【求人掲載】ドローンで世界の空を制す

2018/2/26
ドローンの産業用サービスでグローバルトップを狙う──。Terra Droneを率いる48歳のアントレプレナー、徳重徹の目線はあくまでも高い。ドローンの登場は「空の産業革命」とも言われるなか、実際のフライトを目にする機会は少なく、実感が湧きにくい。だが徳重は、「日本は産業用ドローンの先進国」と言い切る。ドローン産業の現状と、日本発のグローバル・メガベンチャーTerra Drone(テラドローン)が描く未来を語ってもらった。

「風が吹けば豚でも飛べる」

どんなに美しい花も、種を運んでくれる風や動物たちに出会わなければ存続は難しい。ビジネスも似ていると思うんです。世界を席巻できるかどうかは、いい「風」をつかめるか、いい人材と出会えるかで決まります。
起業家としての私の最大の後悔は、インターネットブームの風に乗れなかったこと。2000年ごろ、MBAの取得を目指して米国の大学院で学んでいました。なぜあの風をつかもうとしなかったのか、強く悔やまれます。
シャオミのレイ・ジュン、スペースXのイーロン・マスクと同い年で、私は48歳。彼らが何を考え、どう行動しているのかは、最高のベンチマークになります。
留学時代の悔しさもあって、レイが「風が吹けば豚でも飛べる」と言うのには、深く頷くばかりです。
ドローンを豚とは思っていませんが、間違いなく追い風が吹いている。それも、強く。これを逃すまいと、2016年3月に立ち上げたのがテラドローンです。

ドローン機体は主戦場にあらず

世界のドローン市場は現在の4,500億円から2025年には15兆円になるとも試算されています。
一口にドローンと言っても、活用できる領域は数え切れないほどあります。何でもできるからこそ、かえって難しい面もある。事業ドメインをどこに定めるかが戦略的に非常に重要なわけです。
ドローンと聞くと、機体そのものの開発をイメージする方が多いようです。ところが、その周辺領域にこそビジネスチャンスはあります。
ハードウェア開発は、規模を拡大させるのも容易ではありません。私はドローン以前からテラモーターズを起業して、アジアで電動バイクや三輪車を開発から手がけてきましたので、その苦労は身にしみて理解しています。
バッテリーやモーターなど技術の理解、アジアでのローカライズしたオペレーションの作り込みなど、ドローン事業に欠かせない財産は保有しているものの、ドローン機体は主戦場ではないと判断。
それに、もう中国のDJI社が世界市場を席巻していました。DJI社は2006年には20人の社員でしたが、今では従業員1.1万人、売り上げ2,500億円程度になっています。

産業用途のプラットフォームサービスに商機

立ち上げ後6カ月で世界中に足を運んで市場、競合、顧客を見て回り、直に一次情報を集めました。どうやら土木測量やインフラ点検の産業分野では、顧客ニーズは高いものの、まだまだリーダーと目される企業が不在だとわかりました。
そこでテラドローンは、産業用途でのプラットフォームサービスを中心に勝負することに決めたのです。
大手ゼネコンなどからの依頼を受けてドローンで測量や点検を実施するほか、測量を効率化するソフトウェアの開発、そしてドローン運行管理システム(UTM)に注力しています。
現時点では法律の制約もあり、目視で地上から操縦することがほとんどですが、近い将来には自動操縦が当たり前になることを見越しています。

建設業の人手不足解消のカギを握る

都市部でドローンを目にする機会は非常に少ないので、これからドローンが活躍すると聞いてもピンとこない人もいるでしょう。
しかし建設現場や、人里離れた山奥では、もう当たり前にドローンを活用し始めている。言い換えれば、人手が足りないところ、人が立ち入るのが困難な場所です。
この需要に応えるように、テラドローンの国内拠点は2年ほどで全国7カ所にもなっています。会社設立1年でオーストラリアにも法人を立ち上げました。
例えば、送電線、橋、道路などの点検、投資判断のために太陽光パネルの日照時間調査。オーストラリアでは鉄道、パイプラインの点検にも活用しています。おもにインフラ設備なので、大手企業を相手のビジネスです。
さらに日本でのドローン活用を後押ししているのが、国土交通省が主導する「i-construction」です。ICTを活用して建設現場の効率化を図ろうというこの取り組みは、かけ声だけでなく義務化も視野に入れたもの。
これまでの建設業は3Kのイメージが根強く、実際、全業種平均と比べて死亡事故は多いし、待遇もよくない。新規着工だけでなく、橋やトンネルなど老朽化したインフラへの対応が日本の大きな課題であるにもかかわらず、深刻な担い手不足の状態です。
効率化が進めば、画期的な解決につながるわけですが、そのブレイクスルーはドローンと言ってもいいでしょう。国土交通省の資料を見ても、ドローンを前提に話が進んでいるのです。
国土交通省の資料より

