【たけし✕水野】「早く死にたくてしょうがない」

2018/3/31
前回
【ビートたけし×水野良樹】自分の「第一のファン」は自分だ

命令じゃなくて“お願い”

水野 監督という役職はひとつの作品を生み出すリーダーじゃないですか。たけしさんは作品作りの現場ではどんな感じでいらっしゃるんですか?
ビートたけし 照明さんとかカメラマンに「おい」って呼びかけるんだけど、その口調がどうも頼ってる感じなんだよな。
照明に高屋っていうベテランがいるんだ。もう18本全部その照明なのね。困ったら「高屋さん」って呼んで、「このシーンの照明どうすんのこれ? どうにかなんないかよ」ってぶつけると大抵何とかしてくれる。
あるシーンでは、和紙を照明につけてちょうちんみたいなライトで撮ろうと提案してくれる。んで高屋を見ると自慢げなわけ(笑)。「どうすか監督、いいでしょこの明かり」って。するとやっぱりいいものができる。
あとは「これでやってくれい、頼むなあ」って任せるだけ。
そいで今度カメラマン呼んで、「この照明だ」って伝える。よく考えたら命令してんじゃなくて全部お願いしてるんだよな。
水野 何度も対話したりはしないんですか?
水野良樹(みずの・よしき)/「いきものがかり」のリーダー、ギター担当。1982年、静岡県生まれ。5歳から神奈川県で育つ。1999年、高校生のときに現メンバーの山下穂尊(ギター&ハーモニカ)、吉岡聖恵(ボーカル)といきものがかりを結成。明治大学中退、一橋大学卒業。2003年にインディーズデビュー。06年にエピックレコードジャパンからシングル「SAKURA」でメジャーデビューした。
たけし いちいちはやんないね。1回言ったらもう任せちゃう。
水野 なるほど、任せるんですね。
たけし 任せる。照明も役者も同じ。何回も撮らずに一発撮りだよ。
芝居は一発勝負だね。バンドはどうだか分かんないけど、漫才なんて同じネタ2回やったら嫌がられちゃうでしょ? 一発目に出たものが一番いいと思うよ。今じゃ「ワンテイクしかやんない」ってうわさが広まっちゃって役者さんもスタジオに入る前からもう役を作ってきてくれる。
水野 そうすることで良くも悪くもなにかしらの化学反応が起きますよね。だけど、小説は自分で完結しないといけない作業じゃないですか。
たけし 小説の執筆はその状況から何から全部書き入れることが完全に面白くなっちゃったんだよね。
小説については完全に頭からけつまで、自分で心得や技術がないなと思うところもありながら新しい試みをやってみたい、って思ったんだ。例えば、「みる」っていう言葉ひとつとっても「観る」なのか、「見る」なのか、それで悩んだりする。今度は電子辞書を持ってきて、使用法を調べたりね。
気付くと新しいゲームみたいな感じもしてちょっと凝っちゃった。

