【河田剛×ビズリーチ南】就社から、“株式会社自分”の経営者へ

2018/1/16
スタンフォード大学アメリカンフットボール部でコーチを務める河田剛氏と、ビズリーチの南壮一郎社長が「働く」をテーマに行った対談後編。前編はこちら
自分のキャリアに責任を持つ時代
 今の日本は「働く」という概念そのものが変わりつつある、まさにパラダイムシフトの真っただ中にあると思います。これまでの日本の働き方は、“就社”でした。どこか一つの会社に入り、その会社で求められる役割を果たしていく。終身雇用や年功序列を前提としたメンバーシップ型の雇用で、一つの働き方としての“解”だと思います。
ただ、これは製造業を意識してつくられた制度です。実はアメリカも、約40年前までは終身雇用、年功序列に近い雇用形態をとっていました。なぜなら、1980年代に入るまで製造業がアメリカの基幹産業だったからです。
その後、物流革命、情報革命によるグローバル経済の発展により、労働コストの安い国が台頭してきたことで、製造業を中心としたアメリカの経済は衰退し、メンバーシップ型の雇用制度は崩れていきました。そこからサービス業を中心とした新しい働き方を再構築していったことで、今のアメリカがあるのです。
一方、現在の日本のGDPを見ると、製造業はわずかに2割しかありません。7割が第三次産業。基幹産業が変わっているなかで、果たして今までの働き方が通用するのか。
世界を見てみれば、時代は確実に“雇用の流動化”へと進んでいます。自分が身に着けたスキルや知識、経験を、他の会社、業界で表現する。そこで一つの成果を出したら、また違う会社、業界へと移る。今後はこうした働き方が主流になると思います。なぜかと言うと、日本以外ではそれが当たり前だから。
こうした変化はつまり、自分自身でキャリアに責任を持って働いていく時代になったということです。
河田 日本社会の働き方はどんどん変わってきていますよね。例えば、男性が育児休暇を取ることは、ほんの少し前まではあまり考えられませんでした。でも、今となっては珍しくない。働き方やその意識が、世界基準に近づいているんだなと感じます。
 政府が「働き方改革」のキーワードに「人生100年時代」を掲げているように、100歳まで生きるのが当たり前になってきて、そうすると85歳まで働かないといけないわけです。つまり、大学を卒業してから60年も働くことになる。そうなると、一つの会社で働き続けるのは現実的ではありません。
これからのキャリアのつくり方は、「リカレント教育」と言って“働きながら生涯にわたって学び直し、人生のなかで複数のキャリアを歩んでいく”ようになるでしょう。とてもいいことだと思います。学び直して、変わり続ける。自分自身がそのとき、そのときで何を求められているのかを感じ取り、そこに向けて行動することが求められる。
例えば河田さんの場合、45歳の今はスタンフォード大学でコーチをされています。ただし10年後の55歳、20年後の65歳のときに何をやっているのか。アメフトという文脈で進んでいくのか、それともコーチという文脈で進んでいくのか、あるいは日米をつなぐ仕事をしていくのか、現時点ではわかりません。
でも河田さんだったら、そのとき、そのときで必要になることを学び直して、自分の姿を変えていくことができると思います。
学び直し、自分が変わる
河田 僕はスタンフォード大学でコーチをしているので、学生たちがどれだけ勉強しているのかをずっと見てきました。NCAA(全米大学体育協会)の規定で、シーズン中でもミーティングや練習を入れて週20時間しか活動することができません。試合で3時間取られるので、実質17時間。それ以外の時間に何をしているのかと言えば、勉強しているんです。
にもかかわらず、2008年の北京オリンピックではスタンフォード大学がOB・OGを含めて25個ものメダルを取りました。そのお祝いパーティーで当時スタンフォード大学のアスレチックデパートメントのトップに、「TK(河田氏のニックネーム)、このメダル25個という数字はアジアのある島国と同じなんだよ。どこかわかるか?」と聞かれました。そう、日本です。
ほとんどスポーツばかりやっている人たちと、スポーツも勉強も両立させて引退したら超一流企業で活躍するような人たちでは、同じメダルでもその価値は何倍も違うのではないかと感じたことがありました。
何が言いたいかというと、日本の教育に対する意識を変えていかなくてはいけないと思います。
僕は大学時代にアメフトばかりやっていたので自分を棚に上げてしまいますが、大学ではもっと勉強するようにならないといけない。大学が“就職予備校”としての機能を果たしておらず、企業が新入社員に素晴らしい研修を用意して、「まあ、1年は仕事をする上での勉強をしていいよ」と言ってくれているのが現状です。
社会人1年目の人が会社に対してどれくらい貢献しているかという指数を算出したら、日本は先進国のなかで相当低いのではないか、と。逆に、アメリカは1年目から非常に高いと思います。
 アメリカでは勉強するクセをつけさせているように感じます。学生はちゃんと勉強しますし、卒業した後も学び直しに帰ってきます。
河田 そういった制度も整備されていますからね。
 日本人は“就社”したら教育を会社に委ねてしまって、自分で大学に学び直しにくる割合が非常に低いです。だから今後、生涯教育の意識を変えていく必要があると思っています。
先ほどから“学び直す”という言葉を使っていますが、大事なのは“学び直す”ことによって“自分が変わる”こと。ダーウィンの進化論に「生き残るのは強い種ではなく、変わり続ける種だ」とありますが、まさにこれが本質だと思います。
市場原理が働くようになると、成果を上げている人が評価されるようになり、市場価値がどんどん上がっていく。逆に、成果を上げられない人は市場価値が下がり、どんどん厳しくなる。そういったことが今後の日本の労働市場で起こっていくでしょう。
これは予言ではなく、実際に世界では当たり前に起こっていることで、日本だけが取り残されている。みんなで労働生産性の低い働き方をしてしまい、結果として全体の経済成長率が上がらなくなっています。
大学を卒業したら学ぶのは終わりではなく、社会人になっても学び直して、自分を変え続けて市場価値を上げていくことが必要だと考えています。
何のために働くのか?
