【佐々木紀彦】ポスト平成を彩る「3つのメガトレンド」
2018/1/1
みなさま、新年あけましておめでとうございます。新年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
2018年は明治維新150周年であり、実質的に平成の最終年となります。ひとつの時代の終わりと始まりを至るところで実感する1年になるはずです。
では、ポスト平成はどんな時代になるのでしょうか。
「若者の時代」「教育の時代」「攻めの時代」──3つの視点から予測を述べます。
(1)「おじさん中心社会」の終焉:若者の時代に
今、日本の企業社会で起きている問題──その多くは、「おじさん中心主義」から生じています。
長時間労働、不毛な上下関係、男女差別、テクノロジーへの対応の鈍さなど、時代に合わない文化が温存されているのは、企業社会が“おじさん仕様”で形作られているからです。
しかし、ポスト平成が間近に迫る中、「おじさん中心主義」は急速に色あせていくはずです。なぜなら、「おじさん中心主義」から脱却できない業界・企業は、有為な人材を採用できなくなるからです。
2017年12月、アナリストで小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソンさんとイベントで対談した際、彼がこんな予測を述べていました。
「2050年までに、180万社ぐらいの企業が消えると私は思っています。結局、人がいないからです。上の世代が引退していっても、新たにその会社に行く人がいないんですよ」
(撮影:大隅智洋)
「その意味でも、今後は若い人たちの時代なんです。労働人口が減って日本経済に打撃があれば、資本家や経営者は泣くかもしれませんが、若い労働者にとっては素晴らしい時代が来るはず」
この予測に深く頷きました。
今後、若者の人口に占めるシェアは減りますので、政治的には影響力が下がるかもしれません。
しかし、経済的にはそうとも言えません。
需要面では「若い人は少ないので、上の世代を重視しよう」となるかもしれませんが、供給面(採用面)では、「若者こそ神様」になるでしょう。若くて、デジタルネイティブで、時代の流れに適応しやすいことが絶大な価値になるのです。
より希少な若者をめぐって(日本の20、30代の人口は、2015年の約2800万人から、2030年には約2340万人へと500万人近く減少する見込み)、企業の争奪戦がより一層加熱するはずです。
若者が急減するポスト平成の時代は、たとえ景気が後退しようとも、若者の雇用ニーズは恒常的に高くなる(写真:AP/アフロ)
つまり、日本経済の重点が、需要サイドから供給サイドにシフトするにつれ、働く人の価値、とくに若者や女性の価値が飛躍的に上がるということです。
優れた企業、経営者は、こうした時代の流れを敏感に察知し、「おじさん中心」のシステムにいち早くメスを入れるでしょう(残業禁止などの表面的な改革でなく、より本質的な変革です)。
逆に、「おじさん中心主義」のまま変われない業界・企業は、若者や女性にそっぽを向かれて、急激に過疎化していくでしょう。20代の若者の離職率が高く、女性に人気のない企業は消滅の危機を迎えるはずです。
ポスト平成時代に起きるひとつの流れは、おじさんに対する若者や女性の下克上なのです(そして、社会的にはおじさんへのケアに注目が集まり始めるでしょう)。
(2)新しい時代には新しい人材: 教育の時代に
若者の価値が高まる。それはすなわち、育成や教育の重要性が高まるということでもあります。
先日、落合陽一さんに「なんで寝る間もないほど忙しいのに、学生の教育に力を入れるんですか」と質問したところ、こんな答えが返ってきました。
「僕が今もっとも投資をしているのは、明らかに学生ですよ。当初は5年間で50人を育てることを目標にしていたのですが、今は4,5年で最大100人まで育てようと思っています。もし落合マフィアが100人育てば、とがった変な人間が社会に溢れることになる。その人たちが生む資産価値や市場価値は異常に大きくなるはずですよ」
落合さんには1月末発売の『
日本再興戦略』の中で、日本のグランドデザインをたっぷり語ってもらっていますが、「教育して仲間を作らないとグランドデザインを実行することはできない。時代の変革は教育から始まる」という強烈な信念があるのです。
落合さん曰く「時代の転換期においては、学生を育てるほうが早いですし、効果的。だからこそ僕は、世間の投資家が学生には見向きもしない中、学生を投資価値があるところまで育て上げることに意味を感じているのです」。
落合さんの言葉を聞いて、私は「なぜ福沢諭吉が慶應義塾をつくったか」が腹から理解できた気がしました。
新しい時代が到来しようとしている。これから日本が繁栄するには、新しい時代に通用する「実学」を身に付け、社会の先導者にふさわしい「智徳」と「気品」を備えた人材を育てないといけない。そのためには、江戸時代のモデルが心身にこびりついたサムライを再教育するよりも、野心ある若者を一から教育したほうが早いし、社会へのインパクトがでかい。
きっと福沢諭吉はそう考えたのではないでしょうか。
