フェイスブックを「時代遅れ」にするテクノロジー

2018/4/23
ザッカーバーグの「独白」
まるで、2カ月後の厄災を「予言」していたかのような投稿だった。
2018年に入って間もない1月5日、フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグは新年への抱負として、長いポストを公開した。それは、ある意味では、2004年から自らが圧倒的なスピードで育て上げてきた「巨大な帝国」を否定するような内容だった。
「今日では、多くの人々は、その約束について信念を失ってしまったように見える。少数の巨大なテクノロジー企業の台頭、そして市民を監視するための政府によるテクノロジーの使用とともに、多くの人々は、テクノロジーは権力を非中央集権化するものではなく、中央集権化させてしまうものだと信じるようになってしまった」
コンピュータやインターネットのテクノロジーは、常にある種の設計思想を持って、進化を遂げてきた。その一つの大きな潮流は、情報や価値を握る「権力」を、いかに既存の権威から、分散化させていくかにあった。
Decentrization(非中央集権)呼ばれる設計だ。ザッカーバーグの言う「約束」もこのことを指している。
2018年4月11日、議会での証言台に立ったザッカーバーグ氏(写真:Chip Somodevilla/Getty Images)
だが、皮肉なことに、今や世界の情報を牛耳っているのは、まさにそのインターネットテクノロジーを信じ、イノベーションを起こしてきた企業たちだ。
アップル、アマゾン、グーグル、そしてフェイスブック──。
この10年で、テクノロジー企業たちは怒涛の成長を遂げ、世界の企業の時価総額でトップを独占するようになった。当然、ザッカーバーグの言う少数の「巨大なテクノロジー企業」に、フェイスブックが含まれていないと考える方が難しいだろう。
いつの間にか、自分たちこそが中央集権化の象徴となっていた──。そう示唆する投稿の中で、ザッカーバーグは、こう続けていた。
「これら中央集権へのカウンタートレンドである暗号化や仮想通貨は、中央集権のシステムから権力を奪い、人々の手に取り戻させるものだ。(中略)。私は、これらテクノロジーについて、ポジティブ、ネガティブ両方の側面を深く学びたいと関心を持っているし、どうやってサービスに組み込めるかを考えている」
だが、その思いが結実する前の、3月17日、フェイスブックは創業以来の「危機」を迎えることになった。その背景にあったのは、政治絡みのスキャンダルだけではなく、やはり情報を一手に握る中央集権テクノロジー企業への人々の不満だった。
【スライド】いまさら聞けない「フェイスブック問題」3つのポイント
高まるブロックチェーンへの期待
「フェイスブックの問題が浮き彫りにしたのは、一つの企業が、何億人ものデータを抱えている状態では、そのデータを彼らが好きなように扱えてしまうことでした。もう一つは、データが中央集権で管理されている場合、簡単にハックされてしまう点も重要なことです」
4月20日、都内で開かれた会合で、ブロックチェーンメディアLongHashにも参画する作家のエミリー・パーカー氏はこう指摘した。
「アメリカでのフェイスブック問題を受けて、人々は、より非中央集権について考えるようになっています。そして、自分のデータを自分で管理・コントロールできることへの意識が高まっています」
ここで登場するのが、ブロックチェーンが持つ「非中央集権」の設計だ。
ブロックチェーンは、ビットコインでも知られるように、中央管理者を介在させずに個人同士が価値をやり取りできる設計で知られる。
そのポテンシャルは、フェイスブックに自分のデータを支配されないようにすることだけではない。例えば、Airbnbを通さずに自分の家を安全に貸し出せたり、Uberに位置情報を握られずに運転手とのやり取りができたり、仲介を介さずに作家や映画監督と直接に作品への支払いができるなどの可能性を秘めている。
「ブロックチェーンは、フェイスブックのようなプラットフォームを時代遅れにするようなポテンシャルを秘めている」。パーカー氏は、CNNへの寄稿「How Facebook, Ultimate disrupter could be disrupted?」でこう指摘している。
2018年は、もしかすると、中央集権化した巨大テクノロジー企業が揺らぎ、新たな非中央集権テクノロジーへの渇望が噴出する年になるかもしれない。それは、一つの時代の転換へと昇華するポテンシャルを秘めている。
新たな革命は到来するか
特集「ブロックチェーン入門」では、注目が増すばかりのこのテクノロジーについて、多角的な視点から、わかりやすくお届けする。
まず第1回は、ブロックチェーンを語るにおいて、世界でも「最重要人物」であるヴィタリク・ブテリン氏への単独インタビューを掲載する。
【独白】ブロックチェーンの天才、「非中央集権」に賭けた思い
2013年に、わずか19歳で、ブロックチェーン「イーサリアム」を構想し、そのテクノロジーの持つポテンシャルを、仮想通貨だけでなく、あらゆる産業分野へと解き放った天才として世界がその一挙手一投足を注目している人物だ。
稀代の天才が思い描くブロックチェーンの世界、そしてイーサリアムを生み出すにいたった背景、フェイスブック問題への考察までを、余すところなくお届けする。
第2回は、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボ所長の伊藤穰一氏へのインタビューを掲載する。
【伊藤穰一】ブロックチェーンの「現在地」を教えよう
インターネットの黎明期から、世界を股にかけるテクノロジーのビジョナリーとして活躍してきた伊藤氏は、1990年代から、デジタル通貨のポテンシャルを唱えてきた人物でもある。
インターネットの歴史を知り尽くしてきた伊藤氏だからこそ見える、ブロックチェーンの本当の「真価」を、具体的に語ってもらった。
第3回は、ブロックチェーンの「完全図解」をお届けする。
【完全図解】ブロックチェーンを「理解する」3つのポイント
ブロックチェーンの名が知られるにつれ、世の中には入門書などが続々と登場しているが、どうしてもビットコインを始めとする「技術面」と、世に溢れる仮想通貨周りの情報が乖離(かいり)し、なかなか全体を整理するのは難しい。
この記事では、ブロックチェーンの設計思想の根本である「非中央集権」を軸にしながら、ブロックチェーンのポテンシャルと、それを取り巻くプレイヤーを整理し、これまでにない入門図解としてお届けしたい。
第4回目以降も、ブロックチェーンを語る上で欠かせないキーマンやプレイヤーたちへの取材の成果を続々と公開していく。
仮想通貨への狂想曲はいったん収束したかに見えるが、そのコアテクノロジーであるブロックチェーンへの関心は留まることを知らない。
ブロックチェーンはいかに新たな未来を切り拓くのか。本特集が、その理解を手助けする一歩目となれば幸いだ。
(執筆:森川潤、デザイン:砂田優花)