2030年、進化する「お金」が私たちの暮らしを変える

2018/3/30
仮想通貨の登場やキャッシュレス社会の拡大など「お金」の概念が大きく変わる今、個人の生活とお金の新しい関係や社会の変化を考える2回シリーズの座談会。第2回は、通貨と信用、モノの価値、そして次世代に向けた取り組みなど、幅広い視点から意見を交える。
現金信仰の国で「キャッシュレス」はスタンダードになるのか

通貨の価値を左右する「信用」
松尾:第2回では、「進化する“お金”と私たちの暮らし」をテーマに議論を深めたいと思います。まずは、通貨の価値と信用について、もう一度振り返ってみましょう。例えば、直近では仮想通貨が交換業者から大量流出したことが話題になりました。
閑歳:莫大な額が流出したにもかかわらず、騒ぎが限定的だなと感じました。投機的に利用している方が多かったという背景も影響しているのかもしれませんが、同じことを銀行が起こすと、もっと少額でも社会的な大問題になったと思います。
過去にあったできごとなども受け、仮想通貨に対する信頼がそもそもできあがっていなかった。
松尾:極端な話として潜在的に「仮想通貨は、なくなっても仕方ない」という意識があった、と。
神田:信用の話はおもしろいですね。貝殻の時代から通貨の本質は信用です。
例えば今、Suicaを使って電車に乗った際に改札でいくら引き落とされているかを私たちはいちいち確認しません。それは、JRを信頼しているからです。これが海外での支払いであれば、細かく明細を見るかもしれません。
清原:そういったことが日本にはたくさんありますね。電気やガス代、税金は間違っていないだろうと信じている。そもそもチェックできないものも多いですが、年金はずさんな管理が発覚して大きな問題になりました。
信用の話でいうと、募金はもっとトレーサブルになってほしいと思いますね。本当にちゃんと目的通りに使われているのだろうか、と疑問が残る。仮想通貨での募金が一般的になって、ブロックチェーンでその行方を可視化できるという未来はあるかもしれませんね。
壺からモバイルへ。アフリカで広がる電子マネー
神田:ほかに通貨と信用の関係では、アフリカでも最も貧しいといわれるモザンビークで電子マネーが普及している話が興味深いです。
現地には銀行の店舗がなく、貨幣経済が成立していない場所も多いので、給与を現金でもらうと壺に入れて土に埋めておくんだそうです。でも壺を盗まれたり、埋めた場所がわからなくなったりしてしまう。
そこで、日本植物燃料の合田真さんという方が、モバイル口座に電子マネーで買い取った農作物の支払いや給与を振り込むシステムを導入しました。
松尾:アフリカでも、モバイルは普及しているんですね。
神田:そうなんです。すると、便利だから生活費も電子マネーで管理したい、となり、周囲のお店も対応を始め、現地に電子マネー経済圏ができて。今では電子マネーの銀行を作ってほしいと、合田さんのところに国から依頼が来るほどに広がっている。
閑歳:貨幣経済が絶対的に信用されている日本では、キャッシュレスがなかなか進まない状況と正反対ですね。
神田:おもしろいですよね。紙幣に対する信頼がなかったからこそ、電子マネーが一気に普及したという例です。
時間を買って先取りする「自己投資」の価値
閑歳:話は変わりますが、ある女性誌が行った20〜40代女性へのアンケートによると、とにかくみんな「貯金したい」と考えているそうなんです。その理由は、将来が不安だから。日本経済の長い不況が、なんとなく不安だから蓄えなければというマインドを生んでいる。
将来に備えることは大事ですが、「不安だからとりあえず貯金」という思考は、すごく自分を停滞させてしまっているように感じます。
清原:例えば、中国へ行ってダイナミックな経済成長に触発されて、中国語を勉強するとか。そういった自己投資の考え方を社会全体が持たないと、日本は活性化できないでしょう。
日本は「Save & Spend」の文化で、お金を貯めてから使う。そのため、いまだにローンを避ける意識があります。
一方、アメリカには「Spend & Borrow」といってお金を借りながら信用を積み上げていく文化があります。ローンというのは、金利で時間を買うという考え方。自己投資に当てるための時間を買うことで、将来的にもっと大きな価値を得るための可能性を広げることができます。
実は最近、弊社で行ったアンケートを見ると日本でも若い男性を中心にリボ払いへの抵抗感が減っていることがわかりました。これは「時間を金利で買う」という考え方にシフトする人が、少しずつ増えている影響かと感じます。
ただ、お金を借りてでもしいと思うモノを今の社会が提供できているか、という問題もあります。初めて冷蔵庫や洗濯機が登場した時代には、最新技術が投入された家電を割賦で手に入れることも一般的でしたが、果たして今、そこまでしてほしいものがあるのか。
閑歳:スマートフォンは高価でも手にする価値があると思うから、みんな割賦でも買いますね。ただ、私の周りを見ていても物欲が減っているとは感じます。一方で、体験に価値を見出す人が増えている印象です。
清原:確かに、今後の日本経済は体験を軸に進んでいくと思います。
体験は、年代によってその価値が大きく異なってくるもの。「いつか貯金が貯まったら」ではなく、20代、30代という若いときに体験するからこそ意味を持つことも多いものです。それだけに、時間への投資についてはよく考えたいですね。
「家計のリアル」を伝える取り組みの必要性
松尾:一度買って終わりではなく、利用期間に応じて料金を支払うサブスクリプション型のサービスも広がっています。社会や決済方法が大きく変化する中で、私たちにはどんな意識が必要でしょうか? 
閑歳親子で家計について共有する方法もあると思うんです。Zaimのような家計簿アプリを使ってレシートの読み込みを子どもにお願いすれば、小学生でも「うちの食費はいくらくらい」「習い事にいくらかかっている」ということが、簡単にわかります。