ピアノ、絵画…「まず手を出してみる」

水野 最近ではピアノも始められていますし、絵もずっと描かれていますよね。新しいものに出会うタイミングは、数年に1回訪れるんですか。
外側からみると、たけしさんってあるときから何か突然に新しいことを始める、みたいなことが多いように感じるんです。
たけし 頼まれることもあるし、「やんない?」って誘われることもある。それに自分の勘違いもあるね。
交通事故に遭って、右の脳を相当損傷した時に「右脳という芸術的な脳が損傷してるってことは、こりゃ脳がフリーク状態にあるはずだ。フリークの描く絵はすごい面白いに違いない」とかおだてられちゃって(笑)。大真面目になって「ピカソを超すぞ」とか言って描いてみたものの、冷静に見たらこれ駄目だなって(笑)。
1947年、東京都足立区生まれ。漫才コンビ「ツービート」で一世を風靡。その後、テレビやラジオのほか、映画や出版の世界でも活躍。1997年「HANA-BI」がベネチア国際映画祭グランプリを受賞。著書に『間抜けの構造』『テレビじゃ言えない』『アナログ』など。
ほいで今度はピアノを買って、やっぱり脳がちょっと変だから、変な和音が快感に聴こえたりしてさ。「(エリック)サティを超すぞ」とかいろんなこと言ってるわけ。でも結局バイエルを一生懸命練習して終わっちゃう(笑)。
大事なのは手を出す。で、手え出してたまにまぐれ当たりするときがある。それが映画かな。ただ、絶対に手は出してみる。
水野 新しいことを始めることに不安や戸惑いはないんですか? そのたびに、外からすごい意見が飛んで来るじゃないですか。
たけし まあ歴史的にいろいろ考えるとね、強烈な芸人や強烈なアーティストはいた。例えば落語で言えば圓朝、志ん生とか、談志さんとかね。
その当時はすごいうまいと思ったし、俺にとっては神様だったけど、死んで何年かすると、あの感動をもう忘れてきている。野球で言うと、長嶋さんとか王さんとか金田さんのプレーを見ても今の人は全然意味が分かんないだろうし。
そう考えると、自分の失敗もしょせんそんなもんだよ。年月が経って時代が変われば、一つの失敗を覚えてる人が何人いるかっていう話。そう思うとあんまり怖くないよ。
水野 死に対する恐怖はないんですか。
たけし もう早く死にたくてしょうがない。
すごい不謹慎だけど、富士山の爆発とか関東大震災とか遭ってみたいと思ってる。だって一生に一度、富士山の爆発知って死ぬ人ってあんまりいない。
自殺はイヤだけどね。死ぬのは全然恐ろしくない。何回も死ぬような思いはしてるのに今まで生きてこられたから死に対する恐怖が薄らいだんだろうね。もう死んでもいい年だし、星野仙一さんが死んだときには「ああ、俺のが先のがよかった」とさえ思った。
今じゃ毎日起きるたびに「今いる自分は生まれ変わってる」と思うようになったな。あとは「もう一回生まれ変わったらどうしますか」なんてバカな質問には、「生まれ変わりたくはない」って答えてるよ(笑)。
水野 僕らが過ごしてる時間軸と違う時間軸を生きているような気がするんです…。
たけしさんが書かれた著書の中で衝撃的だったのが、「時間はいっぱいある」っていう言葉です。
これだけ多くのことをやっていて、絵を描いて映画を書いて本を書いて、番組も出て面白いことを言ってって、僕らからするとたけしさんってもう時間ないだろうなって思ってる方が、「いや、時間はいっぱいある」っておっしゃったことの意味ってどういうことなんだろう。
で、「死」に対する恐怖、もうもしかしたらすぐ死んじゃうかもしれないのにとかって思わないのかなと。

マイナス評価も含め、その人の評価

たけし うん。だから、やりたいことをやっちゃう勇気が必要。どうせ手え出すものにいきなり「すごかったね」なんて言われるわけないんだから。だから何だろうな、マイナス思考なのかもしれない。
マイナス思考はなぜいいかというと、例えば10の仕事をすると、元の評価がマイナス10の人は20の仕事をしたことになる。でもプラマイゼロのやつが10の仕事をすると、そいつは10の仕事しかしてない。
元暴走族のヤツが国会議員になったら評価されるのと一緒だよね。一生懸命頑張ってプラス10のやつが20になったら、10しか上がってないという。東大の法科出てキャリアになって、国会議員になったやつが偉いとは思われない。
他人の評価の問題だけだと思いがちだけど、振り子で言うと動いた分だけ質量が増える。暴走族は「マイナス10」分の運動をしていたっていうこと。マイナスからプラスに運動している部分もその人の評価なんだよな。
人生をエンターテインメントって考えると振り幅がでかいヤツのほうが面白いんよね。
水野 「振り子」の話だと自分がずっとコンプレックスに感じているのが、「欠損がない」ことなんです。
多くのミュージシャンが厳しい環境から出てきたり背景に深いストーリーを持っている。でも僕は幸せな家庭に育ち、別に飢えたわけでもなく、社会に何か不満を持ってるわけでもない。その中でものづくりをすることにどこかコンプレックスがあります。振り幅が小さく面白みがないというか。
でも逆に、だからこそできるものがあるんじゃないかと思うこともあって。たけしさんが育った時代からすると、いろんなものを持っていて、満たされているように思われてる人が多い気がしますね。
僕みたいな「欠損がない」ことをネガティブに捉え、その欠損がない人がどう幸せを手にしたらいいかっていうのを悩んでる人、すごいたくさんいると思います。
たけし 何も欠損がなくて、悩んでるヤツがいたとして、そいつが売れてないのは一番よくないね。欠損だなんだって悩む前にまず手を出して結果を作っていくことが大事だよな(笑)。
(文:武田鼎、企画編集:FIREBUG、写真:栗原洋平)