実は日本はドローン先進国

日本では、首相官邸への墜落事件などが、ドローンに関する法整備を急がせました。グレーなものに、まともな企業は手を出しませんでした。
規制ができたことで、最近では、大手商社、通信キャリア、大手電機メーカーなど大企業もこぞって進出してきています。
日本の航空法では、機体重量200グラム以上のドローンを「無人航空機」として規定し、人口密集地などでの飛行を制限しています。
しかし、安全対策や操縦技能を確保していれば、飛行許可が与えられるように規定されているうえ、業務用途での申請であれば、非常に協力的な対応がなされています。
世界各国、調査していますが、ホビーでなく産業用という意味では、日本は規制がゆるい国トップ3に入ります。
一方、アメリカでは、規制緩和が遅れたため、産業用ドローンは今やっと立ち上がろうとしている状況です。
日本は法律面を見ても、官主導の活用促進を見ても、世界トップクラスのドローン先進国だと言っていい。日本で得た豊富な知見は、海外展開でのアドバンテージになるわけです。

「ゼロイチ」ではなく「ゼロから0.5」

0から1を生み出せるかどうかを見極めるのは、なかなか難しい。「これは行ける」という判断は、経験を積み重ねることでしか身につかない嗅覚が、どうしても必要だと思うんです。
私は、シリコンバレーで数多くのスタートアップを支援してきました。現在のテラドローンにおいては、「モノになる0」を見極めるのは、シニア・アントレプレナーである私の仕事です。
でも、0から後のことは、できるだけ早い段階で任せたい気持ちが強い。真剣にグローバルメガベンチャーを目指すのであれば、そうしないといけない。
立ち上がりの柔らかい状態から、現場でソリューションを作り込み、オペレーションに落とし込む。そして通常のベンチャーでは難しい規模で、グローバルにスケールさせるところまで、各人の裁量で進めてもらいたい。
イメージとしては0.5から後のフェーズを若手優秀人材に牽引してほしいんです。
ただ、覚悟して欲しいことがある。それは、ほぼ確実に大きな失敗を経験することになるということです。私は失敗こそが経験、失敗が成長に直結すると考えて疑いません。
よく「失敗を恐れるな」とか「実力の少し上に挑戦すべきだ」と言いますが、テラドローンでは、日本の常識ではありえない無茶なスピードで圧倒的なスケールを目指しているので、実力の2つぐらい上のステージへ飛び込むことになります。
そうなると、失敗しないほうがおかしいし(笑)、乗り越えられない可能性もある。失敗をいとわないメンタルの持ち主でないと、テラドローンは苦痛かもしれませんが、むしろ意気に感じる方には、積極的に挑戦の機会を提供します。
入社して数週間後には海外へ行って、現地の拠点を立ち上げてもらおうかとも考えています。今回は製造業でないのと世界共通の課題へのサービス提供なので、顧客価値が作り込まれれば、一気にマルチプルに世界展開していくことを考え準備しています。

無形の財産「日本人」をアップデート

ニューヨーク、タイムズスクエアの華やかなサインは、かつては日本企業ばかりが並んでいました。
今では日本企業の存在感が薄くなってしまい、通りがかるたびに、私は悔しい気持ちになるんです。世界の生活を豊かにし、グローバルで尊敬を集めてきた企業は日本人の誇りですから。
世界、特にアジアで感じるのは、日本人のブランド力。これは先人たちが築いて受け継いだ、無形の財産でしょう。
日本人だというだけで、「優秀で信頼の置ける相手」だというイメージを持って接してくれるなんて、ビジネスでこれほどのアドバンテージはない。
私たちは挑戦を続けて、尊敬され、信頼されるブランド「日本人」をアップデートし、未来のアントレプレナーに引き継いでいく責任があります。
こんな話をすると、徳重は精神論や夢想で成り立っているという印象を与えるかもしれません。
でも、テラモーターズの経験もあって、勢いだけではダメだということも私はよく知っています。冷静に、緻密に、非常にシビアなオペレーションをしてきて、その結果はテラモーターズの業績として表れています。
ビジネスの立ち上げでは、特に「順番」を間違えてはいけない。そして、どこでアクセルを踏み込むのか、この判断がとても重要です。
いまはアクセルの時。産業用ドローンのサービスを、世界で一気に拡大したい。そして、面白い世界競争を繰り広げながら、世界が抱える課題を日本がリードして解決していきたい。
メガベンチャーの一員として、個人の欲求だけでなく、社会の要求に応えたい志を持つ人とともに、私は挑んでいきたいのです。
(執筆:加藤学宏 撮影:稲垣純也 デザイン:九喜洋介 編集:久川桃子)