子ども向けワークショップをやっていても、小学校高学年になるとお金についてはかなり理解できると実感しています。
多くの方がそうだったと思いますが、私も子どもの頃、親の収入がいくらで、生活費がいくらかを知りませんでした。もし、塾の費用が家計にどれほどインパクトを与えていたかを理解していたら、もっと真面目に勉強したんじゃないかな、と(笑)。
神田:日本の教育には、お金の使い方や増やし方をテーマにするものがないですよね。子どもがお金に興味を持つことをネガティブに捉える風潮すらある。でも大学を出た途端に「金銭管理はすべて自分でやりなさい」と。これって結構大変です。
閑歳:最近のお子さんはお小遣いを電子マネーでもらう、という話も聞きますね。
神田:私も塾に通う電車代として、子どもに一定額をチャージしたPASMOを持たせています。実は先日、そのPASMOを使ってこっそりコンビニでお菓子を買っていた、という事件が発覚したばかりで(笑)。
松尾:そういったことが日常的であるデジタルネイティブやさらにその先の世代にとって、通貨の概念も私たちの世代とはまったく異なっています。通貨が「現物」であることにこだわらない若い世代は確実に増えていくと感じます。
価格が流動化し、決済はキャッシュレスへ
松尾最後に、これからの社会とモノの価値の決まり方、さらに決済手段についての見通しを聞かせてください。2030年はどんな未来になっているのでしょうか?
神田:まず、決済におけるキャッシュレスは確実に進みます。「お金を支払う」という意識がなくなる社会がやってくるでしょう。
現在もアプリでタクシーを予約すると登録したクレジットカードで自動的に決済ができ、降車時の支払い作業が不要になっています。同じようなことがさまざまなシーンに広がり、生活の中で決済を意識しなくなると思います。

同時に決済データの活用が進み、買ったものや体験の満足度をAIが判断し、自分がより興味を持ちそうなことをリコメンドしてくれるようになる。2030年よりもっと早く、ここ3〜5年のうちに、そういった社会が実現するのではないでしょうか。
閑歳:私は、モノの価値の流動性がもっと高まると思います。
例えば、Uberは乗るタイミングで値段が違いますが、同じようにその瞬間ごとにモノの価値が変わるのが当たり前になるでしょう。
スーパーのいちごも時間や天気、売れ行きなどに呼応し、今この瞬間に合わせて価格が最適化されるようになる。それがデータとして蓄積すると「今、タクシーに乗るべきか」「いちごを買うべきか」という判断も自動化できるので、その人がしたい生活に合わせて最適な提案ができるようになります。
キャッシュフローや金銭管理について心配する時間を減らし、その時間を本来したいことに使えるようになるのが一番いい。その点でも自動化はとても意味があると思います。
松尾:モノの価格が需給などで変動するダイナミック・プライシングになることで、どんどんムダが省かれていく未来ですね。
清原:キャッシュレス先進国の現状も、これからの日本を考えるヒントになります。北欧の一部の国では、ほとんどがキャッシュレスで、お店には「NON CASH」という看板が掲げられているほど。
日本がそうなるかはわかりませんが、今後の展開を決めるのは、私たちのような企業ではなく、一人ひとりの消費者になってくるでしょう。
そのためには、我々が「付加価値の高い」サービスを提供できるかどうかが重要です。例えば、弊社ではビッグデータを活用し、スーツを買ったら、次に買うものを予測してネクタイの20%オフクーポンがもらえるというようなサービスの展開を考えています。こういったメリットは現金では得られません。
利用者にとってメリットとなる付加価値をきっちり提供していくこと。それによって、「キャッシュレスのほうがいい」という社会的なコンセンサスが広がり、より便利な社会が実現されると思っています。
(構成:工藤千秋 撮影:稲垣純也 デザイン:砂田優花 編集:樫本倫子)