西洋の最新事情を知るべく、咸臨丸で渡米した福沢諭吉。サンフランシスコで写真屋の令嬢とツーショット写真を撮影した(Photo by Kingendai Photo Library/AFLO)
現代においても、落合さんに限らず、未来を見通している人、責任感のある人ほど、教育・育成に時間を割くようになってきています。
以前は、「教育者=現役引退した人」という印象もありましたが、今後は現役バリバリの人こそ、教育・育成に突き進むはずです。
ポスト平成の時代は、事業家と教育者の境目がなくなって、「教育者としての事業家」になれるリーダーが、各界の新たなかたちをつくっていくのではないでしょうか。
ただ、教育者と言っても、偉そうに自分のノウハウを語る古い手法ではありません。自ら実践者となり、誰よりも多くの失敗と成功を繰り返し、そのエッセンスを言葉と背中で伝えていく。そんな戦国武将のようなプレイングマネージャー型の教育者となるはずです。
(3)カギは「攻めのシステム化」:攻めの時代に
2017年末にIGPI(経営共創基盤)の塩野誠さんとの共著で『
ポスト平成のキャリア戦略』という本をつくりました。
この本をつくった最大の理由は、「仕事ができる人の定義が変わったことに気づいてない人が多い。ポスト平成に求められる人材像は、昭和や平成と大きく変わることを、20、30代のみなさんに伝えたい」と思ったからです。
要点を述べれば、「事業創出ができる人。新しいシステムを創れる人こそが、ポスト平成の仕事ができる人であり、守りの力より、攻めの力のほうが価値を増す」ということです。
そんな時代にまず大事なことは、徹底して個を磨くことです。
カギを握るのは、最先端と普遍の引き出しの多さです。
これからの時代は、とにかく変化率が大きくなります。だからこそ、時代を超えた普遍性を捉えるとともに、大きく動く時代を敏感に察知しないといけません。「最先端×普遍」が活きやすい時代なのです。
私が心底すごいと思うクリエーターに映画プロデューサーの川村元気さんがいます。『君の名は。』などヒット作を連発しており、今回、東京オリンピック開閉会式のプランニングチームにも選出されました。
川村さんは企画を考える際に「普遍性×時代性」の組み合わせをいつも意識するそうなのですが、この法則は、あらゆる領域に生かせます。
歴史、他分野、他国の事例、データなど、普遍性のストックをとにかく増やす。そのうえで、時代性をつかむために、心身をフル回転して、今と言う時代を感じる。この最先端と普遍の引き出しをどれだけ持っているかが、個の「創出力」を決定づけるように思います。
そして、個を磨くと同時に、「攻め」を組織化する、個の力を増幅させる仕組みをつくれるかが勝負です。
「攻めは才能」とも言われますが、攻めもシステム化は可能なはずです。
そのひとつのヒントになるのがサッカーです。サッカーでも、守備はシステム化が進んでいますが、攻めは個人の才覚に任されるケースが大半です。現在の日本代表はその悪しき例であり、個の強い敵と対すると、打ち手がなくなってしまいます。
そんな中、攻めの仕組化に挑んでいるのが、現在、FC今治でオーナーを務める岡田武史・元日本代表監督です。岡田メソッドを「攻め」でも確立しようとしているのです。
「特に今注目しているのは、アタッキングサードの部分。ここの崩し方というのは世界を見渡しても見当たらない。攻撃の3分の1の部分は、選手に任せてしまっている。だから我々としてはこの部分の崩し方を確立したい」(『サッカー批評 issue88』23ページより)。
世界でこのチャレンジに先んじて成功したのが、英国プレミアリーグ、マンチェスター・シティ監督のジョゼップ・グアルディオラです。
緻密な理論によって、現代サッカーを異次元へと導いたグアルディオラ。ビジネスに対する示唆も大きい(写真:AFP/アフロ)
強い個と、秀逸な仕組みが一体化した攻めはもはや別次元。リーグ戦も無敗で首位を独走しています。
ビジネスの領域でも、どうすれば優れた事業が次々生まれて、事業家が育っていくか。そこを考え抜き、仕組化し、実践に成功した会社が一人勝ちしていくはずです。森岡毅さんがUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)で実践した仕組化と、その成功はいい例です。
みなが学ぶ時代
若者の時代、教育の時代、攻めの時代。一言で言うと、若く、学び、攻める人が輝く時代が到来するということです。
もちろん、チャンスがあるのは若い人だけではありません。若い心を持ち、学び続ける意志を持ち、後進を育てられる人も躍動するはずです。
ポスト平成は、幼児から若者から大人からシニアまで、みなが学ぶ時代になります。向学心、好奇心さえ失わなければ、何歳でも、自らのOSを入れ替え、新しいアプリを搭載することは可能です。
そんな時代においては、内から湧き出る「知への欲」を掻き立てられるかが、人生の価値を大きく左右するでしょう。
2018年は、NewsPicksがみなさんの学びの場としてお役に立てるよう、さらに磨きをかけていく所存です。そして、NewsPicksも私自身も、過去に生きる「おじさん」になってしまわないよう、未知の領域に昨年以上に挑んでいきたいと思います。
(バナー写真:gong hangxu/istock.com、デザイン:星野美緒)