ついに始まった消費革命。「メルカリ経済圏」は世界を変えるのか

2018/3/26
日本はもう「遅れている」
5年という歳月が、メルカリの「針路」を変えた。
2017年8月、メルカリ創業者の山田進太郎はスケジュールの合間を縫って、中国の上海を訪れていた。
もちろん休暇ではなく、次なるサービス展開に向けた視察のためだ。だが、そこで目の当たりにした光景は、山田の脳裏に深く刻まれることになった。
「もはや遅れているのは、日本かもしれない」
(写真:Nikada/iStock)
思い起こせば、山田が上海を前回に訪れたのは、2012年。まだメルカリを立ち上げる直前の世界旅行のタイミングだった。
当時、すでに中国は、GDPでこそ日本を抜いて世界第2位の経済大国に成長していたものの、生活水準はまだ低く、まだ「新興国」の一つにすぎなかった。
だが、それから5年。山田がメルカリを、時価総額2000億円超えの巨大ユニコーン企業へと電光石火で育てあげた間に、中国はそれをも上回るダイナミックな変化を遂げていた。
街を見渡すと、DiDi(滴滴出行)などのライドシェアリングサービスの車が行き交い、スーパー、コンビニエンスストア、露天ですら、誰もがスマホで決済をする。若者から高齢者まで、現金を使っている人はほとんど見かけることはなく、自分が現金を出すと、ちょっと恥ずかしいと思えるくらいだ。
「日本よりも遅れている」。どこかでそう思っていた中国で起きている圧倒的な変化に焦燥感ばかりが募った。
だが、驚いてばかりではいられない。
「僕も人々の生活をガラッと変えてしまうような、ダイナミックな変化を起こすことに人生をかけてみたい」(山田)
眠っていた山田の闘争心に火がついた瞬間だった。
(写真:加藤昌人)
上海視察に「運命」を動かされたのは、山田だけではなかった。実は山田は、メルカリの「将来」を託したいある人物と一緒に、上海を訪れていたのだ。
青柳直樹。
ソーシャルネットゲーム大手GREE(グリー)でCFO(最高財務責任者)を務め、同社のエースとして東証一部上場に導いた、金融とITのスペシャリストだ。
山田は上海視察を機に、かねてメルカリへの参画に誘っていた青柳を、一気に口説きにかかった。「一緒に夢を実現しよう」。普段は寡黙な山田の目から、言い知れぬ覚悟がにじみ出ていた。
「いつもは物静かな山田が、あの時ばかりは物凄い熱量でした。あんな強引な山田は見たことがありません」
現在、メルカリの決済事業「メルペイ」を率いる青柳は、当時をそう振り返る。
そして、この出会いこそが、フリマアプリを武器に爆速で成長してきたメルカリを、次なるステージへ連れて行く「着火点」となったのだ。
(写真:Bloomberg/GettyImages)
「ユニコーン」では満足できない
ダウンロード数は7000万、月間流通額は120億円を超えるなど、今や日本を代表するユニコーン企業として、今やメルカリの名を知らない人はほとんどいないだろう。
彼らの圧倒的な成長を牽引してきたのは、一にも二にもその手軽さにある。
「誰でも、何でも」出品でき、10分足らずで完結するため作業も簡単。普段の生活で使っていないものを見つけたら、スマホで撮影し、値段を決めて、簡単な説明文を添えるだけ。売れればスマホに通知が来るという、いたってシンプルな仕組みだ。
スマホさえあれば、不用品をお金に換えてしまえる──。
ユーザーはオンラインの「個人商店」を持ったような感覚で、ゲームのように病みつきになる人も多い。出品された商品の半分が24時間以内に売れると言われ、着なくなった洋服や、使わなくなった家電など、1日に100万件を超える“新商品”が出品されている。
「出品すればどんどん売れる。身の回りのものを全部売りたくなってしまうほど、中毒性が高い」(メルカリユーザー)
それだけに、新サービスのアーリーアダプターだけでなく、一気にマス層にも普及していった。120億円を超えるとされる月間流通額は、ファッションECサイトの「雄」であるZOZOTOWNに肉薄しているといわれている。
(写真: Bloomberg/GettyImages)
だが、「フリマアプリ」は山田が描く野望の、ほんの序章に過ぎない。
「これからはCtoCの経済圏を作り上げていく」。山田はこう言ってはばからない。
二次流通のモノの売買だけではなく、金融事業、シェア自転車、さらには個人のスキルや時間まで……。あらゆる価値をシェアするプラットフォームとして「CtoC経済圏」を作っていくのだという。
「個人がエンパワーメントされた世界」。山田が描くのは、個人がもっと力を持ち、自由にモノやサービスを売ったり、買ったり、作ったりする世界だ。
これまで我々、生活者がモノやスキル、サービスを手に入れたいとき、最初の選択肢はそのプロである「企業」へとアプローチするしかなかった。そして、それは企業から消費者への一方通行で提供されてきた。
だが、メルカリが描くCtoC市場が拡大すれば、全く別の新たな経済圏が生まれ、既存の社会構造に大きな変化がもたらされるかもしれない。それは「企業→消費者」の一方通行ではなく、個人と個人が様々な価値を提供し合う、双方向で有機的なアプローチだ。
