【藤原和博】「信用がある人」の10カ条

2018/4/24
誰もが70歳まで働いて、90代まで生きるこれからの時代、折り返し点の「40代半ばの決断」が人生全体の充実度を決める鍵となる。自らも40代後半にリクルートから教育界に転身した藤原和博氏が、自身の経験もふまえ、迷える世代に向けてアドバイスする。

信用があるって、どういうこと?

世の中には、「信用される人」と「信用されない人」がいる。
おのおのの信用度に、仮に0%から100%と偏差値のようなものを振ったとすれば、信用度0の人はお金を貸してもらえないでしょうし、信用度100の人は1兆円でも借りられるということになります。
こうした金融的な信用のほかに、どれほどの仕事を任せられるかでも差が開きます。あなたが社長だとしたら、信用度0の人には仕事は任せられないが、信用度100の人に多くの仕事を任せるだろうことは火を見るより明らかでしょう。
もっと身近な問題で考えてみましょう。友人がどれだけあなたの夢ややりたいことを実現するために動いてくれるかという場合でも、信用度30の人より信用度70の人を応援するはずです。
つまり、信用される人の方が、より自由な人生を切り開けるということ。世の中全体も、そんな仕組みで動いているのです。
だからここでは、「あの人には信用がある」とか「この人物は信用できる」というときの信用(クレジット)を「他者から与えられた信任の総量」と定義します。
藤原和博(ふじはら・かずひろ)/教育改革実践家
1955年東京生まれ。 東京大学経済学部卒業後、リクルート入社。 東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、 1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローに。 2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として 杉並区立和田中学校校長を務める。 2008年~2011年、橋下大阪府知事特別顧問。2016年春から奈良市立一条高校校長として2年間勤務後、東京に戻る。著書は『10年後、君に仕事はあるのか?』など多数、新刊『45歳の教科書 戦略的モードチェンジのすすめ』が話題に。
大事なことなので繰り返しますね。
「他者から与えられた信任の総量」が大きければ、より大きな仕事を任せられるでしょうし、仕事を選ぶ選択肢の幅も広がります。
だから、個人にとっては、「信任」されればされるだけ、「クレジット」量が大きければ大きいだけ、人生の自由度が高くなり、自分の夢やビジョンが実現しやすくなることになります。
信用(クレジット)は、いわば、ゲームにおける「経験値」。
人生ゲームを有利に進めるためには、勉強や仕事を通じて、これを高めておくことが必要だというわけです。
この章では、どうすれば信用(クレジット)=「他者から与えられた信任の総量」をより多く蓄積していけるのかを具体的に検討していきます。
易しく言えば、「信用されるには、どうしたらいいのか?」という問いに対する答えです。
信用(クレジット)はまた、「信頼」と「共感」の関数でもあります。
他者があなたに信任を与えるときには、理性で信頼することもあるが、感情で共感することも欠かせないということ。しばしば、感情での共感が先行する場面も見受けられます。
あえて数式で表せば信用(クレジット)= f(信頼、共感)。
信頼と共感をゲットしたものが、この社会では力を得ると解釈してもらってもいいでしょう。

