人工知能が外貨相場を予測する「未来の投資」の話をしよう

2018/1/30
あらゆる分野で実用化の動きが見られる「AI・人工知能」。邦銀初のサービスである、じぶん銀行の「AI外貨予測」もそのひとつで、スマートフォンの銀行アプリから手軽に為替相場の予測が見られる外貨預金サポートツールだ。
投資において、さらには私たちの生活の中で、AIは今後どのような役割を担っていくのか。AIの今と未来について、じぶん銀行執行役員・榊原一弥氏とデータサイエンティストであるシバタアキラ氏が語り合う。

予測的中率77.7%、AI外貨予測の成果

──さまざまな分野で実用化の動きがあるAI。そもそも金融サービスとの親和性についてどう考えますか。
シバタ:事例も多いですし、相性はいいと思いますよ。僕は今、DataRobotという会社で、AIの技術のひとつである機械学習を使い、入力したデータから予測・分析モデルを自動的に構築できるサービスを提供しています。
日本オフィスの設立にあたり出資していただいたリクルートも、金融事業に参画し、DataRobotを有効活用されています。
榊原:私も非常にいいと思います。
金融の世界には、本当に大量のデータが蓄積されていて、それをシステムが処理しています。そこにAIの技術を取り入れれば、さまざまな可能性が見えてきます。海外では、すでにセキュリティ分野でも利用されていますね。
シバタ:AIを使ってマネーロンダリングのような不正を検出するんですよね。国内でも、こういった分野での実用化を目指すなら、データでいえば量より質。さらに、新しい手法を取り入れられる環境づくりが重要だと思います。
──そういった意味では、じぶん銀行の「AI外貨予測」は邦銀初のサービス。新たな手法に踏み切ったということですね。
榊原:超低金利の今、私たちが力を注いでいるのが外貨預金です。
とはいえ、海外の金利も低くなってきた。ならば、為替差益を狙えるよう、できる限りいいタイミングで買っていただきたい。そういった思いから「AI外貨予測」はスタートしました。
このサービスは、過去の為替の変動をもとに、数時間から数日後の為替をAIが分析・予測するというもの。直近のチャートデータを画像として認識させ、それを過去のデータベースに照らし合わせることで、為替の上下を予測していくんです。
シバタ:似ているチャートの動きを探す仕組みですね。「画像として」というところが面白い。
でも、僕らの定説としては、「対象に影響を与えられる」予測モデルは、うまくいかないとされているんです。
たとえば、「米ドルが下がるぞ」という予測をすると、みんながそれを買う。そうすると、予測によって人の行動が変わり、未来が変わってしまうから、予測が予測として成立しないんです。その部分についてはどう思いますか。
榊原:おっしゃるとおり。ただ、外為市場全体のボリュームは極めて大きく、それに対してAIを活用しているヘッジファンド等の市場参加者や、当行のAI外貨予測を見て外貨預金をされるお客さまの規模は小さいので、まだ心配はありません。
もちろん、市場参加者のほとんどがAI予測を利用すれば、予測が成立しなくなるでしょうね。それほど多くのお客さまに使っていただけるようになれば、我々としてはうれしい面もありますが。
AI外貨予測には、上昇の確率が高い予測が出たときにプッシュ通知で知らせる機能※1がありますが、その的中率は77.7%※2です。
一般的に、外国為替の予測は50%、プロの為替トレーダーでも50~60%と言われる世界なので、現段階では十分にアウトパフォームしていると思います。
※1 5営業日後終値が上昇する確率63%以上で、期間内に高値が+0.5%を超える予測が出たときに通知される機能
※2 2017年6月28日(サービス開始日)~17年11月30日に配信されたプッシュ通知9回中7回が的中
「AI外貨予測」のアプリ画面。「上がる」「下がる」という初心者にもなじみやすい表現や、直感的にわかりやすいアイコンが特徴だ。
シバタ:なるほど、では、この問題は今後の課題ですね。
榊原:ちょっと視点は変わりますが、私たちがこのサービスに期待していることのひとつは、外国為替の変動に慣れていただくことなんです。アンケートをとったところ、「外貨預金をやりたいけどタイミングがわからない」という方が非常に多かったんですよ。
もちろん、AI外貨予測を見て外貨預金をしていただき、そのタイミングがベストであればとてもいいわけですが、まずは外貨投資をはじめる手前の段階で足踏みしている人をサポートし、ポンと背中を押して差し上げたいですね。
そこで、外貨預金初心者の方にもわかりやすく、使いやすいツールに仕上げる部分は、直感的にわかりやすいこと、ビジュアル的に親しみやすいこと、情報がしっかりと伝わることなどを常に念頭においてプロジェクトを進めました。

