人生が変わる体験を。「ULTRA JAPAN」が若者12万人を踊らせる理由

2018/3/27
2014年の日本上陸以来、東京・お台場に延べ37万人以上を集める「ULTRA JAPAN」。日本のダンスミュージックフェスの火付け役として、新しいカルチャーを築いてきた。このイベントの仕掛け人が小橋賢児だ。2017年には、"花火文化を進化させる"をテーマに「STAR ISLAND」を開催。伝統文化とテクノロジーが融合した体験に1万5000人が歓喜した。なぜ、小橋氏は多くの人を集め、熱狂させることができるのか。イベントにかける思いを聞いた。
感情を解き放ち、新しい自分に出会う
──CDが売れないと言われて久しいですが、ライブやフェスの動員は増えています。なぜ今、人はフェスに集うのでしょうか?
小橋:音楽が好きという直接的な理由で参加する方ももちろんいますが、「ULTRA JAPAN」の客層は、いわゆるダンスミュージックが好きな方だけではありません。
僕が思うのは、人々の心の根底に日々のストレスやしがらみから一時でも「解放されたい」という感情があるから。
かつての僕もそうでしたが、なにか悶々とした思いを持ちつつも、人間関係や忙しさを理由に、突破するための一歩をなかなか踏み出せない。
フェスは音楽という共通言語を通じて人が繋がり、新しい自分を発見できる場所なんです。
日本人は普段、とても空気を読む文化の中で生きています。
それは我々の美徳でもありますが、気を使いすぎるあまり「自分がなにかをしたい=WANT TO」の感情で動くのではなく、「誰かのためにこれをしなければ=HAVE TO」という基準で行動を決めてしまいがちです。幼い頃から身についた、この思考をいきなり変えることは難しい。
でも同時に、誰もが「もっと楽しみたい」という欲求を持っていて、その根底には「今の自分を変えたい」という気持ちが眠っていると思うんです。
その感情には自分自身も気づいてないことがある。だから、人は直感的にフェスやイベントに魅せられ、熱狂の渦に入りたいと思うんじゃないでしょうか。
「たかがフェスじゃないか」と言う人もいるかもしれない。でも、感情を解き放つことで、眠っていた新しい自分に出会い、人生が変わるきっかけになるかもしれない。だから「されど、フェス」なんです。
日常空間に現れる「非日常」の熱狂
──フェスが「人生を変えることがある」と聞くと、わくわくしますね。
開催地に東京・お台場という場所を選んだ理由もここにあります。
音楽フェスは、郊外の大型施設や都心から離れた大自然の中などで開催されるものも多いですが、世界中を回り、さまざまなイベントに参加して思ったのは、日常の延長線上にある「非日常」が自分の可能性に気づくきっかけ作りには最適だということ。
 「ULTRA JAPAN」は2017年で開催4度目。「ULTRA JAPAN 2018」も9月15日から3日間お台場で開催される
僕が日本でULTRAをやりたいと思ったのも、当時最も都市型の音楽フェスだったから。
会場が都心から離れると規制がゆるくなり、夜中まで開催できたり、大きな音が出せたり音楽ファンにとってはうれしいですが、距離があると気軽に参加できなくなる。友達に誘われても、「音楽はそんなに好きじゃないから」と断ってしまうかもしれない。
たとえば渋谷で遊んでいる人が、「ちょっと行ってみよう」と思い立って参加できる距離感。フラっと立ち寄った先に、最高潮の盛り上がりがあって人生ではじめての景色に遭遇する体験。
なんとなくノリで参加した方が、音楽の魅力に開眼し、10年後には海外で活躍するクリエイターになっている、なんてことだってありえる。事実、ULTRAを契機に1万人以上もの若者が海外に行くようになったと聞いています。
飽くなき「新鮮」の追求
──ULTRAの日本上陸から4年。今年の開催も決定しています。非日常の熱狂を提供し続けるために、こだわっていることは?
常に新鮮であること。毎年来てくださるお客さんのためにステージを増やしたり、演出を更新したり、いかに新しい体験を提供できるかに重点を置いています。
参加者の目からどう見えるかを考えた結果、スタッフ間では話がまとまっているものを、僕が「もう一度、考え直そう」とひっくり返すこともよくあります。
僕自身、海外のフェスで「なぜ、これができないんだろう?」と残念に感じた経験があり、参加する方にそんな思いは絶対にさせたくない。当日に変更を言い出すこともあるので、スタッフからはクリエイティブ・ディレクターならぬ、「クレイマー・ディレクター」って呼ばれます(笑)。
昨年、はじめて開催した未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」では、砂浜に300個以上のスピーカーを設置し、お台場から眺める東京の絶景を背景に花火と音とパフォーマーが連動する3Dサウンドミュージック花火を実現しました。
未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND」。今年も5月26日に開催されることが決まった
映画館に行けば立体的な音響システムも当たり前の時代ですが、それが屋外で聞くと「すごい!」と感じる。
見知った景色のなかでいつもと違う体験をすると、一種のパラレルワールドに迷い込んだような不思議な感覚を味わえるんです。
先日、2018年の開催を発表したのですが、今年も花火の見方を変えるというコンセプトに基づき、ベッドで寝ころびながら見たり、ディナーを食べながら見たり、家族や恋人同士など、さまざまなシチュエーションで楽しめるシートを用意しています。
熱狂を守るための安全・安心
──大規模イベントの運営においては苦労も多くあるのでは?
