若手研究者の知られざるキャリアパス

2018/2/1
NewsPicksは、J-WAVE「STEP ONE」(毎週月~木 9:00~13:00)と連携した企画「PICK ONE」(毎週月~木 11:10~11:20)をスタートしました。
1日は、東京工業大学 准教授西田 亮介(にしだ・りょうすけ)さんが出演。
西田さんは、社会学者で、東京工業大学の准教授でいらっしゃいます。今日は「【京大iPS論文捏造】非正規雇用多く組織基盤脆弱 背景に根深い研究者事情」(産経WEST)を題材に、日本の大学の研究者の実態についてお話いただきました。
POINT 1:
論文不正は誰の問題?
今年1月、iPS細胞の研究でノーベル賞を受章した山中伸弥教授が所長を務める「京都大学iPS細胞研究所」で、若手助教が、論文中のデータを捏造したり改ざんしたりしていたことが明らかになった。論文は撤回される方針だが、一方で、日本の研究組織が抱える根深い問題を浮き彫りにもしているという指摘もある。山中所長によると「研究所の約300人のスタッフのうち、非正規雇用者が9割を占める」というのだ。
「この問題は、不正をした個人の問題のようにも見えますが、その背景には、大学や研究者のキャリアの問題があると思います。そして、それは日本の科学技術政策にも影響を及ぼしているのではないかと思い、取り上げました」(西田さん)
POINT 2:
プレッシャーにさらされる研究者
「研究者の問題だけでないのですが、日本の労働契約法では、有期雇用ができるのは原則最長10年となっているんです。10年経つと無期雇用に転換しなければいけません。さらに、理工系のプロジェクトベースの研究者は任期が短く、1年、3年、5年が多い。
研究不正が明らかになれば研究者生命は終わります。しかし、理工系の場合は研究する場所が必要なので、任期切れして職場がなくなると、実験ができなくなる、つまり研究者生命が絶たれてしまうんです」(西田さん)
「次の就職に焦ったり、結果を出さなきゃいけないから研究に身が入らなかったり、ということがありそうですね」(サッシャさん)
「その通りです。僕は文系の研究者ですが、僕自身も任期付きの職です。
ちなみに、僕たちは『研究業績』『教員の場合は教育実績』『獲得した予算』で評価されます。『研究業績』というのは、論文が常に出ていること、学会報告をしていること、そしてそれが評価されていること。それで評価されます。
例えば任期3年の場合だと、1年目は慣れるのに必死で、2年目は成果を出すので必死、3年目に任期は切れるのでなかなか大変ですよね。
もちろん任期を踏まえて早めに就職活動しますが、研究者ポストは一つの公募に対して、倍率が数十倍、多い時は数百倍になることもあり、若手の研究者の多くは常にこういうプレッシャーにさらされています」(西田さん)
POINT 3:
研究者を追い込む仕組みに課題
「タイムズ・ハイアー・エデュケーションという世界の大学ランキングがあるのですが、トップ100に入っている日本の大学は東京大学と京都大学だけで、その順位も下がり続けています。
一方、文部科学省は、大学の基礎となる予算を毎年1%ずつ削り、期限付きが多くを占めるプロジェクトベースの予算を増やす方針をとっていますが、研究者にとってこれは不安定な研究費が増えているということを意味します」(西田さん)
「そうするメリットは競争なんでしょうか」(サッシャさん)
「そうです。国は、競争こそが研究と研究者を活性化させると信じているんですね。大学のランキングは下がっているのに」(西田さん)
「ノーベル賞を受賞すると、みんな喜ぶのにね。ただ、すぐに結果がでないと、広く社会の同意を得られないということもあるのかもしれませんね」(サッシャさん)
「そこはご指摘の通りです。ただ、ひとつ言えるのは、研究はビジネスじゃない、ということです。研究がビジネスに役立つことはありますが、全ての研究がビジネスのためにある訳ではありません。
うまくいかないもの、直接役に立っていると思えないものもあるということを知っていただきたいと思います」(西田さん)
今回のニュースをはじめとした西田さんのコメントは、ぜひ以下からチェックしてみてください。
また、オンエアで紹介された西田さんの新著「
なぜ政治はわかりにくいのか: 社会と民主主義をとらえなおす」(春秋社)へのリンクはこちらです。
2月5日は、NewsPicksとJ-WAVE「PICK ONE」の公開収録(1月25日開催)から、人材研究所 代表の曽和 利光さんが出演予定です。
こちらもお楽しみください。

【番組概要】
放送局: J-WAVE 81.3FM
番組タイトル: PICK ONE
ナビゲーター: サッシャ、寺岡歩美(sugar me)
放送日時: 毎週月~木曜日11:00~11:20(ワイドプログラム『STEP ONE』内)
      番組WEBサイトはこちらをご覧ください