【鈴木大輔】チャンス減少の今、自問自答する「傷つく覚悟」

2018/4/13
スペインに来て厳しい競争の中でプレーするようになり、試合に出られないことが多くあります。
そのたびに、来るべき時のために準備をし、チャンスをつかんでいく必要がありました。
生かせなかったチャンスもたくさんありましたが、それでも自分と向き合い準備し続けることによって、成功体験を重ねることができました。
そんな体験から、チャンスをつかむためには自分のことをどれだけ知っているかが大事だと感じています。

「不安な自分」との向き合い方

以前、試合に出られなくなった時に、「このままずっと試合に出られなくなったらどうしよう。やばい」と焦ってばかりいました。
今でもそんな自分はいますが、そうした自分が顔をのぞかせると周囲の評価が気になり、ミスを恐れたり引きずったりします。
またチームメートの出来や自分が出ていない時のチームの勝敗に、自分の感情が左右されていましたし、チームの勝利を素直に喜べない自分を情けなく感じました。そして将来のことをマイナスに妄想する自分がいました。
その時は、苦しみながらも自分の出番はやってきて、幸運にも試合に勝利することができました。
試合後に自分の感情を振り返った時に、勝手にマイナスに考えて自分で自分を不安にさせる癖があるなと気づきました。
マイナスに考えて無意識に消極的になり、プレーに精彩を欠いている間、チャンスから遠ざかっていたのかもしれないと思うと、もったいないなと感じました。
その経験から「余計なことを考えても結局状況は変わらない」ということに気づき、その後再び出場機会を失った時には、たとえ不安に思う自分が出てきても「無駄なことを考えているな」と一歩引いて捉えることにしました。すると「一日一日、自分にできることを精いっぱいしよう」と、前向きに意識を注げるようになったのです。
そして、やはりチャンスは来ました。
そのチャンスを生かせた後は、特に以前と景色が変わっているわけでもなく、心は落ち着いていました。
自分の感情を知り、コントロールできたことで感情が揺さぶられることがなく、そもそも心が落ちることはなかったから喜びが爆発することもなかったのだろうと思いますし、巡ってきたチャンスに動じることなく自分の実力を出せたのだと思います。
この成功体験を得てからは、自分自信を苦しめている時に、以前のように敏感になり、余計なことを考えることはなくなりました。「考えなくてもいいことを考えている」ということがわかるようになったのです。
やるべきことをやっていれば、いつかチャンスが来る。それなら自ら不安になるようなことを考えるのではなく、将来自分がやりたいことや楽しいことを考えながらワクワク過ごしていた方が、結果的にチャンスを呼び込めるし、チャンスが巡ってきた時に自分の実力を出せると感じました。

なぜ海外でプレーしているのか

サッカーにおいてチャンスを生かすためには、自分のプレーについてもよく知っていることが大事だなと感じています。
例えば足の速さに自信がなければ、隣にいる選手に常に近い位置でカバーリングして欲しいと試合前に要求する。あるいはパスに自信があれば、前線の選手に常に狙って欲しいスペースを伝えることによって、自分のパフォーマンスを上げることにつながり、チャンスをつかみやすくなると思います。
これに関しては、チームメートがすごく参考になりました。
彼らは自分が実力を出しやすいように、仲間にあらゆる要求をしています。自分の長所と短所をよく理解していないと、この要求はできません。きっと彼らは幼い頃からの厳しい競争で、自分自身と向き合ってきたのだろうと思います。
自己を分析することはチャンスをつかみやすくするだけではなく、人としても自分自身を成長させてくれると思っています。
自分の場合、サッカーをしている目的が試合に出続けることや、世間的により強いと言われているクラブに移籍することになってしまいがちで、困難にぶつかった時に心が動揺していました。そんな弱い自分を分析して把握することで、状況が悪くなった時にも一喜一憂せず、粘り強く立ち向かうことができるようになりました。
どんな時に気持ちが落ちているのか、なぜ苦しいのかを理解することにより、以前よりも常に気持ちをフラットに保つことができるようになりました。この体験ができたことで、成長を実感することができたのです。
まさにこの成長を味わうために厳しい環境に身を置きたいのだと、サッカーをしている目的、海外に出ようと思った理由に気づくことができました。

弱い自分を知り、成長の第一歩へ

海外に出て多くの恥をかいてきました。自分にとっては全てが新しい経験であり、恥をかかざるを得ない状況が多くあります。
そんな時、なぜ海外に出たのかという動機や、自分がサッカーをしている目的に気づくことができれば、悩む時間を減らすことができます。
むしろ、「自分はどういう時にどんな感情が出てくるのか」を分析する材料になり、成長できる機会だと捉えることができます。
先日読んだNewsPicksのニューエリート特集で、「性格スキルの鍛え方」という記事がありました。
【論考】ニューエリートの前提条件「性格スキル」の鍛え方
性格はスキルの一つであり、性格スキルは大人になってからでも成長させられるそうです。「自分が経験していることはまさにそれだ」と、ハッとさせられました。
性格スキルを上げるためには、どれだけ自分を知っているかが大事だとその記事にありました。弱い自分には、嫌でも自分自身と向き合う機会が多く出るような、厳しい環境に身を置くことが必要だったのだと腑に落ちました。
苦しい経験から、自分を知るには弱さを認めることが求められ、「傷つく覚悟」が必要だと思っています。これからも「傷つく覚悟」を持って、自己を分析し、成長していこう。
そんなことを出場機会が減ってきている今、来るべきチャンスに備えている中で、日々自分に言い聞かせています。
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)