集団思考は停滞につながる

リーダーシップは魔法ではない。人と組織の行動を理解すれば、両方のパフォーマンスを最大化するアイデアが浮かぶはずだ。
実際、社員をどう管理し、動機づけ、育成するべきか、そしてリーダー自身の意思決定をどうすれば改善できるかについては、100年近く前から研究されてきた。
それでも、うまくいかないことはある。だから、組織心理学者のアダム・グラントは、全米の企業の引っ張りだこだ。
ペンシルバニア大学ウォートン校の教授で『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』や『ORIGINALS 誰もが「人と違うこと」ができる時代』(ともに邦訳:三笠書房)といったベストセラーの著者であるグラントに、優れたリーダーシップのための7つの秘訣を聞いた。
1. 集団思考は要注意
集団思考の危険性は、過去50年間の研究からよく知られている。仲間とうまくやっていくために社員が意見を戦わせなくなると、その職場から独創性が失われ、潜在的なリスクが看過され、破滅的な意思決定が下される。
そこでグラントは「ブレイン・ライティング」というプロセスを勧める。全員が独自のアイデアを考え、みんなが集まったときに初めてグループとして評価するのだ。
「集合知というのは、全員に独自の判断をさせたとき初めて得られるものだ」
2. 見えないインセンティブを重視
リーダーは、報酬や肩書きや特権といった外的動機づけの威力を過大評価しがちで、意義深い仕事や人間関係といった内的動機づけの力は軽視しがちだ。これは外的インプットのほうがわかりやすく、結果との関係性を見出しやすいからだ。
「固定給から成功報酬制に変えれば、インパクトはわかりやすい」と、グラントは言う。だが、社員の働きが会社のミッションに貢献していると褒めたたえても、それが社員のパフォーマンスにどんな効果を与えるか数値化するのは難しい。
「こういうことのインパクトをリーダーは見落としがちだ」
3. 高い生産性は伝染する
リーダーは、環境が社員の働きぶりに与える影響も見落としがちだ。もちろん才能は重要だが、スーパースターでも転職して仕事仲間ががらりと変われば成績が落ちるものだ。
生産的な同僚が隣に座っていると、パフォーマンスが平均10%アップするという研究もある。
4. 企業文化はほどほどに
スタートアップの場合は、破壊的なアイデアの勢いがあるから、同じような考え方の社員を雇うと結束が高まっていいかもしれない。だが、スケール化を図る段階になると、この雇用方法の有効性は怪しくなる。
「文化的な一致」は、波乱を起こさない「いい人」だらけの職場の代名詞のようなもの。これは停滞につながる。それよりも社員の「文化的貢献」を重視するべきだと、グラントは言う。
「『この人はうちの会社の文化に合っているだろうか』ではなく、『わが社の文化に欠けているものは何だろう。この人は、より豊かな文化を作る助けになるだろうか』と考えるべきだ」
5. おのれの判断を疑え
リーダーの人物評価を改善する方法は、じつはあまりわかっていない。たいていのリーダーは、経験を積んで地位が高くなれば、誰を雇ったり昇進させたりするかの判断もうまくなると考えている。
ところが、じつは「地位が高くなるほど、正しい判断をするのは難しくなる」と、グラントは言う。ゴマをする部下が増えて、本当に信頼できるのは誰なのか判断しにくくなるというのだ。
6. 社内で実験を尽くせ
最近は、さまざまな実験の場が大学から企業に移ってきた。企業側でそれを引き受けるのは、たいてい商品開発部やマーケティング部だ。同じことが人材管理にも起きるべきだと、グラントは考えている。
たとえば在宅勤務の是非を検討している企業は、さまざまな部署で、また条件をあれこれと変えて実験をしてみるべきだ。
「『じつは、これがいいアイデアかどうか社内でコンセンサスがないから、調べてみたいと思う』と、社員の理解を求めればいい。そうすれば、実験に参加する社員のモチベーションはぐっと高まるはずだ」
7. 直感よりエビデンスを重視
グラントくらい有名な研究者なら、自分の意思決定にも自信があるのだろうか。「そうでもない」と、グラントは言う。ただ面白いことに、授業がある学期中のほうが、いい意思決定ができるという。
「教壇に立って話をしていると、その内容がリアルになってくるんだ」と、グラントは言う。「それに自分の教えていることを自分が実践しなかったら、偽善みたいな気がするしね」
たとえば学期中にスタッフを雇うときは、事前に認識のバイアスをメモしておいて、面接中にそれが出ないように注意するのだという。また、研究チームと仕事をするときは、自分が話す前に全員のインプットを求めるという。そうしないと、みんな何となくグラントの言うことに賛成してしまうからだ。
ただし、この方法がつねに最善とは限らない。
「ある問題については、研究チームのメンバーより私のほうがずっと知識が多くて、自分の判断を信頼したほうがいいときもある」と、グラントは言う。不透明な要素があっても「通常は、エビデンスに従えばいい判断ができると確信している」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Leigh Buchanan/Editor-at-large, Inc. magazine、翻訳:藤原朝子、写真:bizvector/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.