私はアメリカの大学で時間の使い方について考えさせられました。勉強する時間、スポーツする時間、いろいろなことを並行してやるという感覚が養われたと思います。アメリカ社会では、ただ一つのことをできれば一流というわけではなく、全部ができて初めて一流という感覚があります。
これからの時代、仕事は仕事で、それ以外の時間を自分のために投資することがとても大事になります。
河田さんも仕事をしながらNFLのキャンプへ見学に行きましたし、私も仕事をしながらメジャーリーグの全球団やエージェントにアプローチしました。ボランティアをするのもいいですし、コーチをやるのもいい。カンファレンスに行くのも、家族とすごす時間にしても、体を鍛えるのもいい。
時間を有効に使えば自分自身への投資になるので、そこで大きな差が生まれていくのではと感じています。
河田 僕も今、投資しています。週に1回、大学院に通っているんです。2020年に東京でオリンピックが開催されますし、日本のスポーツ界をどうにか盛り上げたいと思っていて、スポーツビジネスの修士課程を学ぶことはその近道になるかなと。ものすごく宿題が出るんですよ。
 やっぱり努力することが大好きなんですね。
河田 シーズンが始まるとめちゃくちゃ忙しくて、通うのは本当に大変で“嫌だなあ”と思う半面、めちゃくちゃ面白くて魅力的なんです。ドM以外の何者でもないですね(笑)。
 実は、ビズリーチはもともとボランティアで集まってくれた創業メンバーとつくった会社でした。“草野球”ってありますよね?  仕事をしながら、週末などの空いた時間に野球をやる。
それと同じように“草ベンチャー”は、本業の仕事をしながら、平日の夜や週末の空いた時間にベンチャーを始める。1週間は168時間あるわけで、そのうち何時間会社で働いていて、何時間寝ているのか、と。それ以外の時間を何かに投資する。本業の仕事をしながらでも、自分がやりたいことを始められると思います。
これからの日本では、自分のキャリアに責任を持つことが必要です。つまり、“株式会社自分”の経営者という意識です。マーケットを見ながら、自分のスキルや知識はどれだけ価値があるのか、これから何を身に着けていけばいいのか。時代は急速に変わっているので、自分自身を柔軟に変えていかない限り、今はよくても5年後にそのスキルは通用しなくなる……ということが起こり得ます。
だからこそ自分のキャリアを会社に任せるのではなく、“株式会社自分”の経営者として定期的にキャリアの診断をする必要があると思います。
河田 そのお話はすごくよくわかります。以前、リクルートの常務をされている本原(仁志)さんが、「“自分が経営者だったらどうするか?”と考えながら営業しなさい」とおっしゃっていたことを思い出しました。その根底には、常に経営者マインドを持つべきだというフィロソフィーがあったように思います。
 リクルートの以前の社訓に、「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というものがありますが、まさに河田さんそのものですね。
河田 僕自身は自分の好きなことをやっているだけです。それが自分にとっての幸せなので。なかなか自分の好きなことを突き抜けてやれている人は多くないと思います。
そういった意味では、自分はとても恵まれていると思いますね。ただ本当にやりたいことがあるのならば、時間やお金を使ってでもやるべきかな、と。
 私自身は「楽しみたい!」と、それだけです。特に“これがやりたい”というものがあるより、目の前にある社会課題に対して、事業を通じて解決していきたい。それによって自分のみならず、一緒に働いている仲間も、その周りにいる家族も幸せになって、結果的に社会が幸せになったら、自分にとっては最高です。
その瞬間、その瞬間で自分の思い描いた事業をつくれるように、仲間が集まってこられるように、しっかりと成果を出せるように準備していく。時代に合わせて学び続ける、変わり続けていくことが、私にとっての「働く」ということです。
大事なのは、自分自身の「幸せの定義」を明確にすることだと思います。“何のために働くんだっけ?”と考えれば、それは幸せのためですよね。人によって「幸せの定義」は違うでしょうから、一人一人の中でそれがより明確になっていくと、日本社会がより成熟していくのではと感じています。
(構成:野口学、撮影:中島大輔)