「いつも心にユーモアを」韓国在住ピッカー・金俊年さん

2018/1/13
NewsPicksで活躍する一般ピッカーさんにお話を伺う「NP“コンフィデンシャル”」、30人目にご登場いただくのは、韓国・ソウル在住の金俊年(キム・ジュンニョン)さんです。
5歳のときにソウルを離れ、高校卒業まで東京で育った金さん。韓国の大学に進学して母国の歴史や教養を学び、日韓両国の言葉と文化の精通者として、主に貿易やマーケティングの事業に携わってきました。
そんな金さんはNewsPicksの未来について「ピッカーの集合知が積み重なる場になってほしい」と期待。コメントを書くときに意識していることもお話くださいました。
1月24日にソウル26日に上海でNewsPicks/SPEEDAの合同交流イベントを行います。近隣エリアにご在住の方や出張予定の方は、ぜひご参加ください。

ワンストップで情報収集

ーー金さんがNewsPicksに登録したのは2014年3月です。きっかけを覚えていますか?
ほかのウェブメディアでNewsPicksが紹介されているのを目にして興味を持ちました。
ソウルに定住するようになった2000年以降、東洋経済やプレジデントなどのウェブ版を読むことで、日本の情報をアップデートしていました。それが、NewsPicksを使えばワンストップで読める。これは便利そうだと。
当時は利用者も少なく「優秀なビジネスパーソンたちの密やかな集まり」といった印象でした。とても私のような一般人がコメントできる空気ではなかった。
半年ぐらい“読む専門”でしたが、少しずつ発言する人が増えるのをみて、背中を押されるようにコメントし始めました。
ーー金さんというと、韓国のニュースに現場感のあるコメントが印象的です。
少しでもほかのピッカーさんの参考になるとすれば、それは韓国のビジネスや一般的な暮らしぶりに関するコメントかなと思い、意識して書いています。
ただ、政治や歴史問題などセンシティブな分野は、短いコメントでは意見を伝えるのは難しいだろうと思って無理しすぎないようにしています。
金 俊年(キム・ジュンニョン)
JNK INTERMARKETING 代表。韓国で生まれ、5歳のときに家族で日本に移住。小学校から高校までを東京で育つ。日本と韓国の両方の言語と文化に精通し、多様な日韓ビジネスを形にしてきた。現在はリサーチ、アライアンス、プロモーション分野を中心に日韓間のマーケティング支援を手がける会社を経営する。

ソウル生まれ・東京育ち

ーーそれにしても、完璧な日本語をどこでマスターされたのですか。
生まれはソウルですが、5歳のときに父の仕事の関係で東京に引っ越しました。父は韓国学校の先生でしたが、親の勧めもあって私自身は小学校から高校まで日本の学校で学びました。
最初は日本語も話せなかったはずですが、すぐに友だちができて、苦労した記憶もそんなにありません。
むしろ大変だったのは、大学に進学してからですね。
ゆくゆくは韓国にも基盤を築きたいと考えていたので、韓国の大学を受験して入ったものの、歴史や教養の授業についていけず1年目は落第。必死で勉強して何とか5年で卒業しましたが、文字通り勉強漬けに。さらには民主化運動でキャンパスは石と催涙弾が飛び交うようになり、けっこう大変な大学生活でした。
卒業後は韓国の総合商社・サムスン物産の日本法人で、日本の化学メーカーの商材を韓国に輸出する仕事に就きました。
大学の卒業式。「ちょうど在学中に軍事政権の民主化運動があり、それまで興味のなかった政治についても『知らない』では済まされなくなりました」(金さん)

「親、呼んでこい!」

ーーせっかく韓国の大学を卒業したのに、なぜ日本で就職を?
就活をどうしようかと考えたとき、「日韓をつなぐ仕事がしたい」と思ったんですね。何も分かっていない自分が一番人の役に立てるのは、両方の国の文化や言葉を理解した上で意見調整するときでしたから。
それに加えて、韓国の男性は約2年間の兵役義務がありますが、体育会系なノリが苦手な私でも、日本法人に就職できれば免除される。それに当時の日本の初任給は韓国の2倍以上でしたしね(笑)。
とはいっても、上下関係に厳しい韓国企業でのサラリーマン生活に疑問を抱き、入社してすぐ「3年で辞めて、自分のビジネスを始めよう」と決心しました。
ーー実際、3年で独立されたのですか。
3年で辞表は出しましたが、上司から「お前に何を言っても分からないだろうから、両親に説明する。今すぐ呼んでこい!」と怒られて、なかなか退職させてもらえませんでした。
でも、あのとき上司の教えを聞いておけば、今頃私もサムスンの役員になれてたんじゃないかなあ(笑)。

