学術誌が発表した「オルソムニア」

あなたが、眠りに悩む人たちの1人だと仮定しよう。
不眠症による幻覚症状などがあるわけではないが、眠りに落ちるまでにさんざん寝返りを打ち、夜中に頻繁に目を覚まし、なぜかハッと目覚めて朝4時に1日を始める羽目になる。そんなときは、どうすればいいだろうか。
テクノロジーの進歩のおかげで、昨今では「夜のコーヒーを避ける」「ベッドに入るかなり前にスクリーンを閉じる」といった睡眠にまつわる昔ながらの助言にとどまらない選択肢がある。スリープトラッカーを試してみるという手があるのだ。
このちょっとした装置は睡眠を細かく記録するためのもので、習慣の改善や一晩ぐっすり眠る方法の把握に役立つと謳われている。
なんとも魅力的だが、ひとつだけ問題がある。最新の科学的知見によれば、小さなリストバンドやベッド脇のガジェットが強迫観念になり、逆に睡眠が悪化する人もいるというのだ。
学術誌『ジャーナル・オブ・クリニカル・スリープ・メディスン』に掲載された最新記事では、「オルソムニア(orthosomnia)」と名づけられた新種の睡眠障害について説明されている。
オルソムニアは「ortho(正しい)」と「insomnia(不眠症)」を組み合わせたもので、「正しい」睡眠に対する強迫観念を意味する。
研究者らによれば、軽度の睡眠障害がある人の一部において、スリープトラッカーを購入したものの、トラッカーのデータに不健全にふりまわされるだけに終わったケースが見られたという。トラッカーをめぐるこうした不安が、結局は睡眠を悪化させることになった。

脳や身体の感覚と矛盾するとき

この不安はおそらく、そうした人たちを診察する医師にとっても、果てしない悩みの種になっているだろう。というのも、スリープトラッカーのデータを手にした患者たちが診察室を訪れているからだ。
そうした患者たちは、新手の装置が記録したデータにすぎないものを根拠に、自分はひどい睡眠障害に苦しんでいると思いこむ。要するに、自分の身体よりもトラッカーを信用し、身体が気持ちよく朝を迎えているにもかかわらず、「低い睡眠効率」や「浅い睡眠」を示す装置のデータを信じてしまうのだ。
「フィットビット(Fitbit)」が強迫観念になると聞くと、やや常軌を逸しているように思うかもしれない。
だが、夜の睡眠にまつわる感情が翌日の疲労感に影響を与えるとする説には、科学的な根拠がある。別の研究では、睡眠不足に対して前向きな姿勢をとり、それほど疲れていないと自分に言い聞かせれば、身体の動きにも実際に良い影響が出ることが明らかになっている。
一方、スリープトラッカーは一部の人に関して、それとは逆のマイナスの影響を及ぼすようだ。つまり、悪いデータを見て、自分は疲れていると思いこんでしまう。もっと精密な科学的検査を受けて完璧に健康だとわかっても、トラッカーを信じてしまうのだ。
ここからどんな教訓が得られるだろうか。
どんな人も例外なくスリープトラッカーの使用を避けるべきだと言っているわけではない。大多数の人にとって、スリープトラッカーは楽しみながら睡眠スケジュールを管理できる便利な手段だ。
だがここで紹介した研究は、スリープトラッカーのデータを鵜呑みにしてはいけないことを示唆している。装置のデータが自分の脳や身体の実際の感覚と矛盾しているのなら、自分の身体を信じるべきだ。そうでないと、オルソムニアに陥るリスクを冒すことになるだろう。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:Koldunova_Anna/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.