[13日 ロイター] - 米クアルコム<QCOM.O>の買収を米大統領令により阻止されたばかりのシンガポール半導体大手ブロードコム<AVGO.O>について、アナリストらは13日、ホック・タン最高経営責任者(CEO)が進める積極的な企業買収にブレーキがかかる公算は小さいとの分析を示した。

トランプ米大統領は12日、ブロードコムが提案している総額1170億ドルのクアルコム買収を国家安全保障上の観点から禁止する命令を出した。無線技術での米国の優位性が脅かされ、中国との地位逆転につながるとの懸念が背景にある。

ただ、アナリストらは、ブロードコムは依然、小規模なM&A(合併・買収)を通じて業界内の影響力を拡大することが可能だと指摘。米国への本社移転計画を実行に移せば、米企業の買収も容易になる公算だという。

タンCEOは、2009年に時価35億だったブロードコムの前身アバゴ・テクノロジーを、15年のブロードコム買収、17年のブロケード・コミュニケーションズ買収を通じて、1000億ドルを超える大企業に変貌させた実績がある。

バーンスタインのアナリスト、ステイシー・ラスゴン氏は「タン氏は価値を追求している。この業界から多くの価値を引き出せるという考え方を持っている」と指摘。

大半のアナリストは、ブロードコムがクアルコム買収を断念すると想定。同業の米ザイリンクス<XLNX.O>、イスラエルのメラノックス・テクノロジーズ<MLNX.O>が次の買収ターゲットとなる可能性があるとの予想も一部である。

2人のアナリストは、ザイリンクスとメラノックスはブロードコムと相性がいいはずだと指摘。ただ、クアルコムほど大きな変革をもたらす見込みはないという。

クアルコムは携帯端末の無線通信を制御するベースバンドチップで圧倒的シェアを握るため、WiFi(ワイファイ)など無線通信やグラフィックス処理を可能にする通信用半導体を取り扱うブロードコムにとって貴重な資産となるはずだった。

ブロードコムは小規模買収に向けた資金が潤沢にある。アナリストの推定では、保有する現金は110億ドルに上り、年間90億ドル近いフリーキャッシュフローを創出する力がある。無線通信用半導体のザイリンクスは時価が200億ドル、サーバーとストレージシステムを接続する製品を手掛けるメラノックスは時価が40億ドル弱。

大統領令が出る前にブロードコムは米国への本社移転を計画していた。外国企業による米国企業への投資を審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の調査を回避する狙いがあった。

米弁護士事務所ブラウン・ラドニックでCFIUS関連案件を担当する弁護士、ギレルモ・クリステンセン氏は、海外企業による権益保有や影響力を排除する形で本社を移転できれば、CFIUSの審査を逃れ、多くの企業買収に道を開くことができると指摘。

ただ「これは完全に海外資本との関係を断てるかどうかにかかっている。最初の案件では徹底的な審査に耐える必要があるかもしれない」とみている。