【鈴木大輔】スペインで気づいた「サッカーがうまい」の本質

2018/3/30
前回までのコラムとはテーマを変えて、今回はサッカーに特化して書いてみようと思います。
サッカーをあまり見ない方にはよくわからない部分もあるかと思いますが、「そんな方々が少しでもサッカーを興味深く見られるようになるのでは」というような気づきがありました。
自分はサッカーを観戦する時、またはプレーしている時に、主にボールや人に注目して見ていました。ボールを持っている選手と、その周囲にいる数人の選手、そして自分がマークする選手を主に目で追っていたのです。
しかし今は局面や、人の先にあるスペースに注目するようになりました。これは間違いなく、スペインでプレーするようになってからです。
今までも“なんとなく”という感覚でスペースを見ていたと思いますが、それを自分の中で言語化できておらず、どちらかというと局面の戦いを好むタイプの選手でした。自分で試合を見るときも、気がつけばボールを目で追っているような状態でした。
正直、感覚を言語化できていて、プレーの流れを説明するのがうまい人にも、「後付けで言葉を足すことなんか簡単だろうな」と思っていました。
「スペースに注目」して見る
スペインでは多くの監督が対戦相手の分析を基に、自分たちはどこのスペースを使って相手のプレッシャーを外し敵陣ゴールに近づくのか、また相手のシステムに対して自分たちはどうやって相手のボールを敵陣から奪いに行くのかをトレーニングします。
これはスペインサッカーが自陣に引いて守ることを好まず、敵陣から積極的にボールを奪いにくるチームが多く、それに対し相手のプレッシャーから逃げることなく外していこうとするチームが多いことが、上記の理由としてあげられるかと思っています。
その昔、海に出たスペインの艦隊がどんどん植民地を増やしていき、ヨーロッパの一大勢力にのし上がっていった黄金時代。サッカースペイン代表が「無敵艦隊」と言われているのもこの歴史からで、攻撃的なスタイルが好まれるのも黄金時代の歴史と深く関係があるのではないかと感じます。
そんな浅い歴史の知識はさておき、トレーニング中から空いているスペースを意識することを求められるので、プレー中に以前よりもピッチ全体を俯瞰(ふかん)で見ることができるようになってきました。
またサッカーをテレビで観戦する時にも、スペースに注目して両チームの狙いを考えながら見るようになりました。
スペースに注目するとは、具体的にどういうことか。今回は、自分がやっているセンターバックというポジションを通した攻撃の仕方と絡めて説明していこうと思います。
レアル・マドリーの最終ラインを統率するセルヒオ・ラモス
相手を見て瞬時に判断を変える
まず、攻撃の最大の目的はゴールを奪うことだと思いますが、ゴールを奪うためには当然、相手ゴールに近づかなくてはなりません。
センターバックは自陣のゴールを守るポジションですから、常に相手のゴールから遠い位置にいます。なので攻撃時のセンターバックのタスクは、ボールを少しでも相手のゴールに近づけることになります。
また、基本的には自陣の深くに位置しているため、チームの攻撃が始まるポジションでもあります。そのため相手の守備時のシステムを見て、どこから攻めるのかをチームに方向付けることが求められます。サイドにボールを送って外から攻めるのか、縦にボールを付けて中から攻めるのか、またはロングボールで相手の裏を狙っていくのか、というようなことです。
相手のプレッシャーのかけ方からそれらの判断をしていくことが、チームの攻撃のカギを握っています。この判断を間違えると、相手のプレッシャーに引っかかり、自陣でボールを奪われショートカウンターを食らうことになります。スペイン2部ではほとんどのチームが敵陣からプレッシャーをかけていくスタイルがゆえに、ショートカウンターからの得点を狙っていますし、このパターンが得点のほとんどを占めていると思います。
実際に僕がどうやって判断しているのかというと、相手のどのポジションの選手がうちのチームの誰にプレッシャーをかけてきて、どこのスペースが空いているのかを見極める。そしてそのプレッシャーによって、次はどこのスペースが空くだろうかと予測しています。
例えば自分たちの攻撃時のシステムが後ろから4-4-2で、相手の守備時のシステムも4-4-2の時。
