[ロンドン 11日 ロイター] - 今週は日銀が長期国債買い入れを減額したことをきっかけに、大規模緩和の出口が予想より早まるのではないかとの懸念が浮上し、世界の金融市場に動揺が広がった。特に新興国は、円高によって日本の投資資金が引き揚げかねないとみられ、通貨が軒並み値下がりした。

その後市場は落ち着きを取り戻したものの、日銀が既に日本国債の半分を購入してしまっている点を踏まえると、本格的な買い入れ縮小の時期は近づいているのかもしれない。もしそれが実現すれば、円が高騰して日本勢の資金還流が進む恐れがある。

それが新興国にどの程度影響するのか予想は難しいが、今週の値動きは何らかの手掛かりになるだろう。

新興国通貨の対ドル下落率は0.3─0.8%を記録。対円ではトルコリラがおよそ3%下がりし、ブラジルレアルとメキシコペソ、南アフリカランドの下落率は1.5─2・5%だった。

UBSのストラテジスト、マニク・ナライン氏は「市場は日銀の動きを金融緩和がピークに達しつつあることの表れと解釈し、新興国通貨のクロス円相場が反応した。われわれの分析からは、新興国株市場においてまだ米国の投資家の存在がずっと大きいが、日本勢の保有は増えていることが分かる」と述べた。

日本の個人投資家の新興国投資はつとに知られている。だがそれだけでなく、2010年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が新興国市場への資金配分を増やすと表明して以来、機関投資家の関心もゆっくりだが高まってきた。

国際金融協会(IIF)のデータでは、2013年以降の日本から新興国への資金流入額は約660億ドルで、投資先は債券と株式がほぼ半々だ。このうち100億ドル程度が昨年1─10月に流れ込んだ。昨年の新興国に流入した資金の総額は2350億ドル。

日興アセットマネジメントのポートフォリオマネジャー、ラファエル・マレシャル氏は、同社に入った2年前から日本の資金運用担当者の新興国債券に対する投資意欲が上向いたと指摘し、その一因として新興国債が最近堅調に推移していることを挙げた。

昨年の新興国債のドル建てリターンは14%。ただ円がドルに対して3.5%上昇した影響で円建てリターンは目減りしている。

マレシャル氏によると、円が下落する公算は乏しい一方で、日本の金融政策は今後引き締め方向になりそうだ。それでも新興国債のリターンは7─10%と期待されるので、2─3%の円高程度では日本の投資家の買い意欲に水は差されないだろうという。

2014年に落ち込んだ日本の個人投資家による新興国資産買いは、その後増大している。

ブラウン・ブラザース・ハリマンの推計に基づくと、日本の個人投資家向けに昨年1─3月に販売された新興国通貨建ての「売り出し債」は39億ドルに達した。最も人気があったのはトルコリラ建て債で販売割合は全体の28%。次いでインドルピー建て、ブラジルレアル建て、メキシコペソ建て、ロシアルーブル建てが売られた。

今後新興国通貨のクロス円取引に悪影響を及ぼす可能性がある要素の1つは、貿易問題だ。今週は中国政府が米国による保護貿易に対する報復措置として米国債購入の縮小や停止を検討中だと一部で報道され、円が急伸する場面があった。

ミレニアム・グローバル・インベストメントのグローバル経済戦略責任者クレア・ディソー氏は「米国の保護主義が再び強まるリスクは新興国全体、特にアジアにとってマイナスだ。メキシコは既に北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉からリスクにさらされている」と述べた。

(Sujata Rao記者)