スペースXとテスラの創業者が、複雑な問題をシンプルなソリューションに変える秘訣。それは「第一原理思考」だ。

複雑な問題で絶対確実なことを考える

ロケット科学者ではない人間が、宇宙分野の一流民間企業を立ち上げるにはどうすればいいだろうか。あるいは自動車業界の経歴を持たない者が、電気自動車をメインストリームに押し上げるにはどうすればいいだろう。
イーロン・マスクが触れるものなら、なんでも金に変わるように見えるかもしれない。だが、マスクの比類のない活力と野心的な目標の裏にあるのは、シンプルな思考戦略──「第一原理思考」(first principles thinking)だ。
第一原理とは、ほかのものから推論できない命題(基本的前提)のことだ。つまり、ある複雑な問題に関して、絶対に確実だとわかっていることがそれにあたる。
第一原理思考は、複雑な問題(たとえば、安価な宇宙ロケットや電気自動車など)の分析でこれ以上ないほどの効果を発揮する。
人類を火星へ送る計画を追求しようとマスクが決意したとき、最初にわかったのはロケット1台を購入するのに最大6500万ドルの費用がかかることだった。
そこでマスクは問題を別の枠組みで捉えなおし、「手ごろな値段のロケットを見つける」のではなく「ロケットをそれほど高価なものにしている要因は何か」を考えることにした。

ロケットの打ち上げ費用を10分の1に

「私には、物理学的な枠組みでものごとにアプローチする傾向がある」とマスクは『ワイアード』のインタビューのなかで語っている。
「物理学が教えてくれるのは、類推ではなく第一原理をもとに理屈を考えることだ。だから私は、こんなふうに考えた。
よし、第一原理を見てみよう。ロケットは何でできているのか。航空宇宙グレードのアルミ合金と、若干のチタン、銅、炭素繊維だ。
それから、こう考えた。これらの材料の商品市場での価値はどれくらいか。その結果、ロケットの材料費は、一般的な価格の2%ほどだということがわかった」
もちろん、労働力の問題もあるし、部品の組み立て方を知る必要もある。だが、マスクはそうした複雑な問題にもひるまなかった。そして数年のうちに、利益を維持したまま、ロケット1台の打ち上げ費用を10分の1近くまで削減した。
マスクは第一原理思考を駆使して、ロケット製造を基本的な部品──絶対に確実だとわかっている要素──に分解し、そこからどうすればより効率的にロケットを製造できるかを検証したのだ。

「脱構築と再構築」の継続的プロセス

第一原理思考は、単に大きな部分をひとつひとつの要素に分解するものではない。この思考のポイントは、自分のつくっているものに対する先入観を取り除くことにある。
その意味では、継続的改良とは対極にある。すでに存在するものの上に構築するのではなく、アイデアを基本要素に分解し、別の方法で問題を解決するにはどうすればいいかを考える思考だ。
つまり「脱構築と再構築」の継続的プロセスと言える。
歴史に残る革新的なアイデアの多くは、ものごとを第一原理に分解し、より効果的な解決策に置き換えることから生まれている。たとえば印刷機は、ワインをつくるときに使うブドウ圧縮機を改造して生まれたものだ。
第一原理思考を活用すれば、つくろうとしているものの「形」にとらわれるのではなく「機能」に注目し、目的達成に向けた完璧な最善策を見つけ出すことができる。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jory MacKay/Writer, editor, and marketing consultant、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:© 2018 Bloomberg L.P)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.