作品の真贋あるいは来歴の確認は、美術業界で最も難しいことのひとつだ。そして、ブロックチェーンが役に立つ可能性がある。

作品の来歴を透明化する分散型データベース

金融から食品安全、ソーシャルメディア、小売業まで、ブロックチェーンはあらゆる種類の業界で革命的なテクノロジーとなる可能性を秘めている。そして、不透明なことで悪名高い美術品の世界で、あるスタートアップが作品の真贋の確認にブロックチェーンを利用しようとしている。
そのスタートアップ「コーデックス(Codex)」は美術品やクラシックカー、宝石などの収集品の市場のために、分散型データベースを開発した。このプロトコルはそうしたカテゴリーに属する物品にとって最も重要なことのひとつ、すなわち来歴(作品所有に関する履歴)の問題に透明性をもたらすのに役立つだろう。
現在、そうした来歴の証明は書類や領収書を手作業で精査するなど面倒で時間のかかるプロセスであり、それでいて確かな結論が出ないことも多い。
確実な来歴がなければ、詐欺師が贋作を作りやすくなる。また、たとえば保険をかけたり、それを担保に融資を受けたりといった売買以外のさまざまな取り引きも困難になるだろう。
コーデックスは2月27日、ブロックチェーンに投資している著名なヘッジファンドのひとつ、パンテラ・キャピタル(Pantera Capital)から500万ドルの出資を受けたことを明らかにした。そして、パンテラの共同最高投資責任者ジョーイ・クリュッグがアドバイザーとしてコーデックスに加わった。
コーデックスが提案しているような分散型台帳を作れば、取り引きの当事者の双方が来歴情報に直接アクセスできるようになる(来歴情報である対象物の出所、過去の所有者、真贋などはいずれもその価値に影響を及ぼす)。
それと同時に、現在の所有者の身元を秘匿しておくことも可能だ(裕福で大型取引を行う収集家にとっては、それが重要な問題であることが多い)。
またブロックチェーンの分散性、つまり暗号化された情報を複数のコンピュータに保存して検証するというシステムはコストのかかる中間業者を不要にし、ひとつの組織や個人が情報を握っている場合に生じうるリスクや疑惑をなくすことができる。
コーデックスのマーク・ルーリー最高経営責任者(CEO)は「収集家は、自分の資産を公共機関に開示することを渋るものだ」と述べる。
「だが、ブロックチェーンを利用すれば、収集家はプライバシーの面で妥協をせずに自分の所有権を証明できる。これによって美術品や収集品は、ひとつの金融アセットクラスとして取り引きが盛んになる。収集家、仲介人、芸術家たちにとって、市場はより大きく、安全で公正なものになるだろう」

「美術品と収集品のビジネスを根底から変える」

美術品の世界で最初にブロックチェーンの有効性を見出したのは、コーデックスではない。
ロサンゼルスに本拠を置く「ベリサート(Verisart)」は「サーチ・オンライン(Saatchi Online)」と「セディション・アート(Sedition Art)」の元最高経営責任者、ロバート・ノートンが2015年に立ち上げたスタートアップだ。
べリサートのモバイルアプリはビットコインのブロックチェーンを利用しており、アーティスト、収集家、美術商がリアルタイムで来歴を確認できる。
「アートチェーン・インフォ(ArtChain.info)」というスタートアップは、真贋証明書の作成にブロックチェーンを使っている。
サンフランシスコとロンドンにオフィスを持つコーデックスは、ベッセマー・ベンチャーパートナーズとFJラボに支援されている。
そして同社は、ライブ・オークショニアーズ・ドットコム(LiveAuctioneers.com)やオークションモビリティ・ドットコム(AuctionMobility.com)を含む業界ステークホルダーのコンソーシアムも組織した。
コーデックスのルーリーCEOとジェス・ホールグレイブ最高執行責任者(COO)は、このプロトコルの開発を推進するべく、機関投資家や適格投資家からの資金集めを拡大しつつある。
パンテラのクリュッグは「われわれは、コーデックスのビジョンと同社が美術品と収集品の業界においてビジネスのあり方を根底から変える能力を確信している」と語る。
「さらにわれわれは、暗号通貨で富裕になった新たな投資家が多数いることも、この目で見てきた。彼らは、価値を多様化して保持することに関心を持っている。彼らはコーデックスを通じて、そうした目的のために美術品と収集品のアセットクラスを利用できるようになるだろう」

暗号通貨を保証金として預けるアプリ

コーデックスはブロックチェーンを利用したいくつかのアプリケーションを開発しているが、そのなかでも主要なアプリのひとつは「ビッダブル(Biddable)」と呼ばれるものだ。
暗号通貨の保有者は、このソフトウェアを使ってオークションで入札ができる。そして作品が売買されるたびに、その来歴と関連書類がブロックチェーンに入力されるのだ。
こうして作品にはつねに来歴情報が伴う。将来の買い手がいつでもその作品をブロックチェーンでサーチし、作品の真贋の判定ができるように記録が作成されることになる。
現在の仕組みでは、入札者が競り落とした品を購入しない場合、オークション会社は少なくない額の収入を失う。これを防ぐためにオークション会社は入札に参加する条件として、詳細な資産公開を求めるのが普通になっている。
コーデックスによると、要求される資産公開を嫌って入札への参加をあきらめる人がいるうえに、新規申込者の20%近くが拒絶されるという。とくに外国のバイヤーや暗号通貨の保有者は、適切に翻訳された資産情報あるいは証明可能な財務記録を持っていなかったりするからだ。
だがビッダブルを使えば、オークション参加者はブロックチェーン上で契約をプログラムするスマートコントラクトのエスクロー勘定に暗号通貨を保証金として預けられるようになる。
こうした保証金があれば、落札後のキャンセルを抑制し、オークション会社が収入を得られない可能性を防げるだけでなく、収集家にとっても入札が容易になるはずだとコーデックスは述べている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Molly Schuetz記者、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:Freeartist/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.