マーケティングにおける「リアルの逆襲」 

2018/2/5
マーケティングはどこへ向かうのか──。スマートフォンの普及、位置情報技術の進化により、ウェブだけの完結から、リアルと融合したデジタルマーケティングが注目を集める。ポケモンGOをいち早く取り入れるなど、先進的なマーケティングで知られる日本マクドナルドマーケティング本部長足立光氏と、ソフトバンクでデジタルメディア戦略を統括する藤平大輔氏に、マーケティングのこれからについてお聞きした。
マックとソフトバンクの違いは
藤平(ソフトバンク):ソフトバンクにとっての競合他社は明確です。だからこそ、他の2社と比較されますし、マーケティングを工夫して常に他社との違いを訴求し、契約者の獲得を強化していなければなりません。
足立(マクドナルド):3キャリアそれぞれの細かな違いを周知するのは、簡単なことではないでしょうね。
藤平:他社と比べ、うちはユーザー層がやや若い。若い世代にはパケット代の負担が死活問題だったりするので、データ定額サービス「ギガモンスター」などは大きな反響に繋がりました。
いまは「ウルトラギガモンスター」がソフトバンクのウリのひとつになっています。
足立:マーケティングは、表現次第で印象も効果も大きく変わります。
マクドナルドの場合、例えばレンタカー会社さんと組んで「車を借りていただいたお客様には、コーヒー無料クーポン配布」とやるよりも、「レンタカーに乗ってる間は、マックでコーヒーが無料!」などと打ち出したほうが、やっていることは同じでも、ニュース効果として何倍も効果的なんです。
藤平:まったく印象が違いますね。
足立:同じ実店舗を持つ事業でも対照的ですよね。マクドナルドの場合は、街を歩いている時にふっと思いついて、衝動で来店していただくことが多い業種。そのため、マーケティングとしてターゲット別にメッセージの内容を出し分けても、実はあまり効果が見られないんですよ。ここが難しい。
藤平:たしかに対照的です。ソフトバンクの場合は、ふらりと立ち寄って新しいスマホを契約するようなことは、あまり想定できません。ユーザーがウェブなどで情報収集を始めてから、実際にショップへ来るまでのジャーニーが長いという特徴があります。
「デジタルで刈り取る」の誤解
藤平:マーケティングに用いるメディアとして、テレビとデジタルの比率はどのくらいで考えていますか?
足立:予算で見れば、デジタルが2割くらいだと思います。2年前と比較すれば、かなり拡大しています。
もっとも、デジタルに予算を寄せるべきか否かという話ではなく、マスとデジタル、それぞれの役割を考えた上で、最適な順番・内容で出しわける、という問題です。
期間限定の新商品を出したりキャンペーンを打つとどっとお客さんが増え、それがだいたい4~6週で終了する。この意味で、弊社のマーケティングのモデルは、映画業界と似ています。
キャンペーンを開始した最初の週末の売上を高くすることができれば、そこから時間の経過とともに漸減していく比率はほぼ一定なので、キャンペーン期間全体の売上が大きくなります。映画が、封切の週末にどれだけ動員できるかにかかっているのと同じイメージです。
藤平:なるほど、そこでマーケティングに使うツールの順番がカギになる、と。
足立:そういうことです。SNSでバズるためには、そもそも商品やキャンペーンを事前に知っておいていただいた方が効果的です。
まずPRで世の中にキャンペーンのニュースを出し、次にSNSやデジタルでそのキャンペーンを拡散させ、最後にマスメディアで認知をさらに拡大する、というマーケティングの順番になります。
藤平:それはぜひうちもやりたい手法です。デジタルで土台を作っておいて、マスメディアで一気に火をつけて刈り取る、という。
足立:今や日本の半分はシニアですからね。テレビや新聞しか見ない人だって大勢いますから、やはりマスメディアを使う効果は大きいです。要は、デジタルとPRとマスの使い分けが、今の時代は物を言うということですよ。
これは誰かに自分を選んでもらいたいシチュエーション、例えば生徒会選挙で生徒会長に立候補した時に例えるとわかりやすいです。
藤平:と、言いますと?
