
私の「ドローンハンティング」もいくつもの地域や山で同時多発的にスタートさせるのがいいなと。
今はまだ方法論を確立しようとしているところですが、将来は特許を取得した上で、ライセンスビジネスとしての展開を考えています。
鯉渕のプランは「マネタイズまでに時間がかかる」と指摘した堀江貴文氏。
密着取材させて下さい
──東大准教授としての職務と「ドローンハンティング」の準備の両立。鯉渕さんの原動力はどこから?
突き詰めて考えると、私は「お金を稼ぐこと」よりも「社会をより良くする」ことに喜びを感じるんです。自分の中にあるこの思いは、この先も変わらないと思います。
害獣による農作物被害をなくして、ジビエの活用で食料自給率も向上させる。これを実現させるために、私の知識、能力、時間を使えると幸せですね。
──今後「メイクマネー」取材チームに密着取材させてください。
いいですけど、まだしばらくは、地味な映像しか撮れないと思いますよ。シカも簡単に逃げちゃうし笑。
でも、堀江さんも「ドローンがシカやイノシシを追いかける映像は見たい」と言ってくれたし、実現に向けて頑張ります。
<取材:安岡大輔、デザイン:片山亜弥、写真撮影:鈴木大喜>