「コンテンツ黄金時代」がやってくる
2018/3/5
ポストテキストの時代へ
今、コンテンツの世界に大きな変化が起きようとしている。
その原動力は、テクノロジーだ。
過去20年に渡り、テクノロジーはコンテンツ業界を再定義してきた。
1990年年代後半からのインターネットの普及に始まり、2000年代には検索エンジンとスマートフォンが浸透。2010年代にはフェイスブック、ツイッターなどのSNSがコンテンツ消費のあり方を大きく変えた。
そして2020年代に大きなインパクトをもたらすと予想されるのが、5G(第5世代移動通信システム)だ。
5Gになると、現在の4Gに比べて通信速度は100倍、容量は1000倍となり、映像などの大容量データをスピーディーかつ低コストで送れるようになる。Wi-Fi環境でなくとも、動画をサクサク見られるようになるのだ。
5Gに代表されるテクノロジーの進化は、コンテンツの世界において、主に3つの構造変化をもたらすだろう。
1つ目は、ポストテキスト時代の到来だ。
今までのインターネットはテキストが中心だった。しかし今後は、テキストの存在感が低下し、映像や音声が主役の座に躍り出る。
かつて、新聞、雑誌といった活字メディアから、テレビへと主役が交代していったように、インターネットの世界でも、映像へのパワーシフトが加速するのだ。
しかも、これまでの短尺な手軽な動画とは異なり、よりクオリティの高い本格的な動画が求められるようになる。
動画メディア「ONE MEDIA」を運営する明石ガクト社長は、2018年の初めから、「動画のサードウェーブ」の時代が始まっていると言う。
「サードウェーブの時代には、『本当にそれが動画コンテンツとして価値があるのか』『高品質で、本当に意味性のある動画なのか』『ユーザーにエンゲージメントされるような動画なのか』が問われるようになる」
コンテンツ大融合時代
もちろん、単純にテキストが没落し、映像一色の時代が来るわけではない。
コンテンツの創り手にとっても、受け手にとっても、表現の選択肢が増える。映像・活字・音声など多種多様なコンテンツを組み合わせやすくなるのだ。
これまでのコンテンツ業界は、新聞、雑誌、本、ラジオ、テレビ、映画、ネットなど分野ごとにサイロ化していた。それぞれのメディアごとに縦割りになっていた。
しかし今後は、各メディアの境界線が溶け、コンテンツ大融合時代がやってくるだろう。これが2つ目の構造変化だ。
「コンテンツ融合」によって、異業種からの参入も敷居が下がる。
すでに米国では、アマゾン、フェイスブック、アップルなどによるコンテンツ投資が急増しているが、日本でも、テクノロジー企業によるコンテンツ業界への参入が加速するだろう。
IT化、グローバル化ともっとも縁遠かったコンテンツ産業が、あらゆる意味でネット的になっていくのだ。
コンテンツのサービス化
3つ目の構造変化は、コンテンツのサービス化だ。
クリエーター・エージェンシー、コルクの佐渡島庸平社長は「これから、コンテンツがサービスに変わっていく。コンテンツそのものというより、関係性やコミュニティに対して、月額課金などの形でお金を払うようになる」と読む。
サービス化の流れは、かつてIT業界で起きたことと似ている。
以前はソフトウェアをパッケージで納入していた企業も、今ではクラウドを使ってSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)としてソフトウェアを提供するようになった。
以前はハードウェアやソフトウェアを単体で販売していた企業も、SI(システムインテグレーター)として、ハード、ソフト、コンサルティングを組み合わせて提供するようになった。
こうしたIT業界では随分前に起きたことが、遅ればせながら、コンテンツの世界にも波及しようとしているのだ。
コンテンツ黄金時代
これら3つの構造変化によって、コンテンツ業界の古い仕組みがいよいよ溶け始める。
ポストテキスト化の流れにより、活字メディアの地盤沈下に拍車がかかる。5G以後には、モバイル動画の存在感が高まり、テレビの衰退が本格化するだろう。
一方で新規参入のチャンスも生まれる。
「クリエイティブ×テクノロジー×ビジネス」の力を兼ね備えたプレイヤーにとっては、「コンテンツ黄金時代」がやってくる。
モバイル動画、コンテンツのサービス化、漫画のデジタル化、スポーツコンテンツ、グローバル展開、メディアミックスなど、コンテンツで稼ぐ選択肢はたくさんある。
仮想ライブ空間「SHOWROOM」の前田裕二社長は「5Gが普及すれば、モバイル動画によるマネタイズの可能性が広がる」と話す。
モバイル動画広告はもちろん、課金、有料アイテム販売など、収益化のチャンスは大きい。
堀江貴文氏が大きな期待をかけるのは、マンガだ。情報取得の効率がもっとも優れたマンガこそ、最も大きなポテンシャルがあると訴える。
さらに堀江氏は、コンテンツとしてのJリーグの成長性にも注目。「日本の環境はいいので、Jリーグはアジアの中心的な地位を取れる」とグローバル展開に期待を寄せる。
300億円稼ぐ男
世界に目を向ければ、すでに「コンテンツ黄金時代」は到来している。
動画の分野で、プラットフォームとしての地位を固めつつあるのが、YouTubeとネットフリックスだ。
YouTubeは10億人以上のユーザーを持つ動画プラットフォームに成長。とくに、Z世代と呼ばれる1990年代後半生まれ世代の心をがっちり掴んでいる。
全世界で1億人を超える有料会員を持つネットフリックスは、オリジナルコンテンツへの投資をさらに強化。2018年には80億ドルもの投資を計画している。
最近では、人気ドラマ「Glee/グリー」などで知られるカリスマプロデューサーのライアン・マーフィーを5年契約300億円で引き抜いて話題となった。
ネットフリックスに限らず、米国ではテック企業、テレビ局、通信企業などがコンテンツ分野に相次いで進出。各プレーヤーが多額の資金を注ぎ込むことにより、米国のコンテンツ業界は活況を呈している。コンテンツへの投資が盛り上がっているのは、中国も同様だ。
米中と同じように、日本のコンテンツ業界にも「コンテンツ黄金時代」は訪れるのか。コンテンツにお金が集まり、一流のクリエーター、プロデューサー、テクノロジスト、経営者が稼げる時代がやってくるのか。
その答えは、2020年以降にはっきりするだろう。
(バナー写真:iStrock/studiocasper、iStrock/fredmantel)
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