通貨危機が直撃

ーーその後も日本と韓国でお仕事をされてきたそうですね。
日本の中学時代の友人と貿易会社を創業したり、自動車メーカー向けの工作機械を扱う会社でソウル事務所の立ち上げを任されたりと、充実した日々を過ごしましたが、そう長くは続かなかった。韓国を通貨危機が直撃したからです。
取引先も次々に倒産し、資金回収ができずに毎日弁護士と相談するような日々を経て、しばらくは日本の取引先企業で働かせてもらいました。
再びソウルに住まいを移したのが2000年。友人と韓国でウェブサイト運営やイベントプロモーションを手がける会社をやりながら、日本の洋食が食べられる西洋料理店をやってみたこともあります。
サラリーマン最後の仕事は、日系広告会社の韓国法人で担当した日本観光プロモーション「ビジットジャパン」事業です。韓国人に日本の魅力を伝えるという大事なミッションで、やりがいを感じていましたが、そこに東日本大震災が…。
「日韓ビジネス」というくくりで、本当に多岐にわたる業種業態を経験しました。こうしたプロジェクトでは、日本と韓国の間で板挟みになることも多く、対立や葛藤を調整する力は身についたように思います。
そのうちに、日本企業からの依頼で、マーケティング調査や韓国市場への進出支援をする仕事が増えて、現在のマーケティング会社の設立に至りました。
韓国で起業した頃の金さん。「ウェブサイト運営やイベントプロモーションを手がける会社をやりながら、大相撲のソウル・釜山場所の運営代行や、日本の洋食が食べられる料理店を出したり、忙しかったですね」(金さん)

心にいつもユーモアを

ーー金さんのコメントは、豊富な日韓ビジネスの経験に裏打ちされているところが人気の理由だと感じます。
たしかに色々な仕事に手をつけました。これは面白そうだと思うとやらずにはいられない悪いクセがあるんです 。
根が楽観的だからか、あまり将来の心配をしない性格です。いろんな事業の現場に飛び込めたのも「不安のブレーキ」が効きにくいからでしょう。
失敗体験を重ねたおかげで、ひとつの仕事に何十年も打ち込むプロへの敬意も人一倍感じるようになり、謙虚になりました。
ーーコメントを書くときに意識していることはありますか?
ユーモアを忘れないこと、でしょうか。
仕事では調整役を担うことが多いのですが、意見がかみ合わないとき、場の緊張をほぐすために「笑い」の力を借りるんです。ちょっとした笑いを誘う言葉、ユーモアの緩衝材があれば、円満に話し合えたり、スムーズに合意できたりする。論理の鋭さで相手を承服させるよりも、双方にとってメリットがある場合も多いと感じます。
それは、コメント欄でも同じです。歴史観や価値観の違いを乗り越えて、お互いを理解するのは、論理だけでは正直しんどい。
おそらく私のお笑い感覚は、日本で培われたものなんですよ。韓国に比べて、日本のお笑い水準は段違いに高いですから。
そして、ネガティブな発言は極力避けています。読み手が気分を害するような言葉、汚い表現を使わなくても、健全な問題提起ができるはずです。

集合知が蓄積できる場に

ーー日本だけでなく、海外のメディアにも目を通しているから気づくことも多いかと思います。
よく言われていることですが、日本では海外情勢に関するニュースの扱いが小さいですね。日本は大きなマーケットですから、国内だけでビジネスが成り立ってしまうせいかもしれませんが、もっと外に興味を持ってもいいと思う。
海外の情報、とりわけ韓国については、日本のメディアで書かれていることを100%鵜呑みにするのではなく、複数の情報源を当たったうえで「全ては理解できない」と思ったほうがいい。
というのも、朝鮮半島の専門家が書いた記事を読んでも、韓国のごく一部のメディアで報じられたことをさらに抜粋したような印象を受けるからです。
それでも、たとえ専門家の発言に間違いがあったとしても、書く意欲を削ぐことを目的とするような辛らつな非難は大人気ないです。どんどんエスカレートして、誰も何も言えなくなってしまいますから。
ーーNewsPicks歴の長い金さんから見て、これからのNewsPicksに期待したいことは?
記事だけでなくコメント欄を読むことで、たしかに知的好奇心が満たされます。でも、何年もコメント欄を読んでいると、新しい記事に新しいピッカーさんがコメントしていても、既視感が出てくるんです。
少子化問題にしても、働き方改革にしても、社会的に根の深い問題は繰り返し議論を生みます。同じ話の繰り返しにとどめず、これまでにあったコメントの蓄積を踏まえて、さらに一段階ステップアップした議論ができるような仕組みができるといいですよね。
コメントがただ消費されていくのではなく、知見が整理され、積み重なっていけば、ピッカーの英知で日本を、そして世界をよりよく変えていけるのではないか。
私はNewsPicksに、そんな未来を期待します。

金さんのおすすめピッカー

私が知らない金融分野で、勉強になるコメントをしている方。そして誰を相手にしても偉ぶらない、ニュートラルなところも素晴らしいと思ってます。
通称「チワワ」さんのことは、プロピッカーになられる前、私が会員登録したての頃からずっと注目してきました。特に小売関連のコメントは学びが多いです。
最近気になっているピッカーさんのお一人です。幅広いテーマにコメントされていますが、いったいどんな方なんだろうと想像を膨らませています。
1月24日にソウル26日に上海でNewsPicks/SPEEDAの合同イベントを開催します。ソウル会場は当日、金さんにもお越しいただけないか調整中です。ぜひご参加ください。