相手のFWがうちのセンターバック2枚にプレッシャーをかけてきて、システムが同じ分、中盤から前の選手もしっかりマークにつかれているとします。このような状況で、相手がボールを奪えると踏んでDFの最終ラインを上げてきているのであれば、相手のキーパーとDFラインの間に広大なスペースができるので、ロングボールでそのスペースを使うことが有効です。
相手の中盤の4選手が前からボールを奪いにきているのに、後ろのDFラインの選手が背後を気にして低い位置にいる時は、相手の中盤の選手と後ろのDFラインの間にスペースができているので、そのスペースを狙って前から落ちてくる味方の選手に対して、ボールを浮かせて落としてあげるようなパスが有効です。相手の守備の距離感がよくスペースが見つけにくい場合には、自チームの中盤の選手が後ろに落ちてきて、相手のFWと3対2の状況にして新しいスペースを作るという方法もあります。
また、自分たちが4-4-2で相手の守備時のシステムが4-3-3の時。
自分に対して相手のFWの真ん中の選手がプレッシャーに来ていて、自チームのもう1人のセンターバックに相手のFWの3枚の脇の選手がプレッシャーに来ているとしたら、サイドに広大なスペースがあると予測できます。なので味方のセンターバックを1つ飛ばして逆サイドのサイドバックへのロングボールが有効になります。そのサイドバックの選手に相手のサイドバックの選手がプレッシャーをかけにきているのであれば、他にまた新しいスペースが空いてくるので、すかさず判断を変えていきます。
「ミスの質が上がったな」
サッカー経験者ならおそらく、基本的なことを言っていると思うかもしれません。自分は日本にいた頃、感覚的になんとなく、このようにプレーをしていたのではと思います。
しかし、みんなが感覚でわかっているような細かいことでも、言語化された指導を受けることによって頭がより整理されて、自分の中でも言語化できるようになってくると、サッカーを少しずつ俯瞰で捉えられるようになりました。
ミスはまだまだ多いですが、ミスした後に「なんでミスしたのか」を理解して、どうするべきだったかと振り返ることが瞬時にできるようになったのです。「ミスの質が上がったな」と思いました。その視点でサッカーを見ると、より楽しめている自分がいました。
空いているスペースを端緒に、ピッチや味方、相手を含めて全体的にサッカーを俯瞰で見られるようになると、「相手のシステムのズレを生じさせ、ボールを空いているスペースに運びながら敵のゴールに近づけていくというのは、ボードゲームのようだな」と感じました。本物のボードゲームとは違い、駒が足でボールを扱うのでラッキーがあったり、ミスが非常に多く起こったりしますが、人間味があってそこも非常に魅力的だなと思います。
ボードゲームのようにサッカーを俯瞰で見ることができれば、新しい面白さを発見できるのではないかと感じています。また、両チームの狙いを理解しながら見ることによって、トップクラスの選手、監督、ビッグクラブのすごさがよりわかると思うのです。
世界では戦術の駆け引きが常に行われていて、新しいシステムが次々に生まれています。
戦術大国スペインの指導マニュアルは日々更新されていると聞きます。
実際に今回説明したのは基本的なことで、細かく言えば、相手のシステムのズレを生み出すスペースの作り方はいくつもあります。「こんな運び方があったのか。このスペースが空くのか」と、練習から様々な気づきが多いです。
そして何より、それらが全て細かく言語化されています。スペインに移籍し、言葉がわからなかった最初の半年は勢いでプレーしていましたが、語学力が付いて細かいところまで理解できるようになると、「今までの自分は全然サッカーの本質をわかっていなかったんだな。ホント、自分はサッカーが下手だな」と衝撃を受けたのを覚えています。
サッカーの勝負は“頭を使う部分”と同じくらい、“個人的な能力”も左右するので、以前の自分は“局面の戦いを好んできたことによる能力”と“感覚”である程度はできていたのだろうと思っています。
しかし、ボールの扱いがうまかったり、足が速かったり、競り合いが強いというのは、「サッカーがうまい」とは違うのだということに気付かされました。
そんなスペインで得たものを今後、少しでも言語化して伝えていきたい。
まだ知らない「サッカーの見方」を学んでいくことに、自分がスペインでプレーしている価値を感じています。
(写真:Agencia EFE/アフロ)