足立:私が生徒会長に立候補して、公約演説などしても、「ふーん」という感じで、生徒たちにはあまり刺さらない。
でも、その生徒たちの信頼する人、先生や塾の講師みたいな立場の人が「足立はいい人だ」と言うのを耳にしたりすると、かなり信頼が高まる。これがPRの効果です。
そして、同じ学校の友人や知人から「足立はいい人だよ」と耳にすると、さらに信頼が高まる。これがいわばSNSの効果です(笑)。
藤平:わかりやすいですね(笑)。そこでダメ押しで大々的なCMが入れば、プロモーションとして大成功です。
足立:そう。いい噂(PRやSNS)が流れた後に、直接本人が登場(=マス広告)すれば、認知や信頼を得る可能性は大きく上がる。だから順番と使い分けが大切なんですよ。
最初にマスでCMを流してリーチを取り、デジタルメディアでコンバージョンさせて刈り取ろうとするマーケターの方もいますが、私は逆だと思いますね。
カギを握る動画でのコミュニケーション
藤平:うちは業種的に、頻繁に新商品が出るわけではないので、大きなPRを打つタイミングも限られているんです。ざっくりと年2回、それに新しいiPhoneが登場した時くらい。
それでも会見を設定すると、「ソフトバンクは何かやりそうだ」と世間が注目してくれるのは、これまでのマーケティングの効果の表れだと思っています。
足立:そうなると、拡散もされやすくていいですよね。
藤平:長らくCMで流している白戸家のシリーズにしても、認知と想起を狙ったものです。携帯キャリアというカテゴリーは3社がどうしても同質化してしまいがちなので、これは他業種以上に徹底する必要があると考えています。
理解促進を目的に、CM以外でも積極的に動画を活用しています。先ほどご紹介したデータ定額サービス「ウルトラギガモンスター」も、「パケット50GBでいくら」と打ち出しても、わかる人にしかわからない。こういうサービスには動画が適しています。
足立:弊社も、昨年行った「マクドナルド総選挙」は、コミュニケーションを動画主体で行いました。理解の速度は圧倒的に動画が速いですね。このキャンペーンだけで31種類もの動画を作成し、媒体とタイミングを細かく計算しながら、流していきました。
藤平:動画は音声も使え、情報量が圧倒的に多いですからね。今後ますます活用の幅が広がるでしょう。
マクドナルドの競合はハンバーガー店ではない
足立:携帯キャリアの競合は同業他社でしょうが、マクドナルドの競合はハンバーガー店ではありません。この点を誤解されるケースが時々あるのですが、消費者視点からすると、価格帯的に街の中華料理店やコンビニ、回転寿司など幅広い外食が競合するんです。
藤平:店舗数からすると、コンビニは特に大きな相手でしょうね。
足立:そうなんです。最近はイートインスペースを併設した店舗も増えていますから、これは無視できない。
藤平:そうしたゲームチェンジは、今後あらゆる業種で起こるでしょうね。だからこそ、我々のような通信インフラであれば、これまで誰が見ているのかわからなかった部分を特定し、カスタマージャーニーを明確にした上で戦略を練る必要があります。
例えば最終的に購買や来店に繋がるきっかけとなるのは、スマホなのかPCなのか、それともテレビがいいのか。端末ごとのデータを採ることで見えてくることは多いでしょう。
2000万ドル出資した「シナラ」の位置情報技術
藤平:これまでウェブ広告はクリック数などで効果を測るしかなかったのですが、いまでは、ショップに設置したソフトバンクのWi-Fiへのアクセス情報を活用することで、出稿媒体ごとに来店までつながったかどうかを把握できるようになりました。
これを実現しているのが、2015年にソフトバンク主導で合計2000万ドルを出資した「シナラ」の技術です。
シナラは、米国のモバイル広告配信プラットフォームです。位置情報を活用した多数の配信セグメントを保有していて、シナラ独自のアドタグにより、LTE環境下で広告に接触した後、計測用のソフトバンクWi-FIにアクセスすることで来店情報として検知しているんです。
学割キャンペーンの意思決定者が判明
藤平:自社でシナラの広告配信サービスを活用したところ、興味深い結果がでました。
今年も学割のキャンペーンを始める予定ですが、果たして決定権を持つのは学生本人なのか、それとも親なのかが悩みどころなんです。
