[東京 14日 ロイター] - 14日の外国為替市場で対ドルの円相場<JPY=>が106円台へ急伸した。最近の世界的な株価急落で一段の市場変動リスクに過敏になった参加者が、昨年来積み上げてきた大規模な円の売り仕掛けを縮小し始めたことが主導しているもようだ。ドルの先安観が強いため、ドルの下値でも個人など国内勢の押し目買いが入りづらく、さらなる円高観測を醸成している。

<春節休暇中の市場動揺を警戒か>

ドルはこの日、一時106.84円まで下落。当面の下値めどだった昨年安値をあっけなく下抜け、2016年11月14日以来、1年3カ月ぶり円高水準をつけた。テクニカル的には105円台まで主要な節目がない状況で、市場では一段安の可能性を警戒する声が上がっている。

市場筋によると、ここ数日の円高局面で動きが目立ったのはアジア勢。米国株をはじめとして世界的に市場が不安定化する中、中国の春節(旧正月)休暇を前に、しばらく市場を離れる投機筋が、円売りや米国債売りなどの持ち高を手じまう調整売買を加速させているという。

1月は日銀の国債買いオペ減額をきっかけとする思惑が海外勢に広がって上昇圧力がかかった円相場だが、実は世界の投機筋の持ち高は、昨年来大幅な売り越しだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)が毎週集計しているIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組状況によると、円は16年末の米大統領選後から売り越しへ転じたまま。しかも、安倍首相が解散・総選挙に踏み切った後の昨年11月には4年ぶり高水準まで膨らんでいた。

その巨額な円売りポジションを抱える投機筋が「最近の世界的な株価急落に動揺し、とにかくリスク量を落とそうと、様々な保有ポジションを圧縮している」(外銀幹部)のだという。

実際、為替市場では米国株が急落を始めた今月2日以降、英ポンド<GBP=D3>やユーロ<EUR=>など最近買われていた通貨の売り戻しも目立つ。IMMによると、そのユーロの買い持ちは過去最大規模で、ポンド買いも3年半ぶり高水準だった。

<波乱リスク収束せず、身構える市場>

持ち高調整のきっかけとなった世界的な株安。震源地米国の主要指数はいったん下げ止まったようにも見えるが、シカゴ・オプション取引所(CBOE)が算出するスキュー指数<.SKEWX>は12日、年初来最高水準へ一気に急上昇した。S&P500のオプション価格の歪みを表した同指数は「ブラックスワン指数」とも呼ばれ、不測の事態発生に備えるようなオプションの売買が増えると、指数が上昇する仕組みだ。

通貨オプション市場にも警戒ムードが見て取れる。ロイターデータによると、ドル/円のプットオプションとコールオプションの売買の傾きを示すリスクリバーサルは、1カ月物<JPY1MRR=>の円コールオーバー幅が「ロシアゲート」問題に揺れた昨年5月以来の水準へ到達。当面の円高進行の可能性をヘッジしようとする取引が活発に行われている様がうかがえる。

<個人も急速な円高に追いつけず>

円高進行時にドルを買い向かうことの多い日本の個人投資家も、急速な円高に対応できずにいる。一部の短期の参加者はドル売りで参戦しているが、今は様子見が大勢を占めるという。「この2日間の(ドルの)下げが速いので、今の段階では様子を見ている。106円台にはチャート上の節目もないので、105円台にならないとまとまった買いは出てこないだろう」(上田ハーローの外貨保証金事業部長、山内俊哉氏)との見方が出ていた。

112円近辺から水準を切り下げていく段階で、個人投資家のドル買いポジションが積み上がったとの指摘もある。「110円、109円と節目を割れるタイミングで買いが入っていた。これ以上下がっても買い余力がなく、手が出せない人もいる」(外為アナリスト)という。

すでにポジションが整理される動きも一部でみえており、106.80円のところに損失確定のドル売りオーダーが観測される。

目先の動きを占う上で警戒されているのが、きょうこの後の米1月消費者物価指数(CPI)だ。市場予想を上回り、インフレ加速が意識されれば、米長期金利が上昇し、株価が再び不安定化する可能性があるためだ。「金利差を見ればドルも買いやすいが、もう少し市場が落ち着くのを待ちたい」(国内金融機関)との声が出ている。

(基太村真司 杉山健太郎 編集 橋本浩)