もう、トラブルだらけ。話せないようなこともたくさん起きますよ(笑)。
ULTRAには、10万人以上が集まるので、常に緊張感を持って運営をしています。エラーの芽を見逃さないように開催中は歩き回るので、歩行距離が毎日20キロ以上にも。
でも、いくら策を打っても、予測できない問題に見舞われることもあります。
去年は、ULTRA初日に台風が接近し、開催か中止かの選択に迫られました。会場の裏で気象予報士さんに、最新情報を逐一チェックしてもらうような状況で。
運良くそれた結果、決行できて一安心。女性のお客様からは「メイクというバリアが剥がれたせいか、すごく解放されて楽しかった」という予想外の声も(笑)。
もうひとつ問題になったのが偽造チケットが出回ったこと。正規に購入してくれた方の権利を守るため入場時のチェックを厳しく行い対応しましたが、そうなるとせっかく足を運んでくれた方に確認の負荷をかけることになる。
入るまでに時間がかかって、「フェスって楽しくない」という印象を持ってほしくない。
初日の夜、どうすればしっかり確認しながらスムーズに入場できるかをスタッフと話し合い、入り口を変え、再入場の動線を工夫し、案内を強化し……と策をつくした結果、2日目は待ち時間ゼロに。
意図せず偽造チケットを手にした方が入れない状況はできるだけなくしたいので、サイトやSNSでの注意喚起など、事前の案内にも力を入れています。
毎回さまざまなトラブルが起こりますが、それを乗り越えた後はいつも高い山を登った時のようなすがすがしい気持ちになるので、イベントの運営はやめられませんね。
"ハッピーな空気"でトラブルを防ぐ
──ほかにどんな取り組みがありますか?
ULTRA JAPANでは人混みに押しつぶされないかと不安を感じる方に向けて女性専用エリアを設けたり、STAR ISLANDでは、小さなお子さんが自由に遊びまわれるようにキッズエリアを作ったり、どんな方も安心して楽しめるようにさまざまな工夫をしています。
でも、それ以上に意識しているのが、いかに"ハッピーな空気"を生めるかということ。
たとえば、「ULTRA SWEEPERS」というパフォーマンス集団は、ゴミ拾いの作業をエンターテインメントにしてしまう。彼らの様子を楽しんだ後に、ポイ捨てはできないですよね。
ほかにも、ひたすら「いいこと」だけを行うパフォーマーを配置して、荷物が重そうなお年寄りを助けたり、群衆に埋もれて花火が見えない子供を高く抱えあげたり。
人って、親切にしてもらうと同じように他人に優しくできるし、嫌なことをする気にならないと思うんです。幸せな光景を見ると、自分の行動が変わる。
ポジティブな空気の連鎖を作ることが、リスクマネジメントにつながるのかなと思っています。
海外のイベントでは顔認証などの技術導入が進み、入場が随分スムーズになっているという印象があります。偽造チケットの経験からも最新テクノロジーには関心がありますが、コストやお客さんの心情面との折り合いが課題です。
いっそのこと、セキュリティ対策もエンターテインメントにできればいいのかな。ウォークスルーで生体認証できるシステムがあるなら、それを"見える化"してアトラクションとして楽しんでもらう。自分が瞬時にスキャンされる様子って、おもしろがってもらえそうですよね。
ほかにも、会場の人の動きをデジタルアートにして見せるとか。セキュリティもポジティブなことに変えると、より価値が広がって楽しめるようになると思います。
安心と熱狂が両立する場所作り
──小橋さんはULTRAを海外から輸入して、大成功を収めました。今後の展望は?
歴史を紐解いても、日本は海外の文化をうまく取り入れて今に至っています。ULTRA JAPANも当初は「日本では無理だ」と言われていましたが、おかげさまで定着してきました。
一方で、日本にあるものの価値を再発見することは、今後もやっていきたいことのひとつ。
花火という伝統と、お台場から見る東京の夜景という既存のものに、テクノロジーや新たなアイデアを組み合わせたのがSTAR ISLANDですが、第1回を終え「うちの国でも開催してほしい」という声をすでに海外の方からいただいています。
2020年に向け、世界からの注目が高まる東京はさらに熱気を帯びるでしょう。さまざまな思いや文化を抱えた人たちが共に過ごすためには、真の意味でのダイバーシティが求められると思います。
ヨーロッパのフェスには、毎年、一人で訪れる車椅子のお客さんが普通にいますが、彼らが抵抗なく参加できるのはバリアフリーが進んでいること以上に、人同士の互助システムができているから。
日本では、手を差し伸べたくても「恥ずかしい」が先立って行動できないことがある。僕が関わるイベントをきっかけに多くの人が心を解放し、助け合うことができるようになれば、それは本当にうれしいことです。
個性を認め合い、互いに足りない部分をそれぞれ補うためには、新しい感情や文化を知る体験が助けになる。
気兼ねなく感情を解放でき、人同士のつながりを感じられる。そんな安心と熱狂が両立した場所をこれからも作っていきたいと思っています。
(取材・文:橘川有子 写真:北山宏一 デザイン:星野美緒 編集:樫本倫子)