アンケートベースではどうやらユーザーである学生本人の意志が強いようだったので、昨年はCMにジャスティン・ビーバーを起用するなどの手を講じた経緯があります。
ところが、ショップのWi-Fi経由で取得した位置情報を分析したところ、学割キャンペーンの期間中の2週間、キャンペーンに反応して来店しているのは学生よりも40代女性が多いことが初めて判明しました。
つまり、学生本人よりも母親に向けたキャンペーンが有効ではないかという仮説が導けたのです。
足立:ソフトバンクさんは、本当にそうしたリサーチを頑張ってますよね。これは見習わなければいけません。
弊社では今現在で4200万ほどのダウンロードがある、自社アプリでクーポンなど配信しています。でもご来店頂いたお客様が、何を見てどこからいらっしゃったのか、といった情報には繋げられていないので、このあたりは今後の課題ですね。
ポケモンGOの効果は
藤平:ポケモンGOも位置情報を使ったマーケティングですね。衝動的に入店することの多いマクドナルドではより効果があったのではないでしょうか。
足立:ポケモンGOは社会的なムーブメントになったので、大きな効果がありました。ただ、GPSを使った、しかもグローバルで共通のゲームなので細かなチューニングやカスタマイズには限界がある一面もありますね。
藤平:ビーコンやBluetoothなら届く範囲が小さかったり、同じビルでも他店舗を遮断できたりとより細かなチューニングも可能です。
位置情報を活用すれば、それがどのようなサイトを見て来店したお客さんなのかがわかります。デジタルをリアルな体験とどう結びつけていくのか、今後、より重要になっていくと思います。
購買情報はラストワンマイルに近い
足立:マーケティングの未来という意味では、もう一つ注目しているのは、購買情報です。消費者が様々なお店でどんなものを好んで買っているかまでわかれば、抱き合わせのキャンペーン企画に繋がるかもしれない。
藤平:そうですね。購買情報はラストワンマイルに最も近い部分ですから、個人情報に抵触しない範囲で、統計的な研究はしています。
これまでは「何をクリックしたか」という情報ばかりでしたが、購買という1つの結論をデータ化して、SoftBank Ads Platform(ソフトバンク アド プラットフォーム)*で扱えるようにするのは有効だと思います。
*「SoftBank Ads Platform」とは、ソフトバンクが提供する、高精度なターゲティングデータに基づいた、最適な広告配信を実現する広告配信プラットフォームで、広告主向けには「DSPサービス」「PMPサービス」、メディア向けには「SSPサービス」が提供されている。
足立:それは他の2キャリアでは簡単に手を出せない領域ですから、大きな強みですよ。
公共性を踏まえたデータ活用を
足立:今後もし、携帯電話でCookie情報が使えるようになったら、また状況は大きく変わるでしょうね。
藤平:そうですね。位置情報にしても、ユーザーにストレスを与えないよう配慮しなければなりませんが。
足立:問題はそこです。嫌がられないように情報を出すのは、とても難しいことですから(笑)。
藤平:そのために常々感じているのは、位置情報を単体で使うのではなく、そこにどういう情報を繋げていくかが大切だということです。
例えば同じ店舗に来店した30代女性ユーザーであっても、働いている人なのか、それとも子育て中の主婦なのかで、出すべきコンテンツは変わります。SoftBank Ads Platform上でどれだけ周辺の情報を厚くできるかが今後の課題です。
足立:その瞬間のニーズを見極めなければ、ということですよね。同じ人間でも朝と夜で違うわけですから、ライトメッセージ、ライトターゲット、ライトタイミングを意識すべき。
藤平:情報が集まるほど、マーケティング戦略が尖りすぎてしまう可能性があるので、気をつけなければなりません。
足立:インフラ事業は公共性の観点からしても、安心・安全であることが第一。御社にはその点の徹底を期待した上で、ぜひ有効なデータ活用をこれからも考え続けてほしいですね。
マクドナルドとしても今後、いい形で協業させていただけるのを楽しみにしています。
(構成:友清哲 編集:久川桃子 撮影:岡村智明)
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