トレンドが落ち着いた今こそ考えたい、AIとの付き合い方

──一定の成果を上げている「AI外貨予測」ですが、シバタさんから何か質問はありますか。
シバタ:僕が気になるのは、このAIサービスのユーザーがどのぐらい増えているのか。本当に参考にしている人はどのぐらいいるんでしょうか。
榊原:私も驚いたんですが、平均すると1人のユーザーが1日数回見ているんですね。「AIで予測するなんて面白いな」という興味本位でちょっとのぞいてみるだけなら、こういう結果にはなりません。
だから、取引のタイミングのみならず、いろいろな場面で、いろいろな目的で参考にされているんじゃないかと思います。
また、プッシュ通知が出たときには、人数、取引金額含めて、通常の4、5倍になるので、着実にファンも増えていると自負しています。
スマホに「AI外貨予測」のアプリをインストールしていると、このような形でプッシュ通知が届く
シバタ:それは素晴らしい。DataRobotユーザーにも、予測モデルの事業実装には積極的に取り組んでもらいたいと思っています。
よくあるのが、モデルを作るところまでは進んだものの、実際に使う段になってさまざまな障壁が出てきて頓挫するケース。社内の反対、社外の反応、技術面での問題……原因はケース・バイ・ケースですが、孤児になっているAIって結構あるんですよ。
榊原:なるほど、孤児ですか。そうなるでしょうね(苦笑)。
シバタ:その点、じぶん銀行の「AI外貨予測」は技術的な問題もクリアしているし、サービスとしてユーザーに定着しはじめている。ユーザーにお金を動かしてもらうサービスは、双方に強い意思がないと成立しません。ここまできたのは純粋にすごいと思います。
榊原:ありがとうございます。私たちは「AIで何かをやらなければならない」という命題からはじめたのではなく、「お客さまの外貨投資をサポートしたい」という思いでサービスを企画したので、きちんと実現できたのだと思います。
シバタ:AIのトレンドも少し落ち着いてきて、今後は「AIのアドバイスをちゃんと解釈した上で、人間が行動できるか」がポイントになってきます。
つまり、人間がきちんと理解していないと、
「AIが買い時だと予測したら、自分の財産を全部投資しますか?」
「それはできません。AIの予測の根拠がわからないから」
という、建設的でない結果が待っているかもしれない。
このあたりが解決されると、「AI外貨予測」を含め、AIの利用価値が増していくんじゃないでしょうか。
榊原:そのとおりです。たしかに、銀行でこういうサービスを出している事例は少ないんですよ。「予測がはずれたら苦情が来るのでは?」という意見も一部にはありましたが、そのときは私自身がしっかりとお客さまに説明しようという覚悟で臨みました。

AIが「ごく当たり前」の世界に突入する

──今後、AIで新たなサービスに取り組む予定があるそうですね。
榊原:今、まさに新たなAIを開発中です。次のAIでは、ある一定期間、たとえば来月1日から月末までの間のどこに安値の日がくるのかを予測します。
似ているようですが、全然アプローチが違って、「ディープラーニング」というより高度なAI開発手法を利用したり、情報量を増やしたりと、かなり大変な研究開発を行っています。これでよいパフォーマンスが出せれば、世界でも例を見ない画期的なAIになると思います。
シバタ:本当にいい結果を出すために、精度を上げるのが難しいということですね。これはどういった使い方になるんですか。
榊原:私たちはこれを外貨積み立てサービスに応用し、毎月定時で購入していくよりも多くの外貨を積み立てられることを目指したいと思います。
せっかく積立てるなら、1カ月間のできるだけレートのいいタイミングで、より多くの外貨を積み立てていってもらいたい。それを目指す新サービスです。
シバタ:その開発に取り組む中で、新たな発見はありましたか。月の半ばには、こういうことが起こる傾向があるとか。
榊原:通貨の癖だとか、いろいろなことが見えてきますよ。たとえば、米ドルのバックテストでうまくいったアルゴリズムでも、豪ドルだとうまくいかないとか。そういった発見と調整の繰り返しです。
シバタ:よくわかります。精度を上げようとすればするほどハマりこんでしまった経験は僕にもあります。
──今後、投資の世界、また社会においてAIはどのような役割を果たしていくのでしょうか。
榊原:AIの世界で最初に実用化されるのは、「言語系」よりも「数値系」のAIだろうと考えていました。数字のほうがAIとの相性がいいからです。銀行にAIの成功事例が多いのは、まさにこれが理由だと思います。
ですが、今後は数字だけじゃなく、もっといろいろなものを分析していくことになるでしょうね。
シバタ:これからは、意識していなくても「裏側ではAIが役割を担っている」というケースがすごく増えていくでしょうね。
すごくインパクトが大きい技術だからこそ、そのうちインターネットのようにどこにでもあるものになって、いい意味で目立たなくなると思います。
榊原:車や家電、住宅など、いろいろな場でAIが当たり前に利用される世界がすぐそこまできていますね。私たちは、そこに「世界で最初」のサービスや新しいスタイルを提供できる企業でありたい。
シバタ:世界を見据えているのが素晴らしいですね。
普通の企業だと、まず社内で使ってみて、うまくいったら実際のサービスに……と、中から外へ広げていくパターンが一般的ですよね。特に金融はコンサバな業界だと思っていたので、じぶん銀行のフットワークの軽さは、いい意味で驚きでした。
榊原:ありがとうございます。「いい意味で」あまり大きな組織ではないので、新しい取り組みがしやすいんですよ。
シバタ:私たちの社会が、AIに限らず新しいテクノロジーを取り入れていくためには、そういった軽快なチャレンジを歓迎する環境が重要なんです。これからもAIに携わる者として、取り組みに注目していきます。
(編集:大高志帆 構成:藤村秀樹 撮影:小池彩子)