(写真:chombosan/iStock)
メルカリが描くCtoC経済圏は、我々の生活をどう変えるのか。
NewsPicks編集部は、メルカリ経済圏の全貌を明らかにすべく、キーマンたちに取材を重ねた。本特集では日本最大のユニコーン企業、メルカリを丸裸にし、彼らの野望を物語にしてつづっていく。
「メルカリ経済圏」の全貌
まず初回は、メルカリ経済圏の未来図を山田本人が証言する。
経済圏の中心となるのは、2017年末に立ち上げた金融事業会社の「メルペイ」だ。フリマアプリとメルペイを組み合わせれば、モバイル決済だけではなく、個人の信用をスコア化することで融資や資産運用などのビジネスも可能になるという。
メルカリの創業前には、米国で飲食店の経営をしようとしたという知られざるそのキャリアも含め、スタートアップ界で最も注目されている経営者の頭の中をロングインタビューでお届けする。
【独白1万字】山田進太郎「メルカリの野望を全て語ろう」
メルカリがフリマアプリを普及させることができた理由は、「大量生産・大量消費」社会に限界が訪れていることと無縁ではない。
アパレル業界では、ファストファッションを中心に、大量の「売れ残り」が廃棄されていることが問題視されたり、必要最低限のモノしか購入しない「ミニマリスト」がブームとなったりと、消費を取り巻く環境が大きく変化しようとしている。
なぜ今の時代にフリマアプリが流行るのか。二次流通市場は消費にどんな影響を及ぼすのか。
メルカリの創業直後に経営陣として加わり、2017年4月から社長を務める小泉文明に、「消費の未来」について語ってもらった。
【小泉社長】メルカリの革命。それは「個人」に力を与えることだ
「誰でも、何でも売れる」という自由さを売りに、飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進してきたメルカリ。だが、その自由さが犯罪の温床にもなっている。2017年には現金や領収書、盗品などが出品され、フリマアプリの闇の側面があらわになった。
テレビのワイドショーでも連日取り上げられて問題視され、ユーザーの本人確認の不十分さを警察庁に指摘されるなど、メルカリが対応に追われたことは、読者の記憶に新しいだろう。
また2017年末には、メルカリと金融庁との間で、ユーザーの売上金の保管方法を巡って意見の相違もあった。
事情に詳しい関係者によると、「こうした問題が表面化したことで、2017年中の上場が延期になった」模様で、メルカリは「大人の会社」への脱皮が求められている。
第3話では、メルカリの爆速成長の秘密と、その裏側で生まれてきたひずみをスライドストーリーにして解説していく。
【スライド】なぜメルカリは、フリマアプリで「独り勝ち」できたのか?
第4話では、「アマゾンが描く2022の世界」(PHP新書)で、経営戦略のスペシャリストである田中道昭・立教大学ビジネススクール教授による寄稿をお届けする。
田中教授は、「メルカリは社会に3つのパラダイムシフトを起こそうとしている」と断言する。
メルカリの挑戦をどのように分析しているのか。独自視点が満載のレポートになっている。
【3分解説】メルカリは「アマゾン」を超えられるか
特集の後半では、メルカリと一緒に経済圏を築き上げる、CtoCのスタートアップ企業を取り上げたい。メルカリは、2017年7月にメルカリファンドを立ち上げ、有望なCtoC企業に続々と投資をしている。
その中の1社、「ecbo(エクボ)」は、マカオ生まれの経営者・工藤慎一が手荷物一時預かりシェアサービスを手がける注目企業だ。
工藤は都会のコインロッカーの少なさに目をつけ、荷物を預けたい人と預かれる店をマッチングする「ecbo cloak」というサービスを立ち上げた。
サービス開始からわずか1年で契約店舗数は1000を超え、郵便局やTSUTAYA、アパマンショップなどが提携先企業に並ぶ。今年初めにはJR東日本、JR西日本からも出資を受けており、これからの成長が楽しみなスタートアップだ。
工藤の言葉は、メルカリ経済圏に寄せる期待と、自らのビジネスの将来性を確信した情熱で溢れている。
【沸騰】コインロッカーから始まる、次世代「物流革命家」の野望
そして特集の最後では、競合企業から見たメルカリや山田CEOの横顔について、貴重なインタビューをお届けしたい。その語り部は、DMMホールディングス会長の亀山敬司だ。
2017年に社長を退いて、若手経営者に権限委譲をすることを決めた亀山だが、意外にもその決断のきっかけはメルカリにあったのだという。
さらに、70億円で買収した現金化アプリ「CASH」は、即時買取の分野でメルカリと競合しており、ライバルとしての立場からも、メルカリの凄みと課題を語ってもらった。
【DMM亀山】俺が社長をやめたのは「メルカリ」がきっかけだった
メルカリはこれから、山田が描く「経済圏構想」を示し、実行していく予定だ。
果たしてメルカリは、独自の経済圏を築くことができるのか。その時、我々の生活やお買い物は、どのように変わっているのか。
本特集では、一足先に占っていきたい。
(取材・構成:泉秀一、森川潤、デザイン:砂田優花)