【遠藤保仁】未来を変える「俯瞰力」を身につける方法

2018/1/27
テレビや実際のスタンドでサッカーの試合を見たことがある人は、「あそこにフリーの選手がいるのに、なぜパスを出さないんだ」と感じるときがあると思います。
もちろん、あえて出さないという選択をしているときもありますが、ボールをもっている選手には、そのフリーの選手が見えていないことも当然あります。
鳥の目で高いところから全体を見渡すことを「俯瞰(ふかん)」といいますが、サッカー選手が俯瞰するような視点をもち、どこに選手がいて、どのスペースが空いているかをひと目で把握することができれば、決定的なチャンスを生み出すことができます。
そのため、サッカー選手であれば、誰もが鳥の目をもちたいと思うはずです。
遠藤保仁(えんどう・やすひと)
 1980年鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年横浜フリューゲルス入団。京都パープルサンガ(現:京都サンガF.C.)を経て、2001年ガンバ大阪に加入。2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出された。2002年11月に日本代表としてデビューし、ワールドカップに3度出場
しかし、実際にフィールドでプレーをしているかぎり、鳥の目で全体をとらえることは簡単ではありません。
僕もたまに全体を俯瞰している感覚でプレーができ、すべてが先読み通りにいくことがありますが、何年かに1度くらいの出来事で、めったに起きることではありません。
現実に鳥の目でプレーをするのはむずかしいけれど、それでも理想として追求したいとは常日頃から考えています。
俯瞰することを意識していると、視野が広がり、自然とプレーの選択肢が増えていきますし、それは先を読む力がアップすることにつながるといえます。
ゴールへのルートは複数ある
サッカーの目的は、ゴールを奪って勝利すること。でも、ゴールへの道筋はひとつとはかぎりません。
FWの選手が点をとれないなら、MFが点を決めればいいし、DFだっていい。GKが点をとってもかまわない。ロングパスが有効かもしれないし、ショートパスをつないだほうが可能性は高いかもしれない。
相手の守備陣を崩す方法もひとつだけではないのです。
山登りも登山道はひとつだけではないと思います。富士山の頂上にたどりつくための登山ルートは複数あります。
それはサッカーをプレーするときも同じです。「こうすれば点がとれる」というルートはひとつだけではありません。
極端な話、右サイドからの攻撃ばかりに頼れば、相手チームは右サイドを徹底的に潰しにかかるから、ゴールは遠くなる。左サイドや中央からの攻撃のほか、ときにはロングシュートも繰り出すなど、さまざまな方法で攻めるから、相手の裏をかいてゴールに結びつけることができます。
だから僕はプレー中、俯瞰することを意識しながら、常に複数の選択肢をもつようにしています。プレーの選択肢をたくさんもっていればいるほど、どんな試合展開にも対応でき、ゴールの可能性が高まるはずですからね。
視界の端で情報をとらえる
視野を広げるためには、できるかぎり目を使って情報収集をすることが大事。そのためには、物理的に視野を広げるのが効果的です。
たとえば、公園のベンチに座っているとき、視界の右隅にブランコが見えるとします。普通の人も意識すれば、右隅にブランコがあることくらいはわかるでしょう。しかし、あとで「何番目のブランコが揺れていたか」と聞かれても、とっさには答えられないはずです。
僕の場合は、「何番目のブランコが揺れていたか」と聞かれても、すぐに答えることができます。それはふだんから広い視野を使って見ることを習慣にしているからです。
街を歩いているときも、正面を見ながらも視界の両端に見える情報を集めるようにしているから、視界の端っこを走り抜けていった自転車に乗っていたのが男性か女性か、何歳くらいかといったことまでわかります。
食事をしているときや雑談をしているときも、正面を見ているようで、実は視界の両端にも意識を向けています。正面の相手に50%くらいの意識を集中させて、残りの50%はその周辺に意識を向けている、という感覚です。
視界が広くなれば、サッカーのプレー中も多くの選択肢を用意することができます。ボールと目の前の敵については、ぼんやりと見るにとどめて、残りは視界の左右にいる選手のポジションや動きに意識を向ける。首を左右に振れば、さらに視野は広がります。
意識してより広範囲の情報を得ようとすることによって、フィールド全体を俯瞰する力を養うことができるのです。
第三者的に分析する力を鍛える
情報は、見ようと意識しないと入ってきません。それはサッカー以外でもいえることで、周りを見ることを意識しなければ情報に対する感度は落ちるし、意識して見れば、他の人が気づかないようなことにも気づくことができます。
ビジネスでも、優秀な人は、できるかぎり意識して情報を集めているはずです。だから、他の人には思いつかないようなアイデアを出すことができたり、コミュニケーションをするうえでも細やかな気遣いができたりするのではないでしょうか。
もちろんサッカーの練習でも、ちょっとしたパス練習を「何となくこなす」よりも「止める」「蹴る」を意識するだけで意外と気づくことは多い。さらには、シチュエーションとして、実際の試合で敵がいることを意識するだけでも、また違ったパス練習になる。
「そんなの当たり前だ」といわれればそうかもしれませんが、常に意識して実践している人は実は少ないのではないでしょうか。
おそらく、「意識する」というのは、「自分を他人のように冷静に客観的に分析する」ことにつながると思います。この第三者的に分析する能力を鍛えることで、自然と俯瞰する力も身につくと考えています。
そうなれば、技術の上達速度も飛躍的に上がるはずです。
意識が変われば、行動が変わる。行動が変われば、習慣が変わる。習慣が変われば、きっと未来を変えることだってできる。
ありきたりな言葉かもしれませんが、そのちょっとした意識が、あらゆる物事におけるすべての始まりであることは間違ってはいないと考えています。
(写真:アフロ)