ようこそ。「お金2.0」の新世界へ

2018/1/22

フィンテック2.0の本質

ビットコイン、リップル、イーサリアム、仮想通貨、ブロックチェーン、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)──。数年前まで、一部の人間しか知らなかったこれらのワードが、毎日のようにメディアを賑わせている。
今まさに、お金をめぐる構造変化が起きている。「お金2.0」へのシフトが加速しているのだ。
表面的には、「ビットコインの高騰」「仮想通貨バブル」といった文脈で取り上げられがちだが、「お金2.0」の本質は、仮想通貨の投機的な取引にあるわけでも、ITによる金融の効率化にあるわけでもない。
お金2.0-新しい経済のルールと生き方』の中で、著書であるメタップス社長の佐藤航陽氏は、「お金2.0=フィンテック2.0」と「フィンテック1.0」の違いを以下のように説明している。
「お金2.0」の世界は、現在の延長線上では理解できない。
では、その本質はどこにあり、何が革新的なのか。
本特集の第2回、第3回では、「お金2.0」が世界とビジネスにもたらす変化を、『お金2.0』の著者である佐藤氏、いち早く仮想通貨のポテンシャルを指摘してきた堀江貴文氏、買取アプリ「CASH」を運営するバンクの光本勇介氏に語ってもらった。
さらに、「お金2.0」が産み出す新経済圏の姿について、クラウドファンディングサービス「CAMPFIRE」を手掛ける家入一真氏、わりかんアプリ「paymo」を運営するAnyPayの木村新司氏に聞いた。

「仮想通貨ビリオネア」の物語

もちろん、「お金2.0」へのシフトが進むのは日本だけではない。そのウネリは海外でも広がっている。
その中心地は、中国、韓国、アメリカだ。一時は規制強化によりブームが沈静化したアメリカでも、仮想通貨、ICOへの熱狂度が高まっている。
代表的な仮想通貨のひとつであるリップル。その共同創始者であるクリス・ラーセン氏の資産は、2018年1月4日のフォーブス誌の試算で590億ドル(約6.6兆円)に到達した。一時的に、同誌の世界富豪ランキングでフェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグ氏を抜き、5位に躍り出た。
同じく、仮想通貨ブームでビリオネアへと駆け上ったのが、36歳のウィンクルボス兄弟だ。
この双子は、フェイスブック創設の経緯をめぐるザッカーバーグ氏との法廷闘争を通じて和解金6500万ドルを受け取り、その一部をビットコインに投資した。
その後、2012年後半に10ドル以下だった価格は一気に跳ね上がる。2013年になると、ウィンクルボス兄弟は、仮想通貨でビリオン(10億ドル)単位の資産を持つ最初の著名人になった。
彼らが共同で創設した仮想通貨取引所「ジェミニ(Gemini)」も、評価額は20億ドルを軽く超えるとみられる。
ウィンクルボス兄弟は、ビットコインは金以上の存在になる、と読んでいる。
「ビットコインはおそらく世界最高の投資先の1つで、今後数十年間そうであり続けると、私たち2人は今でも考えている」
リップル創設者のラーセン氏、ウィンクルボス兄弟、そして、新たに生まれたビットコイン長者たち──彼らの物語を『デジタル・ゴールド──ビットコイン、その知られざる物語』の著者で、ニューヨークタイムズ記者のナサニエル・ポッパー氏が描く。

ICOの可能性と課題

ビットコインなどの仮想通貨とともに、「お金2.0」の中核をなすのがICOだ。ICOとは、仮想通貨、トークンをベースとした資金調達を指す。
ICOは、従来のIPO(株式上場)と異なり、証券会社の介在がなくとも、資金調達の目的やプロジェクトの計画を記した「ホワイトペーパー」を出せば、ある程度自由に上場できる。
クリプト・バレー・アソシエーションとプライスウォーターハウスクーパース・ストラテジーの調査によると、2017年(11月末まで)に行われたICOは430件に上り、調達総額は約46億ドルに達している。
こうしたICOの興隆に対しては、賛否両論の意見がある。
レーガン政権でSEC委員を務め、現在スタンフォード大学でビジネスと法律を教えるジョゼフ・グランドフェスト教授は、ICOは連邦証券法に違反しており規制当局が早急に動くべき、と主張する。
一方で、ICOは株式市場やベンチャーキャピタルの概念を揺さぶり、新たな経済をつくるドライバーになるという論者もいる。
ICOにより、トークンをベースにした「トークンエコノミー」が広がれば、企業、経済の形が大きく変わりうる。
さらに、トークンエコノミーが地方自治体、国にも拡張されれば、政治や国の形まで刷新される可能性もある。
日本再興戦略』の著者で筑波大学助教の落合陽一氏はこう語る。
「ブロックチェーンやトークンエコノミーをうまく生かすことで、日本は国の形、社会の形、仕事の形、個人の形を世界に先んじてアップデートすることができる。思い切って舵を切れば、他国の20年先を行くことも可能」
なぜトークンエコノミーが日本再興の切り札となるのか。初回では、その理由を落合氏が説く。
(デザイン:星野美緒)