【鈴木大輔】人生の主人公になれば、日本人は勝負強くなれる

2018/3/16
自分に意識を集中して主体的に生きる。
周りにどう思われるかなんて関係ない。
どうやったら自分の最大のプレーを発揮することができ、楽しめるのか――。
恥ずかしながら、アスリートにとって非常に大事なこれらの要素が頭ではわかっているつもりでも、全然体に染み付いていないと日々痛感しています。
日本人選手は練習ではいいプレーをするけれど、それを試合で発揮できない。一方で、外国人選手は試合で最大の力を発揮できる。日本人は勝負強くない……。
これらはよく言われていることで、日本サッカーの課題だとされてきました。実際に外国人選手が練習では考えられないようなとんでもないシュートを、試合で決めているのを何度も見てきました。
「外国では幼い頃から結果を残さなければ生活していけないような、ハングリーな環境で育つ子どもたちがいて、育成年代から厳しい競争がある。だから彼らは勝負強いんだ。自分たちももっとハングリーになろう」
そんなようなことを、海外を見てきたという指導者の方に学生の頃、言われたことがあります。スペインの育成に携わる方に聞いても、育成年代からプロと同じようなリーグ戦が行われていて、選手個人でも引き抜きがあったり、出場時間を求めてカテゴリーを落としたりということが普通に行われているといいます。
自分が所属しているチームにも様々な国の選手がいますが、彼らと一緒に練習していると、取り組み方に大きく差があるなと感じました。同時にその練習の取り組み方が勝負強さを作っているなと思います。
例えば自分は、練習で常に100パーセントの力を出すことを大事にしてきました。どんな小さな練習にも意味があって上手くなれる。手を抜いていい練習なんてない。これは今でも大事にしていることです。
チームメイトの大多数はというと、ウォーミングアップ系の軽めの練習なら笑ってふざけたりしていますが、試合形式などの競争になると、目の色変えて120パーセントの力を出してきます。
プレーも激しくなり、選手同士の喧嘩もよく起こります。さっきまでふざけていた選手とは思えないなと、よく思ったものです。
スペインに来た当初は「クレイジーな選手なんだな」と感じていましたし、練習で手を抜いているように見える選手に対して、「練習でふざけていると評価されて試合に使ってもらえなくなるのでは?」とも思っていました。日本では育成年代からそういう選手はあまり使われない印象があるからです。
しかし、そんな選手が試合や練習の大事な時にインパクトのあるプレーをしているのを見て驚きました。彼らはメリハリをつけるのがうまくて、力の入れどころ・抜きどころを知っているなと。ここで結果を出すんだというポイントを、育った環境から肌感覚で理解しているのだと思います。
このメリハリは、大事な場面で自分の最大の力を発揮する上で非常に大事な要素だと感じました。自分はどこで力を発揮するのか頭ではわかっているけれど、体に染み付いていないなと思いましたし、周りの評価を気にしすぎて自分主体でプレーできていなかったのではないかとさえ思えてきました。

モチベーションを自分で上げる

前回のコラム同様、育った環境や教育が大きく影響していると思いますが、そこからくる練習の取り組み方が、試合で最大の力を発揮する外国人選手の強みなのではないかと思います。
彼らと接することで、「主体的にプレーするとはどういうことか」を考えるきっかけになりました。
その点を突き詰めていくと、自分は試合や練習でミスなんか気にせず、開き直ったような状態でプレーできている時が、いいプレーができて楽しかったと思えることに気がつきました。その開き直ったような状態こそ、“自分に意識を集中させている状態”であり、“自分主体でプレーできて最大の力が発揮できる時”だと思いました。
逆にミスが続いたり、調子が悪い時には、だいたい周りの評価を気にしている自分がいたことにも気づきました。だから勝負がかかった時こそ、「自分がチームの中心で勝ちに導くんだ」と思い込み、開き直ったような状態をつくれるようにしようと思っています。
チームメイトのホセ・オマールと鈴木大輔
個人的には、日本人が勝負強くなるには、選手が主体的になれるような競争、指導、教育が必要だと思っています。日本人で勝負強いなと思う選手も、みんな主体的だと思います。
でも、その数は圧倒的に少ない。だから、練習の取り組み方が主体的になるように変えていくことが大事だと思います。恵まれて育つ日本人に「ハングリーになれ」というのは、ハードルが高いと思うからです。
これはスペイン人の国民性なのだと思いますが、彼らはサッカーだけではなく、いつも主体的に生きているなと感じます。良くも悪くもですが(笑)。
練習が終わると、チームメイト同士が「今から帰って、シエスタして、コーヒー飲んでビーチを散歩して、飯食って、明日の練習では今日よりもっとだな」などと、これからすることを言い合うときがあります。
最初は「なんでいちいち伝えてくるんだろう?」と思っていましたが、結構多くの選手が言い合っているのを見て、「これからの生活のモチベーションを自分で上げているんだろうな」と、勝手ながら思いました。そんな掛け合いをチームメイトとしてみると、確かに練習から頭が切り替わるような感覚がありました。

主体的に生きて、人生を豊かに

スペインではどんな仕事をしている人も本当に楽しそうに仕事をしています。子どもを連れて街を歩いている時に子どもがバスに反応すると、運転手さんがクラクションを鳴らして手を振ってくれます。
街の清掃の人やゴミ収集車に乗ったおじさんたちが、音楽をかけて歌いながら仕事していたりします。自信持ってカッコつけている感じが、見ていてカッコいいんです。
自分が人生の主人公で、それぞれの仕事でそうなりきっているように思いました。主体的に生きていて、何よりみんな楽しそうに見えました。
海外で生活をしていると、面倒臭いことや納得できないことが日々起こります。ですが、彼らのように自分が主人公だと思って主体的に生活してみると、毎日楽しくなってきました。少し大げさかもしれませんが、苦労すらも楽しめるようになってきたと思います。
主体的に生きることで、より楽しくなる。楽しくなることで、自分の力を発揮できる。
スペイン人の働き方から、周りの評価を気にして自分で勝手にストレスを溜めていた自身に気づくと同時に、大事な場面で力を発揮するため、そして人生を豊かにするために、自分に意識を集中して主体的に生きることが大事だと教えてもらいました。
(写真:なかしまだいすけ/アフロ)