【中竹竜二】勝つ組織のリーダーが「勝て」と命じない理由

2018/2/24
ラグビー日本代表が優勝候補の南アフリカを破るなど、歴史的快挙を成し遂げた2015年ワールドカップ。
アメリカとの最終戦を迎える直前、日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクターを務める中竹竜二は、指揮官にずっと聞きたかったことをたずねた。
「エディーさんはこの4年間で、何を一番学びましたか?」
オーストラリア人のヘッドコーチ、エディー・ジョーンズは胸を張って答えた。
「俺はこの4年間、誰よりも学んだ。だから、俺たちは勝てたんだ」
(撮影:是枝右恭)
名将の姿を4年間そばで見てきた中竹は、改めて痛感した。
「日本のすべてのコーチは、まだまだ学ぶ量が少なすぎると感じました。コーチが学ぶ重要性がなかなか定着していませんが、ぜひ理解してほしい」
勝つチームには組織的文化がある
中竹は2006年、清宮克幸の後を受けて早稲田大学ラグビー部の監督に就任すると、翌年から全国大学選手権で連覇を果たした。
2010年に退任して以降は日本ラグビー協会で初代コーチングディレクターに就任して“コーチのコーチ”を務める一方、自身の会社「チームボックス」を通じてビジネスリーダーの育成トレーニングをしている。
ビジネスリーダーを育てるスポーツマネジメント活用法
「ウイニングカルチャーといって、勝つチームは組織の文化を持っています。スポーツはビジネスのフィールドと似ていて、企業でも『ビジョン、ミッションが大事』と言うように、強いチームはビジョン、ミッションを明確に掲げています」
「本当に世界で勝っているチームは『勝て、勝て』と言わないし、勝ちを強調したチームが勝てないのは事実です。ビジネスでもそうで、『売り上げを上げろ』としか言わないチームは、売り上げがなかなか上がりません」
スポーツで言えば、試合で勝利を目指すのは万人にとって当然のことだ。それなのに指導者がわざわざ「勝て」と強調するのは、選手にとって逆作用になると中竹は指摘する。
「スポーツをするのに『勝て』と言うのは、『明日、天気にしろよ』と言うのと同じで、コントロールが利かないことです。それなのに、あたかも正しいことを言うように『勝て』と言うのは、プレッシャーをかけているだけです。でも多くの指導者は、当たり前のことを言って満足している」
「コーチにとって何が大事かと言えば、どれだけチームのパフォーマンスが上がるか。そう考えたら、『ベストを尽くせ』の方が絶対にいいわけです」
中竹は自身のミッションについて、「カリスマ的なリーダーではなく、理論に基づき、世界で勝てるリーダーを育てること」と掲げている。世界で勝てるリーダーにとって不可欠なのが、謙虚に学び続ける姿勢だ。
人間教育をしないと勝てない
コーチへのコーチングの重要性に気づき、成果を出すようになった好例として、ラグビーのニュージーランド代表が挙げられる。
“オールブラックス”は1990年代後半に低迷期を迎え、2004年に就任したグラハム・ヘンリーの下で抜本的な改革を行った。そのキーワードが「Better people make better All Blacks」だ。中竹が説明する。
「周囲から『オールブラックスは強い』と言われているのに、W杯本番で結果が出ないことが長らく続きました。そこでオールブラックスは、『人間教育をしないと勝てない』というところに立ち戻った。それをやるには、指導者も学ばないといけないと気づいたわけです」
オールブラックスは、「歴史上、最も成功したスポーツチーム」とされる。125年の歴史で、4分の3近い試合で勝利を収めてきた。「Better people make better All Blacks」で抜本的改革を行って以降、その強さに磨きがかかったと中竹は見ている。
「オールブラックスの圧倒的な強さの裏には、文化や行動規範がちゃんとあります。例えばあいさつをきちんとする、使ったロッカールームを来たときより美しくして帰る。日本が大事にしてきたことを、本当にトップレベルの選手たちがやっている。他のチームだけでなく、ビジネスパーソンもびっくりするくらいの自主性と人格形成を行っています」
翻って日本のスポーツチームでは、あいさつ、礼儀などの行動規範が大切にされてきた一方、勝利至上主義があまりにも幅をきかせてきた。その一因は、コーチへのコーチングがおろそかにされてきたからだと中竹は考えている。
「スポーツをやっている以上、勝利を目指さないのは失礼な話ですが、勝利はあくまで一つの目印です。本当の目的とは違います。勝つことだけが目的になると、勝利至上主義になりすぎて『勝つためにズルでもやる』となりかねません」
「そもそもスポーツは余暇から始まったことで、人間の感情や興奮の探求だったことを考えると、スポーツや勝利を通じて何かを得ることが大切です。さらに言えば、『勝利至上主義だけでやっているチームは勝てない』と、科学として明確になっている。そういうことを多くの指導者がちゃんと学べば、勝利至上主義の弊害をはっきりわかると思います。そういう場をつくっていくのが、我々の役目です」
(提供:スポーツコーチングJapan)
日本のスポーツコーチングを先に進めるため、中竹が中心になって設立したのが「スポーツコーチングJapan」という一般社団法人だ。3月3日に行われる第1回のカンファレンスでは、スポーツコーチだけでなく、岡島悦子氏(プロノバ代表取締役社長)や高濱正伸氏(花まる学習会代表)などを招いてビジネス、教育などの知見からもコーチングの学びを深めていく。
「日本人は、根本的には学ぶのが得意だと思います。指導者へのコーチングの重要性がちゃんと浸透すれば、もっと活躍するコーチ、選手が出てくると思います」
2019年にはラグビーW杯、2020年にはオリンピックとパラリンピックが日本で開催される。そうしたビッグイベントで勝利することはもちろん、日本のスポーツ文化を一層成熟させていくためには、コーチングのレベルを上げていくことが不可欠だ。(一部敬称略)
(撮影:中島大輔)