「専門性×テクノロジー」を育む場。AIは全職種のキャリアを上げる

2018/3/27
外資系IT企業の中で、トップクラスの新卒採用者数を誇ることから、プロパー社員が多いイメージが強い。だが、最近はさまざまなキャリアを歩んできた「異能」が中途入社で集まっている。変化することでリーダーとしてのポジションを維持し続けてきたIBMは今、募る人材にも変化を加えダイバーシティ集団をつくろうとしている。多様な経歴を歩んできた中途入社の2人に、IBMに移籍した道程を聞く。

IBMは硬い?

──お二人とも中途入社だけあってIBMっぽくない印象です(笑)。
若松:ダーク系のスーツ着ていないからかなぁ(笑)。IBMというと硬いイメージを持つ人が多いですよね。実際、私も入社する前はそんなイメージを抱いていました。
杉本:硬いイメージを持っていたのは、私も同じです。「社内のビジネスプロセスも複雑だろうなぁ」とか「縦割り、ピラミッド構造がはびこっている」とか。なので、窮屈な思いをすることは、ある程度、覚悟もしていました。
ですが、スタートアップほどではないし、全部が全部スムーズとはもちろん言えないですけれど、創業から107年、日本法人も設立から81年経っている歴史と組織の大きさから考えれば、良い意味で自由で緩い。

先駆者になりたくて

──なぜお二人はIBMを選んだのですか。IBMに中途入社する人のイメージは、職種を問わず同じBtoBのIT業界人のイメージがあるんですけれど、お二人は一概にそうとは言えません。
若松:テクノロジーなんですよね、やっぱり。
これまでの私のキャリアを振り返ると、結構な数の会社を移ってきているんですね(笑)。
詳しく話すと長くなるので簡単に振り返ると、出版社、起業・独立、ネットベンチャー、広告代理店、海外ITベンダーの日本法人立ち上げ、国内大手IT、そしてIBM。まぁ、いろいろやってきたわけです。
ただ、一貫性なくてよく分からないかもしれないですけれど(笑)、私の強みはマーケティング。自社のマーケティング部門を統括する場合もあれば、マーケティング関係のツールやサービスを拡販するためのマーケティングを手がける時もありますが、マーケティングという軸でほぼ一貫して仕事してきましたし、新しいマーケティングのあり方を追求してきたつもりです。その結果、このキャリアを歩んできたんです。
それと、バラバラしている(笑)私の会社選びも一つ軸があって、それは新しいことに取り組んできたことなんです。格好良く言えば先駆者でありたかった。
ライブドアは、当時はプロバイダにお金を払うのが一般的だったのですが、プロバイダー料金を無料にするという新しいモデルを切り開いた。広告代理店では、今では広告代理店やコンサルファームがデジタル領域に進出しているのが普通ですが、当時電通という巨大な広告代理店がデジタル領域の専門会社を立ち上げる試み。
マルケトは、海外で始まったマーケティングオートメーションのブームを日本で作る。NTTコムオンラインは、NTTという通信事業者がデジタルマーケティング、コンサルティング領域の事業を立ち上げるというチャレンジ。
そのうえで、今後の新しいチャレンジとするとマーケティング×テクノロジー。今後を考えた時に、マーケティングはテクノロジーなくしてお客様を支援することはできないという確信というか危機感があります。
とくにAI(人工知能)はカギになる。私が所属しているデジタルマーケティングやビジネスデザインを担当する専門部隊「IBM iX (インタラクティブ・エクスペリエンス)」があって、テクノロジーを使ったマーケティングソリューションをご提供し、日々クライアント企業をご支援しています。
AIなどの最先端技術を活用するマーケティングがこの先普通にやってくることはわかっているので、そのAIを持っている会社にいることで、誰よりも一番に触って経験値をあげられるし、自身でAIを使ったデジタルマーケティングのソリューションの市場に出すことだって可能。だから、IBMなんです。

AIがもたらすマーケターとしての幅

──Watsonという強力な武器があるのは強みだとも思いますが、それに触れて新たなソリューションを得たり経験値を上げたりするのは相当ハードルが高いと思うんですが、入社して約1年、具体的にどのようなケースでそれを感じましたか。
若松:Watsonは、さまざまな機能をもったAIです。私はその中で、性格診断機能を持つ「Watson Personality Insights」に目をつけました。
消費者の購買行動が複雑になったことにより、さまざまなデータを駆使してマーケティングするのが一般的になりました。
マーケターは「どうやったらお客様に買う気になってもらえるか」を悩んでいるのですが、肝心の「気持ち」のデータは今までデータとしてはなかったので、購買履歴、性別、年代などを組み合わせて試行錯誤していたわけです。
そこで、このWatsonの性格診断テクノロジーを使って、お客様の気持ちを可視化し、マーケティングに活用できるようにしました。
当然なのですが、Watsonは自社のテクノロジーなので誰よりも詳しい人はたくさんいますし、試しに使える環境もあります。おそらく他の会社では、あそこまで短期間で情報を集めて試し、世の中に出すことは到底できないと思います。
多くのマーケターは多くのデータとテクノロジーを駆使して細かいマーケティングのオペレーション業務に忙殺され、考える時間や検証する時間がなくなっています。
私としては、マーケターにはAIを使ってそういったオペレーション業務から解放し、本来の戦略的業務に集中できるようにしていけたらと考えています。

