【求人掲載】“死ぬ辞め”ができない日本を「産業医」というアプローチで変えていく

2018/1/12
「フツーの人が真面目に働きすぎただけでも死ぬ」──どう考えても、異常な社会。働きすぎて精神のバランスが崩れ、自殺しかけた実体験をつづった汐街コナ氏のエッセー漫画『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由』がベストセラーとなり、TVや新聞でも話題になっている。死んでしまうか、死にそうになりながら働くか。どちらを選んでも地獄……。「まだ大丈夫」「もう大丈夫じゃない」の境界線とは何か? 汐街氏に当時を振り返っていただきながら、そんな状況を水際でせき止めてくれる「産業医」の存在について、Avenir代表・刀禰真之介氏と語ってもらった。

電車に飛び込みかけて気づいた“自分の限界”

──漫画で描かれている当時の働き方を振り返ってみて、“自分の限界”に気づくにはどうしたらよいと思いますか?
汐街:今から結構前ではありますが、私自身、超ブラック企業に勤めていました。
100~200時間残業してナンボというデザイン会社で、上司は300時間も平気で残業するような……。
そういう働き方が会社として当たり前で、上司も悪気じゃなくて「鍛えてやろう」という善意で同じような働き方を強いる、一種の「善意のパワハラ」もあったんだと思います。
そんな職場で、自分の限界をとうに過ぎた状態で働き続けていたある日、死ぬつもりではなく「明日会社に行かなくていい」という思いで目の前の電車にうっかり飛び込みかけました。
正常な判断力を失いかけていたんです。
そのときのエピソードを交えて描いたこの本は、2017年4月に出版されました。
2015年に起きた電通の過労自殺事件以降、働き方改革が必要という流れが続いていますね。ちょうどそのタイミングで出版されたので、世間の人の興味を非常に集めたんだと思います。
刀禰:こういう状態の方、悩みを抱えている方はまだまだ多いですね。そういう意味でこの本は、心の描写がよく描かれていると思いました。
汐街:私は飛び込みかけた段階で会社を辞めようと思えたわけですが、その前段階でめまいや腹痛など若干の不調がありました。
本当に限界を迎えてしまう前に、体調不良や不眠、食欲不振など、心よりも体に変調が起きた場合は「普通の健康状態ではない」と自覚を持った方がよいと思います。
刀禰:そうですね。自分を守るためにも、“食う・寝る・遊ぶ”に変化があったときには「危ない可能性があるかも」と考えておいた方がいいと思います。

「産業医」に抱く世間のイメージとは

――50人以上の事業所に義務付けられている産業医ですが、存在はご存じでしたか?
汐街:その超ブラック企業から転職した先の会社で初めて知りました。実際にカウンセリングを受けたこともありますが、話をちゃんと聞いてくれるものの「それは大変ですね」「病院行った方がいいですよ」だけで終わってしまった……というのが正直な感想です。
刀禰:産業医の仕事は、診断することではなく、「気づきを与えること」が一番の仕事なんです。ですので、状態を診て、病院を勧めるという誘導は間違ってはいません。
「“食う・寝る・遊ぶ”に変化があったときには相談に来てください」というフローを作ること、ストレスチェックの有効活用、社員レベルのセルフケアをしっかり行いましょうというのが理想ですが、実施できている産業医が残念ながらまだまだ少なすぎるんです。
ですから、そういったことができる産業医をご案内するのが我々の役割だと考えています。
それを実現するために大事なのが「標準化」です。我々は独自の育成・共有システムによって産業医のスキルを標準化していて、メンタルヘルス対応、コンプライアンス対応、ストレスチェック対応と、ニーズに合わせてご紹介しています。
ストレスチェックは活用できていない企業も多いので、セミナーも積極的に行っていますよ。
汐街:私が当時勤めていたデザイン会社は40人前後の規模でした。もしそういった産業医が会社にいて働きかけてくれていたら、吐き気が出た時点で休みを増やすとか、もう少し早く働き方を考えることができたかもしれませんね。
刀禰:最近は50人未満の会社のニーズが増えています。時代が変わり、IT業界やクリエイティブ系の会社からは特に問い合わせが多いですね。
汐街:ただ、産業医がいる場合でも、「会社の味方なのでは」と思っている方は多いと思います。
薬を出したり治療をしてもらえるわけではないので「言ったところで……」と諦めてしまっている方だったり、パワハラで悩んでいても踏み込んだことを話していいものかと心配している方もいるかもしれません。
刀禰:そうですね、産業医のクオリティに左右されてしまうため、全国でそういった状態がまだまだ多いと認識しています。
その中で我々がまず大事にしているのは、社員側と会社側と産業医との関係性をいかに再構築していくかなんです。
面談もいきなり対象者と直接話をするのではなく、まずはマネジャー層から。マネジャーに話を伺い、マネジャーと人事と産業医とで面談してもらうという、いわゆるラインケアの考え方をいま一度行います。
観察して変化を見てもらうことをマネジャー層と一緒にやることで信頼関係を作っていくんです。

