プラットフォームこそ最強のビジネスモデルだ

2018/3/11
経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか。プラットフォームビジネスについて、世界の様々な事例を説明する『プラットフォーム革命』(アレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソン著)の訳者である藤原朝子氏が、そのエッセンスを紹介する。

変われない企業の末路

2011年2月、ノキアの全社員宛てに、スティーブン・エロップCEOから1通のメッセージが届いた。
瀕死のノキアを、石油プラットフォームで火災に巻き込まれた作業員になぞらえ、「私たちも『燃えるプラットフォーム』に立っている」として、社員に思い切った行動を促したのだ。
かつて世界一の携帯電話メーカーだったノキアは、2011年当時、多くの問題に見舞われていた。高位機種ではアンドロイド端末とiPhoneにシェアを奪われ、低価格機種では中国メーカーに押されていた。
それなのにノキアは、相変わらず端末メーカーとして考え、行動していた。
そのことをエロップは、「(ノキアは)武器さえ間違った」と表現している。
「いまだにどの価格帯でも、端末で競争しようとしている。(だが)現在の戦いは端末ではなく、エコシステムの戦いだ。(中略)われわれのライバルは、そのエコシステム全体でノキアのシェアを奪おうとしている」。
かつてノキアでCEOを務めたスティーブン・エロップ(写真:ロイター/アフロ
アレックス・モザドとニコラス・L・ジョンソン著『プラットフォーム革命――経済を支配するビジネスモデルはどう機能し、どう作られるのか』は、そんなノキアの断末魔のあがきを冒頭で紹介する(ノキアの携帯端末事業は2013年にマイクロソフトに売却された)。
「アップルとアンドロイドは、無数の消費者とアプリ開発者を結びつけて、今までにない巨大なネットワークを構築した。彼らが勝利を収めたのは、機能や技術が優れていたからではない。(中略)新しい市場を生み出し、新しい価値の源を活用したからだ。エロップはそのことに気がついたが、すでに手遅れだった」

世界を席巻するプラットフォーム

モザドとジョンソンは、アプリコ(本社・ニューヨーク)というプラットフォーム・コンサルティング会社を経営している。
グーグルやディズニーといった世界のリーディングカンパニーとスタートアップをクライアントに持ち、独創的なプラットフォームを構築して育てる方法を指南する会社だ。
(写真:iStock/SpVVK)
だから2人は、「私たちは今、誰よりもプラットフォームのことをよく理解している」と自負する。
そして『プラットフォーム革命』で、プラットフォームとは何か、その経済学的位置づけ、そして現在の経済を席巻しつつある理由を解説したうえで、「成功するプラットフォームの作り方」を伝授する。
プラットフォームとは、プロデューサーと消費者を結びつけ、価値交換を可能にするビジネスモデルのこと。
ここで「プロデューサー」とは、YouTubeなら動画制作者、ウーバーならドライバー、エアビーアンドビーなら家やアパートの持ち主を意味する。フェイスブックやインスタグラムのように、プロデューサー(コンテンツの投稿者)と消費者(コンテンツの読者)が両方の役割を果たすプラットフォームもある。
プラットフォーム企業は、プロデューサーと消費者の直線的な価値交換を可能にするだけでなく、ユーザー(プロデューサー+消費者)全員がつながって交流するエコシステムをつくる。そのビジネスモデルの成長は、テクノロジー業界だけでなく、現代経済全体における重要な現象となっている。
「プラットフォーム企業は成長のスピードが速く、資本利益率(ROC)が高く、利幅も大きい。(中略)現在のトレンドでは、プラットフォーム企業は2020年までにS&P500種全体の約5%を占めるだろう」。
実際、プラットフォーム企業の代表格であるアップルは現在、アメリカで最大の企業(時価総額ベース)だ。
(写真:iStock/Nikada)
2015年のデータだが、ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)も58%がプラットフォーム企業だ。これらのスタートアップがIPOを果たせば、プラットフォームはメインストリーム経済でますます大きな位置を占めるようになるだろう。
これはアメリカだけで起きている現象ではない。
「アリババ、テンセント、バイドゥ、楽天といったプラットフォーム企業が、中国とアジアの多くを席巻している」と、モザドとジョンソンは指摘する。
(写真:iStock/vivalapenler)
そして、だからこそ起業家も、伝統的企業に勤めるビジネスパーソンも、現在の経済で何が起こっているか知りたい人も、プラットフォームについて理解することを勧める。

成功・失敗の事例に何を学べるか

プラットフォーム革命』のおもしろいところは、なにより具体例がたっぷり示されていることだろう。
それもプラットフォームを構築する各段階で、いまや有名になったプラットフォーム企業がどんな工夫をしたかが体系的に紹介されている。
たとえば、初期ユーザーを確保するという課題。
プラットフォームがネットワーク効果を生み出すには、一定数のユーザー(プロデューサーと消費者)が必要だ。しかし無名のプラットフォームがユーザーを確保するのは容易ではない。
そこでペイパルは「チャリティーロボット作戦」を展開して、eBayユーザーを取り込んだ。Q&Aサイトのクオラやレディットでは当初、創業者が質問(トピック)と回答を全部執筆して「活発なプラットフォーム」を装った。
(写真:iStock/JasonDoiy)
その一方で、モザドとジョンソンは、「これをやったら(あるいはやらなかったら)失敗する」例も紹介する。
たとえば、世界中の人とウェブチャットができるプラットフォームの「チャットルーレット」。立ち上げ当初は、1カ月でユーザーが400%増える人気となったが、ネットワークの品質管理を怠ったため、たちまち「変態ユーザーだらけ」となり、一般ユーザーが逃げ出してしまった。
モザドとジョンソンは、こうした興味深い例を交えてプラットフォームの作り方を解説したうえで、「これからプラットフォームをつくるときの4つの着目点」を示し、それをクリアする有望業界を挙げる。
同時に2人は、プラットフォーム・ビジネスのリスクを指摘することも忘れていない。
たとえば、現代の法律は伝統的な企業活動を規制することを想定しているため、プラットフォーム企業にはうまく当てはまらないことが多い。
このため業界初の大型プラットフォームは、少なくとも当初、法的なグレーゾーンで活動することになる。これは、ウーバーやエアビーアンドビーが直面した規制上の問題を考えれば合点がいくだろう。
(写真:iStock/GoodLifeStudio)
「現代は、プラットフォームが古いビジネスモデルに急速に取って代わっている歴史的にユニークな時代だ。インターネットの潜在性は、まだ完全には理解されていない。私たちはまだ、その表面を削り取り始めたばかりだ」
そのうえで、2人は自著を次のように推奨している。
「もしあなたが起業家なら、いま最も成功している企業が成功した秘訣がわかるだろう。あなたが伝統的な企業の所有者か社員なら、手遅れになる前に、その世界の崩壊を見極める助けになるだろう。本書を読み終えたとき、あなたは自分の会社が燃えるプラットフォームに立たされないようにし、新しい時代で成功するためのツールを手に入れているだろう」
ちなみにジョンソンは、『ポケモンGO』で世界中のポケモンを捕まえた「ワールドワイド・ポケモンマスター」の第1号だという。
日本人としては、そんなところにも親しみがわく。