【YOSHIKI×山中伸弥×ベニオフ×三木谷浩史】イノベーターの条件

2018/4/15
2018年4月11日にウェスティンホテル東京で新経済サミット2018が開催され、主催者の楽天、三木谷浩史会長兼社長と米セールスフォース・ドットコム、マーク・ベニオフ会長兼CEOのキーノートセッションが実施された。
セッション後半ではX JAPANのリーダーYOSHIKIとノーベル賞科学者で京都大学iPS細胞研究所の山中伸弥所長もスペシャルゲストとして登壇。本稿ではその様子をリポートする。(セッションは全て英語で実施)

僕らはアントレプレナー

三木谷 ベニオフさん、今日はご参加いただきありがとうございます。僕たちがシアトルで初めて会った時のことを覚えていますか?
ベニオフ もちろん覚えています。20年ぐらい前でしょうか、当時は2人とも起業したばかりでしたね。私は”アントレプレナー(起業家)”であることを心から楽しんでいます。三木谷さんもそうではないでしょうか。
三木谷 全く同感です。僕はセールスフォースの「クラウドサービス」というコンセプトはとても素晴らしいと思っています。このコンセプトはどこから出てきたのでしょうか?
ベニオフ エンタープライズ(企業向け)ソフトへの課題感からです。当時のエンタープライズソフトはどれも複雑で使いにくく、おまけに高価なものをインストールせざるを得ない状況でした。
この分野でイノベーションを起こせば、クライアント企業の販売や流通、マーケティングや会計を変えることができます。
ちょうどそのころ、eBayに代表されるようなBtoC向けのインターネットサービスが人気を博していました。
BtoBの分野もeBayのように、インターネットをベースとしたインストール不要で、利用者に優しいサービスを作りたいと思ったことが「クラウドサービス」のセールスフォースを作ったきっかけです。
三木谷 そこから20年でセールスフォースは大躍進しましたね。
リソースが少ない中小企業がクラウドサービスを使うのはわかりやすいと思いますが、伝統的な大企業に導入してもらうにはなかなか困難が多かったのではないでしょうか。
ベニオフ 確かに最初は難しかったですが、私はクラウドサービスを提供することで、誰もがより低リスク・低コストで情報を活用できる環境が実現できると信じていたので迷いはありませんでした。
セールスフォースは今、世界中に33000人の従業員を抱えています。ちょうど会計年度が終わり、昨年は105億ドルの売上をあげることができました。
今年は恐らく125億ドルになるでしょう。これで世界のソフトウェア会社の中で上位5位に入ることになるのですが、セールスフォースはその5社の中でも一番急速に伸びている企業です。
そして、セールスフォースで一番売上を伸ばしている国は日本です。

「初心」とイノベーション

三木谷 だからベニオフさんは日本がお好きなのかもしれませんね(笑)。ベニオフさんは日本についてどのような印象をお持ちですか?
ベニオフ 確かに日本のことは大好きです。私は日本のビジネス的な面だけでなく、その文化的な面もとても愛しています。
私は仕事で来日する際には、東京に行く前にいつも京都に行って瞑想をすることにしています。この前は龍安寺に行きましたが、あの15個の庭石を見ると初心に戻ることができます。
そしてこの「初心に戻る」というマインドがイノベーションを実現するために大事です。
石庭の名で知られる龍安寺の方丈庭園の美しさは、日本だけでなく海外でも有名だ。(写真:MasaoTaira/istock.com)
三木谷 イノベーションについて詳しく聞かせてください。セールスフォースは、なぜこのように継続的なイノベーションを起こし続けることができたのでしょうか。
ベニオフ “アントレプレナーシップ(起業家精神)”を忘れないことです。ここで大事なのが「初心に戻る」という考え方です。
もちろん新しいアイデアをどんどん産み出し続けることは大事です。ただ、それと同じくらい大事なことが、起業した時の「初心」を持ち続けることです。
京都に行くとその「初心」を思い出すことができます。
三木谷 セールスフォースはベニオフさんのリーダーシップもあり、イノベーティブな企業であるだけでなく、社会貢献も大事にされていますよね。具体的にはどのような活動をしているのでしょうか。
ベニオフ 私たちが創業した20年前、3つのやりたいことを掲げました。
1つは新しいテクノロジーを取り扱うこと。これは私たちにとってはクラウドサービスですね。
2つ目は新しいビジネスモデルを作ること。ソフトウェアの世界ではこれまで主であったライセンス契約ではなく、オンラインでのサブスクリプションビジネスを導入することで、これを実現しました。
3つ目は社会貢献活動にも同時に取り組むということ。
私たちには「1-1-1モデル」があります。これは株式の1%を寄付や資金援助に回し、就業時間の1%をボランティア活動に充て、製品の1%を非営利組織に無償で提供するというものですが、この「1-1-1モデル」を創業以来ずっと続けています。
なぜこんなことを続けてきたかというと、私は「企業は世界をより良くするためにある」と信じているからです。「利益さえ上げればいい、自分さえ良ければいい」という姿勢からはイノベーションは生まれません。
いま、Facebook問題のように企業の社会的責任が改めて問われています。テクノロジーは世界をより良くするために使わなくてはなりません。

瞑想して集中力を高める

三木谷 おっしゃる通りですね。
そろそろ今日のスペシャルゲストをお呼びしましょう。X JAPANのYOSHIKIさんです。皆さん拍手でお迎えください。
YOSHIKIさんはX JAPANのライブのリハーサルを抜けてこの場に来られました。昨年に続き来ていただきありがとうございます。
YOSHIKI こんにちは。YOSHIKIです。三木谷さんとベニオフさんには昨日のライブに来ていただきましたね。楽しんでいただけましたか?(X JAPANは4月10日、11日にZeppダイバーシティ東京でライブを実施)
ベニオフ 昨日のパフォーマンスは本当に素晴らしかったです。ファンの熱狂と会場の一体感が特に印象的でした。
三木谷 ベニオフさんも私も興奮の連続でした。昨日のライブを終えてYOSHIKIさんの心境はいかがですか?
YOSHIKI 昨日は首の手術をしてから初めてとなる、ドラムを使ったライブでした。
ステージに上がった時、オーディエンスや友人の顔が見えたのですが「ああ、またここに帰ってくることができた」と思い、涙が出そうになりました。
ベニオフ YOSHIKIさんはロックのドラムを叩くだけでなく、クラシックのピアノも弾くプレイヤーですよね。こんな人は世界のどこにもいません。2つの全然違う楽器を使いこなすのは難しいことではないですか?
YOSHIKI 慣れようとしてはいますが、確かに大変ですね(笑)。
ドラムとピアノを両方プレーするのは、例えるなら数マイルも本気で走った後に、突然座禅をするようなものです。
ベニオフ 座禅と言えば、先程の三木谷さんとの話でも出ましたが、以前YOSHIKIさんとも一緒に京都に行ってお寺で座禅をしたことがありましたよね。
YOSHIKIさんは瞑想することにより、アーティストとしてのパフォーマンスに影響があると思われますか?