リテンション対策にも産業医が活躍

汐街:私がデザイン会社に勤めていた当時、デザイナーなどの人気職は辞めても辞めても人がどんどん入ってきていたんですが、今の時代は人もだんだん少なくなってきていますよね。
刀禰:その通りだと思います。厚生労働省によると、15~29歳の労働力人口は1200万人を下回り、20年間で400万人以上減っています。そのインパクトは非常に大きく、採用が難しくなってきているのが実態です。
成長のために採用ができなければ経営的なリスクですし、採用コストは1人当たり数百万円かかります。昔に比べてすぐに辞めてしまう人も多く、「リテンション」に目を向けている企業が増えていますね。
我々としては、休職率は年間1%を超えると危ないと考え、1%を下回るようクライアントに働きかけています。
また、若手の採用・リテンションだけでなく、管理職にかかるストレスも問題だと考えています。
特に中間管理職は上からも下からもプレッシャーがかかってきますし、40代男性が自殺数が一番多いというデータもあります。
そういった流れを鑑み、自分自身の守り方、部下の変化の気づき方をフォローするのも産業医の役割なんです。
汐街:昔は管理職には残業代がつかないというところが多くて、その結果労働時間を管理していないという会社も結構ありましたが、今はもうなくなってきているんでしょうか?
刀禰:そうですね、管理職であれ労働時間を管理しなくてはいけません。そして、ストレスを少しでも減らすためにも、「自分でどうしたらいいか分からなかったら、早く人事と産業医に任せてください」というフローを作るのが一番重要になってきます。
そういったサポートをしていくのが、我々の会社のミッションだと考えています。

Avenirが掲げる「コンサル型産業医」とは

──今の時代、産業医には何が大切だと考えていますか?
刀禰:一番重要視しているのは、一般社会で信頼されるような人格の持ち主かどうかです。経営・人事・社員サイドとバランスよく、どこからも信頼を得なければいけませんので、しっかりと面談をして判断しています。
登録いただいている先生としては、産業医専門医かその上位資格「労働衛生コンサルタント」を持つ先生、もしくは産業医をキャリアとして構築する意思をお持ちの先生です。

「産業医」の需要と今後の展望

──産業医の存在は今後ますます重要になってくるのでしょうか?
刀禰:働き方改革の法案を見ても、産業医のパワーや権限が増していく形になっているので、「働く人一人ひとりがちゃんと長く働ける環境を作る」ということを国もしっかり考えていると感じています。
汐街:会社の経営方針や人材育成、会社の長期的計画の中でメンタルケアを含めたヘルスケアが重要視されていくと考えると、産業医の先生たちを単に派遣するのではなくて、方向性を示し育てていくというビジネスはとても素晴らしいですね。
こういった流れはまだまだ都心部だけとのことですが、地方の企業や従業員が30~40人程度の中小企業などにも、今からは結構早い流れで広がっていくとお考えですか?
刀禰:思っている以上に早いかもしれませんね。弊社への新規の問い合わせ数も前年の10倍と急増しています。そういった産業医の需要が高まる中で、「産業医の確保」が一番難しいのではと思われるかもしれませんが、そこには絶対の自信を持っています。
医師向けマーケティング支援を手掛けるMiew(Avenirの母体)のほうで医師15万人以上(全国の医師約30万人の半数)にリーチできるネットワークを保有しているので、その登録の中から産業医に適した先生にお願いすることができるんです。
汐街:産業医という仕組みがありながら助けてもらえないという人がまだまだ多く、本人と会社の双方の損失につながっていると思います。
しかし、御社によって産業医のシステムがもっと活用されると、どちらにもよい結果になるのではと可能性を感じました。
もちろん過労死を防ぐことが第一ですが、その結果、会社の成長にもつながっていくと非常によい循環になると思います。
ぜひ中小企業にも産業医が入るのが当然のような世の中になってほしいですね。
刀禰:当社では、働き方に対する問題意識のある25歳の営業が大活躍しています。そうした意識だったり、メンタルヘルスがより社会をよくしていくということに共感できる方であれば、業界に近い経験がなくても、若手がイキイキ活躍できる環境なので、ぜひ当社にジョインしてほしいと思っています。
ちなみにうちは50人未満の会社ですが、産業医が実際にいて社員たちが「こういうものなのか」と実感しながら仕事に当たっています。
そして、会社として掲げているのは「メンタルケア・予防のデファクトスタンダード」というポジショニング。
2020年の東京オリンピックイヤー前後までには、そういった会社だと認知していただいて、皆さんのお役に立ちたいと考えています。
(編集:奈良岡崇子 構成:沼畑俊 撮影:尾藤能暢)