オンデマンドでストリーミング

フィットネス系テクノロジーのスタートアップが、ユーザーの自宅リビングにエクササイズのレッスンをストリーミングするという試みを始める。TVスクリーンや関連機器は要らない。必要なのは「鏡」だ。
「ミラー(Mirror)」というぴったりの名前を冠したスタートアップが開発したのは、全身が映る大きな鏡のようなレスポンシブ・デバイスだ。そこに、個人のニーズや好みに応じてヨガやピラティス、有酸素運動、筋トレ、ボクシングなどさまざまなエクササイズがオンデマンドでストリーミングされる。
このスマートミラーには運動する本人だけでなく、インストラクターの姿、そして(グループレッスンを受けている場合は)ほかの受講者たちも映し出されるという。
ミラーは1300万ドルの資金を調達して2月6日に正式にローンチした。創業者は、ニューヨークの高級ジム「リファイン・メソッド(Refine Method)」を立ち上げたブリン・パットナムだ。パットナムは『Inc.』が選ぶ30歳以下の起業家「30アンダー30」を2011年に受賞した人物だ。
「私の場合、自宅でワークアウトすることはいつも妥協を意味してきた。楽しさと効果は薄れ、達成感もあまりない」と、パットナムは述べる。「だから、そういった妥協なく人々がワークアウトに取り組めるようになれば、人々が生涯をどう生きるかを本当に変えることになると思う」
ワークアウトは個人のニーズや好みに合わせることができ、それは単にエクササイズタイプを選ぶというだけではないとパットナムは言う。
ミラーは1対1のトレーニングとグループレッスンの両方を提供するが、その体験はユーザーのフィードバックとバイオメトリクス情報をもとに「リアルタイムでパーソナライズ」されたものになるという。
システムの仕組みを詳しく教えてほしいと尋ねたが、デバイスは液晶ディスプレイとサラウンド音響スピーカー、カメラ、マイクが搭載された全身が映る鏡だということ以外、パットナムは明言を避けた。

バレリーナの経歴から生まれた発想

スマートミラーと聞くとかなり斬新なもののようだが、驚くほど単純な技術でも可能だ。たとえば、マジックミラーとモニター、ソフトウェアを走らせる超小型PCラズベリーパイがあれば自作できるのだ。
パットナムが2015年に自宅キッチンで組み立てた最初のプロトタイプがまさにそうだった。
鏡を使ったエクササイズ用デバイスという発想は、ニューヨーク・シティ・バレエ団のバレリーナだったパットナムの経歴から生まれた。
26歳の時にバレエシューズを脱いで引退すると、パットナムは高負荷のワークアウトを提供するリファイン・メソッドという会社を立ち上げた。同社は、ニューヨーク市内の各地で少人数制のレッスンを行っている。
パットナムは2015年にリファイン・メソッドの店舗を改装した際、新しいクラスを始め、ハイテクマシンを導入し、イケアで購入したごく普通の鏡を設置した。
その後、改装後に何がよくなったかをジムメンバーに尋ねたところ、鏡がとても気に入ったという答えが返ってきた。パットナムによれば、ダンサーにとって鏡は力の源になり得るのだという。
「幼いころからダンスをしていると、稽古をしながら鏡を見て成長するということになる」とパットナムは言う。「鏡は、自分に与えられる素晴らしいフィードバックのようなもの。鏡があれば、自分自身と自分の動きを簡単に確認できる」
そこでパットナムは試作品を作り、2016年11月に最初のシードラウンドを行って資金を調達した。ミラーは、現在15名で運営されている。フィットネスクラスのレッスンは、ニューヨーク市内8件の高級エクササイズスタジオのインストラクターが行い、映像制作スタジオで撮影される。

フィットネスとテクノロジーの組み合わせ

市場調査会社ミンテルのヘルス・アンド・ウェルネス分野シニアアナリスト、マリッサ・ギルバートによれば、テクノロジーと一体化したミラーは製品化に近づいているものの、これまでのプロジェクトはほとんどが個人の自宅内で利用され、音声制御技術を使い、ニュースを知らせたりするものだという。
ただし、スマートミラーは小売業界での応用も可能だ。アマゾンは先ごろ、バーチャルな洋服を試着できる「スマートミラー」の特許を出願した。
ミラーのようなフィットネスとテクノロジーを組み合わせて自宅でエクササイズクラスを体験できるプロダクトは増える傾向にある。
ペロトン(Peloton)は2018年のCESで、ランニングとクロス・トレーニングのクラスをストリーミング視聴できる4000ドルのトレッドミルを披露した。フライホイール・スポーツ(Flywheel Sports)は2017年5月、ストリーミングコンテンツ付きの自宅用バイクを売り出した。
ワイドラン(Widerun)とヴァーズーム(Virzoom)はそれぞれ、仮想現実(VR)コンテンツを見ながら走れるフィットネスバイクを販売している。
ミンテルの調査によると、フィットネス・コンテンツの無料ストリーミングに関心を持っていると答えた人は成人の36%に上る。自宅にいながら利用できるストリーミング・サービスは増えており、ミラーはビジュアルとワークアウトの内容面で他と競合していかなくてはならない。
パットナムは具体的な料金プランについては説明を避けたが、ミラーは「2018年春ごろ」から利用できるようになると述べた。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Michelle Cheng/Editorial assistant, Inc.com、翻訳:遠藤康子/ガリレオ、写真:fizkes/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.