業界別、注目のスタートアップ

起業家に大きなチャンスを提供する業界は、次のどれかに該当することが多い。細分化が高度に進んでいるか、時代遅れになっているか、あるいは概して評判がよろしくないかだ。時には、この3つのすべてに当てはまる業界もある。
その点において、ここにあげた5つの業界は今後大きな変革が期待できるし、すでにその確かな兆候もある。革新的で資金力もある複数のスタートアップがそうした状況に気づき、現状を変えるための製品やサービスを擁して業界に参入しようとしているのだ。
本記事では今年注目すべき5つの業界と、そこで破壊的イノベーションを起こそうとしているスタートアップを紹介しよう。

1. 保険

誰もが保険を必要としているが、ワクワクしながら保険に入る人はまずいない。アメリカの健康保険業界は米国顧客満足度指数でいつも最下位に近い位置にいるし、生命保険会社や損害保険会社も顧客の気分を高揚させる能力で知られているとは言いがたい。
そして、その理由の少なくとも一部はわかりにくい保険証券の記述や顧客からの信頼度の低さにある。
だが、新たなスタートアップの一団がこの問題を解決しようと試みている。ユーザー・フレンドリーなアプリベースのインターフェースを用いて、理解しやすい健康保険証券を提供する「オスカー(Oscar)」は2013年以降、今日までに7億2700万ドルの資金を調達したと報じられている。
ただ、同社はまだ利益を出すには到っていない。さらには、迷走する「オバマケアの見直し」のあおりを受けて、不透明な先行きに直面させられている。
いっぽう、損害保険のスタートアップ「レモネード(Lemonade)」が目指すのは、保険請求の拒絶によって金銭的な利益を得るのではない新しいビジネスモデルを用いて、この業界ではかつてなかったレベルの信頼を獲得することだ。
同社が主なターゲットとしているのは、アメリカで不動産を賃貸する人々だ。彼らは約60%が保険に未加入で、潜在的な市場規模は6500万人に近いと考えられている。
保険は当局の規制が厳しく、大きな資本も必要になるため、参入の障壁は高い。だが、そこにチャンスがあることは確かだ。

2. ブライダル

市場調査会社のIBISワールドによると、アメリカのブライダル業界は2017年、前年の720億ドル規模から760億ドル規模に成長した。しかしこの業界では、ある興味深いトレンドが顕在化しつつある。
アメリカ人がブライダルプランナーに支払う金額は5年前より減少傾向にあり、ケータリング、バーテンダー、DJ、その他の関連業者を顧客が自分で選んで、結婚式をカスタマイズするようになっているのだ。
こうしたイベントの準備には、相当な手間と時間がかかる。そして結婚をするのは比較的若く、テクノロジーを使いこなせる層であることを考え合わせれば、この業界で新しいツールとサービスを迎える機が熟していることは明らかだ。
既存のブライダル関連企業も、すでにプランニングのさまざまな側面を統合する試みを始めている。
「ザ・ノット(The Knot)」のアプリは30万もの関連業者を網羅しており、ユーザーはそれらの業者にアプリ内で簡単にアクセスし、相談して予約をすることができる。また別のスタートアップ「ジョイ(Joy)」は招待客リストの管理を支援して、まだ返事を出していない招待客に返信を促す通知を送ってくれる。
アメリカでは年間200万件の結婚式が開かれていることを考えると、他のスタートアップにも21世紀のブライダル業界を支える存在になるチャンスはある。

3. 学校教育

学校ではプリントや教科書、プロジェクターがあまり使われなくなっており、スタートアップが教育者向けの新しいツールを生み出すチャンスは増えている。
CBインサイツによると、2017年にベンチャーキャピタルが教育テック・スタートアップに提供した資金の総額は30億ドルに迫ったというが、それも驚きではない。
教育プロセスの別の側面では、すでに複数のスタートアップが変革の後押しを始めている。これまでに5700万ドルの資金を確保したと報じられている「スクーロジー(Schoology)」は教師、親、生徒が相互に勉強の内容をチェックして、コミュニケーションをとるためのプラットフォームを作りあげた。
「ニューゼラ(Newsela)」は人工知能を使って、ニュース記事を各年齢に適した読解力学習の教材に変換するサービスを提供している。2012年に設立された同社のサービスは、すでにアメリカの学校の4分の3で利用されている。
また、カンニングの防止に焦点を当てつつ、オンラインテストの実施を支援するスタートアップ「イグザミティ(Examity)」は、2017年に2100万ドルの資金調達ラウンドを完了。これまでに100校以上の大学と契約した。

4. 健康診断

患者の診断に関して、医師たちは概して優れた仕事をしている。だが、人工知能の進化によって、診断の精度はこれまで以上に高まるかもしれない。
2017年、スタンフォード大学の研究者が開発したマシンビジョン・システムは、癌性のほくろと非癌性のものを90%以上の精度で識別し、人間の皮膚科専門医の識別精度を上回ってみせた。これも、AIの領域で今後何が起こるのかを示すひとつの兆しと言えるだろう。
リキッドバイオプシーを専門とするスタートアップ「フリーノーム(Freenome)」は血液サンプルだけを用いて、体内に癌があるかどうかだけではなく、その場所と種類も識別できる技術に取り組んでおり、現在臨床試験の実施を目指している。
バイオテック大手のイルミナからスピンアウトした「グレイル(Grail)」は独自の癌の早期発見システムを開発するため、2017年、アマゾンやジョンソン&ジョンソンなどを含む出資者から9億ドルの資金を調達した。
また、「アーテリーズ(Arterys)」というスタートアップはMRI画像の読影と異常の発見に機械学習を応用し、クラウドベースの診断プラットフォームとしては初めてFDA(米国食品医薬品局)の認可を得た会社になった。
もちろん、こうした技術の進歩によって、医師たちがすぐにも職を失うということはない。これらのスタートアップの多くは、自分たちの製品を医師に取って代わるものではなく、臨床医を補助するものと位置づけている。

5. 法律

弁護士への相談は高くつく。だが、人工知能の発達のおかげでいずれはそうでもなくなるかもしれない。AIが複雑な言語を処理して理解する能力はますます向上しつつあり、それにつれて弁護士の仕事の効率化が進んでいるからだ。
2013年に設立され、2017年に1200万ドルの資金調達ラウンドを完了した「ケース・テクスト(CaseText)」は、弁論趣意書を読ませるとほんの数秒で関連性の高い過去の訴訟事例を提示してくれるソフトウェアを開発した。
ほかにも「ロー・ギークス(LawGeex)」をはじめとする複数の会社が、契約書を精査し、欠けている情報や誤解を招きかねない文言など問題点を指摘できるプラットフォームを提供している。
具体的な案件について法律家の助言を求めたいとき、チャットボットに質問できる時代がまもなく訪れるとしても、驚くにはあたらないということだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:nimis69/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.