【120分の教訓】橘玲 もしも今、私が大学生だったら

2018/4/21
テクノロジーの発展とグローバル資本主義の拡大により不確実性の増す現代社会。自分のキャリアや将来の日本に不安を持つ大学生は多い。私たちが住むのはどのような社会で、どのように生きて行けばいいのだろうか。作家の橘玲氏に、2時間におよぶインタビューを行った。
──橘さんからみて、今の大学生はどのように映っているのでしょうか。
橘 私の学生時代から比べて、真面目で優秀なひとが多くなったと思います。
これは『80’s(エイティーズ)』(太田出版)という本でも書いたのですが、私が大学に入った頃(1978年)は人生は二者択一で、成功者というのはそれなりの大学に入って一部上場企業か中央官庁に就職した人で、いったん落ちこぼれたら敗者復活はないとされていました。
東大法学部・大蔵省(財務省)を頂点とするヒエラリキーが厳然とできていた当時に比べて、いまは社会が多様化していろいろな可能性が開けていると思います。
森友学園問題で右往左往する役人たちを見て、彼らが日本社会の「勝者」だなんて思う人はいないでしょう。
ただ、今から振り返ってみれば、当時はみんななんとなく将来に楽観的だったように思います。当時の早稲田では、私を含め学生の3割くらいはドロップアウトしたと思いますが、それでも「なんとかなるだろう」という雰囲気がありました。
今はいろいろな選択肢があって、だからこそ余計にどういうふうに生きていけばいいのかを決めるのが難しくなっているような気がします。

Technology will always win

──もし今の大学生だったら何をしたいか。考えたことはありますか。
まったく考えたことがないんですが、あえていえば、シリコンバレー的なものに興味を持つんじゃないかと思います。
シリコンバレーには、テクノロジーによって「世界を変える」と妄想している若者が世界中から集まってますよね。私たちの頃はそれが「知(ポストモダン)によって世界を変える」だったんですが、規模や水準は違っても通底するものは同じです。
Better World(よりよい世界)やBetter Future(よりより未来)の理想を語るシリコンバレーのひとたちを私は「サイバーリバタリアン」と呼んでいて、その典型がイーロン・マスクです。
(写真: Diego Donamaria/gettyimages)
「人口爆発で人類が地球に住めなくなるなら火星に移住すればいいじゃないか」といって安価なロケットを開発し、「化石燃料が枯渇するなら代替エネルギーにすればいい」といって、電気自動車を走らせ、太陽光発電の送電網を張り巡らせようとする。
すべての問題はテクノロジーで解決できるのだから、社会は科学的に最適設計すればいいというのがシリコンバレーのカルチャーです。「カリフォルニア・イデオロギー」とも呼ばれますが、学生時代にこういう思想を知ったら間違いなくハマったと思います。
──ただ、テクノロジーが進化していく一方で、人間の意識はそこまで変化していないという現状があります。それについてはどうお考えですか。