「採用×テクノロジー」の可能性

──杉本さんはいかがですか。
杉本:若松さん、かなりいろいろ渡り歩いてきたんですね(笑)。私は若松さんほどではないんですけれど、5社での経験を得てIBMに入りました。
私は「人事」、とくに採用畑を長く歩んできました。もともと営業志望でケーブルテレビ会社に新卒入社したのですが、配属されたのは人事。給与計算や総務的な仕事まで幅広く携わっていたんですけれど、採用の仕事に魅せられて、これ一本で行きたいと思うようになって。
そこから急成長中の楽天、ダイレクト・ソーシングのパイオニア的存在だったリンクトイン、アクセンチュアと歩んでIBMに辿りつきました。
楽天では英語を社内公用語にし、グローバル展開を一気に進めている時期で超ハイエンド人材を、世界から集めていました。リンクトインではダイレクト・ソーシングという新たな手法の採用と提供にチャレンジし、アクセンチュアでは国内でも類がないほどの大量採用に携わり、それぞれ貴重な経験を積ませてもらったと思います。
──これまでにないチャレンジを求めて新天地を探してきた印象があります。そう思うと、失礼を承知で言えば、IBMを選んだのは意外というかチャレンジの度合いが弱い印象があります。どんなチャレンジがあるのですか。
杉本:やっぱりテクノロジーなんですよね。「採用」という仕事の発展系を考えても、若松さん同様にテクノロジーは欠かせません。
採用ってどうしても属人的というか、経験、勘のようなものに依存する傾向があります。超アナログなんです。でも、それはノウハウとして蓄積できないし、欲しい人材像とマッチさせるには、それだけじゃ不十分。
私は技術に明るくはありませんが、この採用業務にテクノロジーを活用したいというアイデアは蓄積してきたんです。ただ、それを具現化するための方法論もメンバーも乏しくて、形にできていないまま。
自社のテクノロジーや人材を積極的に使い、新たな採用の手法を試すことができる。それが私にとっての最大の魅力でした。
採用領域におけるテクノロジーの活用はまだ進んでいません。だからこそチャンス。これまでの私の経験とテクノロジーを組み合わせて新たな採用のあり方を見い出したい。
たとえば、今欲しい人材像と応募者のプロフィール、採用者がIBMで成し遂げた実績などを組み合わせて最適な人材を抽出し、アナログ的な経験値と組み合わせてさらに精度を上げる。そういったデジタル×アナログな採用がきっとできると思っています。
実現には至っていませんが、IBM Watsonなどのテクノロジーを活用して、採用プロセスの効率化や選考基準の明文化などさまざまなチャンスがあると思っています。
「誰かいい人、いないかな?」という感じで漠然と採用活動するのでなく、あらかじめ数千万人のビジネスパーソンの中から適した人材を効率よく抽出してアプローチし、関係構築しておき、最良のタイミングで入社いただけるのがベストだと思っています。
従来、“マッチング”という部分は採用担当者の経験や感覚に依存してきた領域なので、そういった領域に最新の技術を活用することで、自社に適したタレントプールづくりとそのメンテナンスを実現できるよう、今は効果的なサービス実装に向けて議論しているところです。
若松:マーケティング領域におけるテクノロジーの活用も全然進んでいません。杉本さんが言うように、マーケターにとってもチャンスなんです。
──それは、IBMでなければ経験できないものですか。
若松:全部の会社を知っているわけではないのでそうとは言い切れませんが、相当充実した環境だとは思います。最先端のテクノロジーを持ち、ソリューションのポートフォリオが広い。グローバル展開している企業ですから広い視野で物事を考えることもできる。
そして、組織は大きいのに、新しいことに挑もうってエネルギーがある。一方で、ビジネスプロセスはシンプルだけどしっかりと体系化されている。
規模と柔軟性が両立しているから、できることが大きい。私が経験したこれまでの会社にはありませんでした。
杉本:IBMは、日本法人であっても実質的には日本支店として本社のやり方に従うだけという外資系特有の“グローバルあるある”が少ないと思います。私が所属する人事のグローバル組織でも日本のオピニオンは尊重されるし、日本は日本独自のやり方で動けます。外資で言えば、異質な存在ではないでしょうか。

中途は活躍できるのか?

──IBMはプロパー社員が中心のようなイメージがあるんですけれど、中途採用者は活躍できるものですか。
若松:私のように新しいチャレンジを求めてやってくる転職者も増えていますよ。先ほども申しあげたように、IBMってむちゃくちゃ変化しているんです。マーケットの動きに合わせてビジネスを変えている。だから、組織やそこにいる人材も変えている。
新卒社員は確かに多いんですけれど、それだけじゃマーケットとIBMの戦略に追いつかない。だから、その変化をドライブする人材を急速に集めているように思います。
杉本:私が答える質問ですね(笑)。確かに新卒社員は多いですが、ここ最近の中途採用の募集人員はかなりの数ですよ。多様なキャリアの方々がIBMに集まっています。
私も入社する前に感じていたのでわかるんですが、IBMって意外に自由でフラットに仕事ができる意外な顔があります。それだけでなく、若松さんも自身のキャリアを高めることを考え抜いた結果、テクノロジーの重要性を感じ、IBMにたどり着いた。これってどんな職種でも共通だと思うんです。
先進的で豊富なテクノロジーリソースを使って自分のデジタルキャリアを高めるには、格好の舞台だと思っています。
(聞き手:木村剛士、文:加藤学宏、写真:北山宏一)