キャリアの融合で「次世代マーケター」を生む舞台

2018/3/23
マス型のオフラインマーケティングと、獲得型のオンラインマーケティング。どちらかに偏っていたのでは、この先、頭打ちになる――。権限委譲された少数精鋭のチームが大きな予算と責任を持ち、サービスやプロダクトと一体化した「本質的」なマーケティングを行う。それが、新しい価値観を社会に生み出すメルカリの“強い”マーケティングチームだ。組織を率いる山代真啓氏に、その全貌を明かしてもらった。

日本の存在感を示すため、メルカリへ

私がメルカリにジョインしたのは、世界に対して日本企業のプレゼンスを高めたいと思ったからです。
大学卒業後、P&Gで10年ほどマーケティングを担当し、うち5年間はシンガポールでグローバルのブランドマネジャーを務めました。そこで痛感したのが、アジアで日本の存在感が低下しているという現実です。
目覚ましく発展する中国やインドへの投資は増やす一方で、自国の優先順位を落とさざるを得ないという経験は、日本人として純粋に悔しかった。学生時代には海外経験がなく、日本は経済大国だと信じていましたが、グローバルプレーヤーたちは日本の成長可能性を高く感じていなかったのです。
この見通しを変えるためには、日本企業が世界で実績を作るしかない。それまで私が得た経験を、今後よりマーケティングが意味を持つ成長産業で生かしたいと考えました。
日本を飛び出し、グローバル市場を視野に入れて急成長を遂げるメルカリであれば、本気で世界に挑める。これが、当時の思いです。

権限移譲が生む、高速マーケティング

メルカリのマーケティングは、私を含めて現在9名のチームです。メルカリ6名、メルペイ3名で、サービスすべてのマーケティング戦略から実行までを少数精鋭で担っています。
そもそも、マーケティングは“右脳と左脳の格闘技”です。
さまざまなデータと向き合い、戦略的に施策を仕掛ける左脳的アプローチが重要な意味を持つ一方、最終的なクリエイティブを判断するのは「おもしろい」「ワクワクする」「使ってみたい」といった主観的な右脳要素になる。
その価値観は100人いたら100通りあり、常にこれが正しいという答えはないため、「偉い人」の意見が答えになりがちです。
だからメルカリでは、クリエイティブ領域で権威ある人を集めて喧々囂々(けんけんごうごう)するような合議制を取っていません。それぞれの担当者が迅速に意思決定から実行までを行い、期待した結果が出ない場合は、また新しい挑戦をする、というスタイルをとっています。
こうした動き方が可能なのは、圧倒的に権限委譲が進んでいるからです。社長の小泉・青柳と私の間でもそうですし、私とメンバー間でもそう。
承認プロセスを徹底的にシンプルにし、まず「任せる」ことで、スピードをもってPDCAを回し続けられる環境を整えています。
メルカリのマーケティングチームには、大きく3つの特徴があります。
1つ目は、マーケティングすべての機能がひとつのチームで完結していること。
獲得を担うオンラインチームと、認知や理解を目指すオフラインチームが分かれている組織は多いですが、組織全体として利益を生む本質的なマーケティングのためには、両者を分断して考えることはナンセンスです。
「私たちはインストール数を最大化する」「私たちはCMでこの層に認知させる」と、それぞれが小さな点でしかない目先の数字を追っている状態では、売り上げに責任は負えません。
実はメルカリも、以前はオンラインとオフラインの組織が分かれて存在しており、私が入社して最初に取り組んだのは、2つのチームの統合でした。
「今、どこに投資すべきか」を正しく判断するためには組織改革が必要だと小泉に掛け合い、入社後わずか2週間でチームの統合が決定。その意思決定のスピードの速さもメルカリの強みだと思っています。

