【新・鈴木大輔】日本で扱いづらい選手=スペインで賢い選手

2018/3/2
サッカー日本代表歴を誇り、2016年からスペインリーグ2部のヒムナスティックでプレーするDF鈴木大輔。異国で感じる日本と欧州のさまざまな相違点、スペインの最先端の戦術論など、ピッチ内外についてつづる連載がスタート。

自分の受けた教育が全てではない

自分を成長させる。
新しい刺激の中で自分が何を感じ、どのように変わるのか。
そして何が変わらないのか――。
そんなことを考えてワクワクしてヨーロッパでサッカーをすると決め、チームが決まっていないフリーの状態から1週間の入団テストを経て、スペインのタラゴナに本拠地を置くGIMNASTIC DE TARRAGONA(ヒムナスティック・デ・タラゴナ)というスペインリーグ2部のチームに入団してから2年が経ちました。
好奇心と勢いからくる根拠のない自信だけでやっていた時期、壁にぶつかり自信がなくなりかけた時期、さらにそこからはい上がった時期があります。
今もそんなサイクルの繰り返しですが、そんな中で、ヨーロッパでプレーをする選手と日本人選手の人間性の違いがサッカーを通して見えてきました。受けてきた教育が違うので当たり前だと思いますが、自分が受けてきた教育が全てではないと思う、いいきっかけになりましたし、個人的に参考になる部分がありました。

自分はどれほど考えていないか

スペインに来て、試合やトレーニングの中で状況を判断する能力が足りないなと日々実感しています。
例えばトレーニングで、相手のプレッシャーを外して自分たちがどのようにボールを運んで攻めるのかを実際の試合形式で行う練習があります。
片方のチームは自分たちのフォーメーションを敷いて、もう片方のチームは対戦相手と同じフォーメーションにして相手と同じプレッシャーのかけ方をする。極端に言うと、“相手がハイプレスをかけてきて高い位置でボールを奪いにきたら、相手のDFラインの裏のスペースを使っていこう”みたいな約束事を作るといった練習です。
最初に監督から、相手のプレッシャーのかけ方と、それに対して自分たちはどのスペースを使ってどこから攻めるのかという、相手の攻略法みたいなことを説明してもらいます。そのトレーニングの中で、監督から教えられた通りのところにボールを出すと、「今のは違う。相手の動きをよく見て考えろ」とよく指摘されます。
“今、言われた通りのことをしましたけど……”と最初は思っていました。しかし、その練習の中で周りの選手たちがどんどん状況を理解し判断を変えているのを見て、自分がどれほど考えていないのかを痛感させられました。
相手と同じプレッシャーのかけ方をするチームの選手も、サプライズで違うことをやってきたりします。それでも、全く動じることなく判断をスパッと変えられる選手が多いと感じました。
自分はトレーニング中、仲間からよく指摘を受けました。日本ではおそらくサプライズで違うことをした選手の評価が下がるので、監督の言われた通りに相手役を務め、教えられた通りに攻めようとします。
しかしスペインではある程度結果が伴えば、最終的には選手の判断次第みたいなところがあります。自分は“監督が求めているプレーをする”のが目的になってしまって、“相手のプレッシャーを外す”という目的が失われがちになってしまっていました。
目的を見失わず、状況を理解し行動する。これは常に考えていないとできません。言われたことをこなすことに全力になっていた自分は、全く考えてプレーしていませんでした。

教育を考え直すきっかけに

またトレーニングの中で、どんなに小さなことでも大事のように意見を言い合います。
“そんなに小さいこと……”と思って最初はただうなずいていたのですが、だんだんミスが起こるたびに、自分のせいにされるように感じてきました。意見を言わない選手だと思われると、下に見られてしまうのです。
自分の意見を持つということも、やはり考えていないとできません。語学の問題もありますが、考える癖がついていないから反論することができませんでした。
日本では小さなことでいちいち意見を言ってくる選手は、扱いづらく、クセの強い選手だと思われる節があります。しかし同じ選手がスペインに行けば、賢い選手だというイメージです。しかも、そういう選手が生き残っていくと言われています。
日本にも主張の強い選手はたくさんいますし、スペインにも主張の弱い選手はいます。
ただ、スペインでは主張した選手が評価され、日本では主張する選手が評価されづらい。そういうことだと個人的に感じています。
日本にいる時は、自分では主張しているつもりでしたが、自分がどれだけ考えていなかったのか、意見を持っていなかったのか、周りを気にして行動していたかをスペインに来て感じています。もちろんこれらは自分の勝手な視点であって、まだ2年しかいないですし、自分が所属しているのは2部のチームなので“スペインはこうだ”と決めつけることはできないと思います。
しかし、これらの経験は自分が受けてきた教育を考え直すきっかけになり、それにより自分はどういう性格になっているのかを気づくことができたので、良い経験だと思っています。
まだまだ気づきを与えてくれる、苦しい経験をすることに今もワクワクしています。
*本連載は隔週金曜日に掲載予定です。
(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)