信用がある人の10カ条

中学生向けに書いた拙著『「ビミョーな未来」をどう生きるか』(ちくまプリマー新書/2006年)では、基礎編として、「高クレジット人間」のための10カ条を、次のように並べています。
第1は 挨拶ができる
第2は 約束を守る
第3は 古いものを大事に使う
第4は 人の話が聴ける
第5は 筋を通す
第6は 他人の身になって考える
第7は 先を読んで行動する
第8は 気持ちや考えを表現できる
第9は 潔さがある
第10は 感謝と畏(おそ)れの感覚がある
「挨拶ができる」「約束を守る」「人の話が聴ける」は、今でも学校教育で先生たちが一番重視する三種の神器と言えるでしょう。あるいは親が子に教える家庭教育の大原則とも重なります。
各項目について、少し解説してみましょう。
(1)挨拶ができる
人間関係の基本ですね。人間が社会を構成して生きる以上、グローバルにも第一の原則でしょう。
(2)約束を守る
人間は社会の中で(たとえ家族同士でも友達間でも)様々な信用(クレジット)の取引をして暮らしています。待ち合わせに時間通り来るかどうかというように、お金が伴わない場合でも、信用をやり取りしているんです。
(3)古いものを大事に使う
アンティークやヴィンテージのスポーツカーが好きというような意味ではありません。祖父が使っていた古い腕時計をしている人はなんとなく信用できますよね。新品を次々と消費する人より、大事に使うと価値が増殖することを知っているという意味です。
(4)人の話が聴ける
コミュニケーションのリテラシーが高いこと。コミュニケーション(Communication)の語源は「communis」というラテン語ですが、「伝達」という意味ではなく、「共有の」という意味なんです。
つまり、相手の話が聴けること、質問できること、自分と相手の共通点を見つけられることが大事なんですね。自分の考えや意思を一方的に伝えるだけでは、独り言の応酬になってしまって、相手と交流していることにはなりませんから。
(5)筋を通す
ロジカルシンキングのリテラシーが高いこと。話が論理的でないと、たとえ感情的に共感されたとしても信頼はされないでしょう。グローバルな関係を作りたければこれが欠かせません。
また、「あの人の生き方には一本筋が通っている」というように、テーマのある人生、ライフワークを感じさせる生き方をしている人は尊敬される。
特に人生の後半には、この美意識や哲学性が大事になります。
(6)他人の身になって考える
ロールプレイ(役割演技)のリテラシーが高いこと。様々な社会的役割をその人の身になって感じられるかということ。営業マンはお客さんのロールプレイができなければ商品を売れないでしょうし、編集者は読者のロールプレイをして、今だったら何を読みたいかを想像します。
世界中を放浪したり、たくさんのバイトを渡り歩いたり、あるいは大きな病気やハンディを克服して冒険にチャレンジしたり……様々な経験を積んだ「経験値」の高い人がリスペクトされるのは、その経験を通じて多様に他者をロールプレイできる視点を獲得しているからでしょう。
読書も、多様な視点のロールプレイ効果がありますから、この武器を磨きます。
何事も、経験量の多い人にはかなわないということ。
(7) 先を読んで行動する
シミュレーションのリテラシーが高いこと。これが起こったら次はこんなことになるな、と推理を働かせられる人も信用されます。
天気図の高気圧と低気圧の配置から「明日は雨になるでしょう」と予測する天気予報士が典型ですが、証券マンも「中国でこういうことが起こったから、日本にはこういう影響が出る」と推理して、だったらこの会社の株が上がるだろうというように、お客様にすすめることができなければいけない。
(8) 気持ちや考えを表現できる
プレゼンテーションのリテラシーが高いこと。
学校の授業には「体育」「美術」「音楽」「技術・家庭」「情報」のような実技教科がありますが、これらはそれぞれの知識を習うというよりも、実は表現技術を学んでいると考えた方がよさそうです。
自分の考えや思いを、体で(ダンスなどは典型的ですね)、スケッチや造形で、音やリズムで、手先で、コンピュータで、それぞれ自己表現できる技術を磨いているわけです。
自分の考えをさっとイラスト図や漫画にできるビジネスパーソンは、仕事仲間と即ビジョンを共有できるので便利ですよね。
どの表現技術も、50億人がスマホでつながるユーチューブ時代には、あなたがアッという間に世界に評価されてメジャーになれる(信用が一瞬にして極大化する)可能性が高まります。PPAPの世界的大ヒットがよい例だと思います。
もう、お気づきでしょう。
(4) (5 )(6) (7) (8) の5つは、私が20年前から提唱している「情報編集力」の5つのリテラシーです。
(9) 潔さがある
超の付く高齢社会では、高齢者同士の評価として、また若者が先輩上司や年配者を見る評価としても、「潔さ」の観点がクローズアップしてきます。
自立(インディペンデントになること)が怖いからと、いつまでも会社や組織にぶら下がっている人は、後進に道を譲る「潔さ」がないと評価されるでしょう。
45歳はまさに、この判断の岐路になります。「後ろの扉を閉めないと︑前の扉は開かない」という意味がわかるでしょうか?
組織で守られる立場を「辞める」というのは、人生における「潔さ」の表現。
前章をお終いにしなければ、次の章は始まらないのです。
(10) 感謝と畏れの感覚がある
成熟社会が深まってくると、人間の宗教性が問題にされるようになります。
宗教性とは何か?……ひと言でいえば「感謝」と「畏れ」の感覚があるということ。特定の宗教に帰依したり信徒にならなくても、この感覚は得られます。
何かいいことが起こったときに、それを自分の実力とだけ考えないこと。51%実力かもしれないが、49%は他者や環境や自然の力によってもたらされたとする気持ち。
であれば、その利益も独り占めではなく、半分還元されるべきものになるでしょう。
いっぽう、その他者や環境や自然に対する「畏れ」の感覚も大事です。ヤバイことをやったら罰されるという「怖れ」ではなく、全体がつながっている中に自分がいるという真摯で謙虚な気持ち。自分を生かしてくれているすべてのものに対するリスペクトと言い換えてもいいかもしれません。
もちろん宗教を信じるのもかまわないのですが、そうした自覚ができるのなら、必ずしも、その対象を「神」とか「仏」と呼ぶ必要はないのかもしれません。
たとえ45歳になっても、この10個の原則が「高クレジット人間」の基盤になるということに、異論はそれほど出ないのではないでしょうか。
(写真:竹井俊晴)
5月31日開催予定のNewsPicksアカデミア講義:藤原和博「45歳の教科書(実践編)」では、藤原氏による、自分の「信用度」を数値化できるチェックリストの回答を行います。当日参加される方にはもれなく『45歳の教科書 戦略的「モードチェンジ」のすすめ』をプレゼントいたします。