統合によって、全体最適が可能に

現在、マーケティングチームでは、ターゲットを以下の図のようなファネルに分け、オンラインとオフラインの広告や、アプリ内でお客さまの利用を伸ばすグロース戦略を融合させています。
これらを俯瞰して見ることで、点のマーケティング施策ではなく、サービス全体を見渡して行う、面のマーケティングができます。
短期的に考えれば、専門家を集めて、それぞれの専門分野における間接KPIを伸ばすことに専念したほうが容易です。しかし、マーケティングとは、事業の本質を考え抜いて、ビジネス上の課題を解決するための施策を実施するものです。
広告宣伝費全体をどう使うべきか、オンラインとオフライン、グロースを組み合わせて全体を設計することこそ、マーケティング組織のあるべき姿だと考えています。
今、まさに立ち上げているメルペイにおいては、オンライン・オフラインに加え、加盟店とのアライアンスを推進するといったパートナーマーケティングも統合。
メンバーには、ダイレクトマーケティングの経験を積んだ人が、オフライン広告に挑戦していたり、事業会社でプロデューサーをしていた人が、テレビCMを作ってグロース施策も同時に考えたりと、未経験分野にも積極的に取り組んでもらっています。
少数精鋭のマーケティングチーム
デジタルが台頭し、各領域に専門性が求められる今、横断的に経験を積むことがマーケターに求められています。
誤解を恐れずに言うならば、特定のスキルだけではこの先、マーケターとして生き抜けないと思うのです。だからこそ、メルカリはマーケターに横断したキャリアを提供できる場所にしたいと考えています。
メルカリのマーケティングチーム2つ目の特徴は、短期的な売り上げと利益、及び、中長期的なブランディングに責任を持てること。
全体を俯瞰して設計できる体制があるからこそ、四半期ごとの流通総額と利益に責任を持って、各施策を実行できます。新しいプロダクトや機能の垂直立ち上げといった、プロダクトと一体化したマーケティングや、中長期的な視点でのブランディングにも責任を持てるのです。
莫大な予算を扱いながら、メルカリなら小泉、メルペイなら青柳といった社長や経営メンバー、及びプロダクトチームと非常に近い距離で、意思決定やプランニングを実施。よいプロダクトを支えるためのマーケティングとトップラインを伸ばす予算なので、ファイナンスチームも理解してくれています。
しかも、コミットした売り上げを超えた分は、翌月など次のマーケティング予算に再投資しています。予算が増えれば増えるだけ非連続的成長を生み出せるため、メンバーのモチベーションにも大きく影響していると思いますね。
そして、3つ目の特徴は、世の中に新しい「価値観」を作り、業界のルールを変える挑戦ができること。
メルカリの挑戦は、「いいお買い物」や「不用品の処分」という概念自体の再定義です。不用品が出たときに、「メルカリに出品したらいくらで売れるかな」と、100人中100人が思うようになれば、それは社会の価値観を変え、行動変容を起こせたと言える。
メルペイも同じように、デジタルウォレットを提供するにあたって、「お財布」の再定義に挑戦しようとしています。今、「いいお財布とは何か」と問えば、多くの方がイメージするのは有名ブランドの財布でしょう。その中に、クレジットカードや免許証、キャッシュカードが入っている。
その価値観を書き換え、もっと利便性が高く、新しい価値のある“お財布”を生み出すことが、メルペイとして第1弾のチャレンジ。2017年11月に立ち上がったばかりの事業なので、サービスのコアな部分をプロダクトやBizDev (事業開発部)と議論を重ねている最中です。
こうした議論を経営陣も巻き込みながら主導できるのも、マーケティングチームがビジネス全体の流れを見ていることや、売り上げと利益に責任を持っているからこそ。なかなか経験できることではないので、私自身、とてもワクワクしています。
メルカリが追求する本質的なマーケティングであれば、世の中にない価値観を生み出し、行動変容を起こせるはずです。日本発の企業がグローバルで一目置かれる存在になるよう、引き続きGo Boldに挑戦し続けたいと思います。

マーケティングチームへの期待

小泉:メルカリのマーケティングの醍醐味は、少人数のプロフェッショナルなメンバーが、オンラインとオフライン、グロースの範囲を限定せずに議論し、チャレンジングに進めているところです。
山代さんは入社後間もない頃からチームがより有機的に動けるよう、社内に変化を促し、リーダーシップを発揮してきました。また、前職でマーケティング経験がないメンバーにも、その人の強みを生かしながら高いアウトプットを引き出してくれています。
マーケティング手法が多様化している昨今、既存の枠組みを超えた新しいチャレンジに期待しています。
青柳:Fintech領域におけるイノベーションの多くは、金融サービスのモジュール化とリバンドリングを推進するものであるとともに、マーケティングでの革新を伴うものになってきています。
メルペイが目指している「なめらかな社会」を実現するには、マーケティングを通じて、人々の価値観や行動様式の変化を促していくことが必要不可欠です。マーケティングチームには、プロダクトやビジネスデベロップメントと協力して、新しいサービス、新しい体験、新しい価値観を生み出していくことを期待しています。
(文:田村朋美、デザイン:星野美緒、写真:岡村大輔、編集:樫本倫子)